「意思あれば道あり、あきらめないで」日本初の女性旅客機機長が講演
JALの藤明里機長、エアショーでダイバーシティーを語る
「正直に自分の無知を認めることが大切だ。そうすれば、必ず熱心に教えてくれる人が現れる」
当時、自社養成でもなく、航空大学校出身でもない女性パイロットは初めてでしたので、珍しい動物か何かのように思われました。私の中では、男女は平等だと思っていたのですが、社会的には良くも悪くも男女の差があることを、副操縦士時代に知ることになります。
副操縦士への昇格試験では、社内検査官の最初の質問が、「機長になる気持ちはあるのか」でした。「機長ですか?もちろんなりたいです」。私は即答し、変なことを聞く検査官だなあと思っていました。副操縦士として機長を目指すのは当然のことと考えていたからです。後に、検査官は「女性は結婚して子どもができたら仕事をやめる、あるいは機長を目指すのをあきらめるのではないか」と心配していたことが分かりました。
それから約10年間、副操縦士の期間が続きました。いわゆる「男性優位社会」の職場は覚悟していたものの、本当に大変でした。男性と同じミスをしても大げさに言われたりします。また、中には、女性が入ってきたことでプライドに傷がつき、感情的になる人も現れます。
たとえば、初めてお会いしたある機長には「おお、君か、ラダーペダルに足が届かない副操縦士は」と言われたり、別の機長には「いまがやめ時だよ。パイロットも経験したんだし、結婚もできたんだから」とまで言われました。
このように何か言われるたび、夫や友人に話を聞いてもらい、ストレス解消をしていました。当初は「不公平な扱いだ」と受け入れることができませんでしたが、じきに「セクハラだと気にするよりは、自分のペースでやるべきことをこなしていこう」と開き直りました。仕事を確実に遂行することで、周囲から徐々に認められていくだろうと思ったのです。
「正直に自分の無知を認めることが大切だ。そうすれば、必ず熱心に教えてくれる人が現れる」。ウォルト・ディズニーの言葉です。自分が変わると周りの人の対応も変化します。
機長への昇格訓練に入った時には、細心の注意を払いました。なぜなら、日本で初めての女性機長になるかもしれないので、会社や、一緒に働く仲間たちも大きな期待をもって応援してくれた一方、中にはおもしろくないと思う人もいて、少しでも失敗すれば、そこをつつかれてしまうからです。しかし実際には、素直に、前向きに取り組めば、結果はついてくるということを知りました。「意思あれば道あり」。難しいこと、辛いことから逃げなければ、答えは見えてきます。
機長になってからも、学ぶことばかりです。フライトは男性、女性の操縦士どちらとも一緒にしますが、男女の能力はまったく変わりません。女性であることの利点をあげるとすれば、話しやすい雰囲気を作れることでしょうか。グランドスタッフやキャビンアテンダント、コックピット・クルーまで、あらゆる場面での会話を、男性より女性の方がスムーズに進められるのではないかと感じています。機長という仕事は、人の話を聞き、状況を判断し、決断を下すことです。
ですから、話しやすい雰囲気作りは、ストレスを軽減し、機長としてもさまざまな情報を得ることになり、チームの成功にもつながると考えています。
もちろん、男女で、身体的な特性に違いがあることは、理解しなくてはなりません。最も大きな違いは、妊娠や出産でしょう。私には子どもがいませんので、想像でしかお話することができませんが、私ですら、日々のフライト・シミュレーターチェック、ラインチェックや諸規定の改訂など、大変な仕事だと感じています。出産休暇や育児休暇で何年か仕事をお休みした女性が、子育てをしながら日々の職責を果たすためには、相当の努力を要すると思います。よって、周りの協力も不可欠となります。
では、パイロットの仕事は女性には向いていないのでしょうか?そんなことはありません。ご存じのように、男女を問わず、また私のように背の小さな人でも、パイロットにはなれます。
2015年1月のブリティッシュ・エアウェイズの調査「なぜ女性は空を飛ぼうとしないのか?」によれば、日本のみならず世界でも、エアライン・パイロットは女性のできる仕事として認識されていないようです。
航空業界において、女性である私たちが次にすべきことは、与えられた職務を責任を持って遂行する、ということだと思います。先ほど申したように、建前では男女平等のはずが、同じミスをするとどうしても女性のほうが強調されがちです。また、女性は家族ができると、そこに多くの時間を取られるので、仕事でも不利だと見なされます。会社は1人のパイロットを育てるのにたくさんの時間とお金をかけるので、より退職の可能性の低い男性を多く採用するのです。
しかし、先ほども言いましたように、男女の能力は同じなのです。自分に割ける時間が違うだけなのです。だからこそ、配偶者などのパートナーの協力、会社の協力、何よりもその女性自身の努力があれば、男女同じ条件の下に能力を発揮できると考えます。
私たち女性が働くことにより、社会に利益をもたらすと思わせることができれば、みんなの意識も変わります。時間も、努力も必要ですが、変えられると信じています。
ありがとうございました。
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(スピーチは英語、ニュースイッチにて仮訳)
藤明里(ふじ・あり)1999年ジャルエクスプレス(現JAL)入社。00年に副操縦士となり、10年には日本初の女性機長に昇格。14年、JALとジャルエクスプレスの統合に伴い、JAL機長。1968年生まれ、東京都出身。
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