温暖化交渉、主役は“非国家主体”へ
存在感は薄い日本、COP24で何を発信する?
2018年も企業、自治体、非政府組織(NGO)が温暖化交渉を主導する。彼らはノンステートアクター(非国家主体)と呼ばれ、気候変動枠組み条約締約国会議(COP)でも、役割が認められている。12月開催のCOP24(ポーランド)でパリ協定の運用ルールが決まる。人類史に刻まれる重要な会合で、日本のノンステートアクターは存在感を示せるのか。
17年12月、フランス・パリで気候変動サミットが開かれた。パリ協定の誕生地で、温暖化対策への決意と結束を再確認しようと仏マクロン大統領が呼びかけ、日本を含む55カ国の首脳級が集まった。
だが、主役は“国家”ではなかった。仏保険大手アクサは石炭関連企業から24億ユーロの投資を撤退すると表明。米資産運用会社ブラックロックは120社に対し、気候変動が与える経営リスクを開示するように要求。225の機関投資家は100社に温暖化対策を迫った。投資撤退、リスク開示、温暖化対策を要請された企業に日本企業も含まれていた。
また、仏ミシュランなど54社の企業連合は政府に対し、二酸化炭素(CO2)排出量に応じて課金するカーボンプライシング(炭素の価格付け)制度の導入を求めた。日本では産業界が強く反対するが、連合にはダイキン工業やエプソン欧州子会社も加わった。
気候変動サミットの主役は金融業界だった。自然災害が多発し、保険金の支払いが増えると保険会社は経営が圧迫される。天候不順で原材料の入手が困難になって投資先企業の事業が立ちゆかなくなると、投資家は損を被る。金融業界は気候変動を経営リスクと認識し、行動を起こした。
「COP限界説」がささやかれるほど国家間交渉は難航し、議論が進まなくなっている。代わって国際交渉の主導権を非国家主体が握るようになった。パリ協定を採択したCOP21にはユニリーバ、イケアなどのCEOが集結し、次々に脱炭素支持を表明。今世紀後半に温室効果ガスの排出量と吸収量を一致させる脱炭素目標を、パリ協定の条文に盛り込む機運を醸成した。
地球環境戦略研究機関(IGES)の田中聡志プリンシパルフェローは17年12月のシンポジウムで「マーケットを考えている人の協力がないと温暖化対策のルールは動かない。非国家主体の参加は当然なこと」と語った。
非国家主体は動きも速い。トランプ大統領が17年6月、パリ協定離脱を表明した直後、米企業、大学、州、都市が「WE ARE STILL IN(我々はパリ協定に留まる)」とメッセージが掲げられたウェブサイトに名を連ねた。1カ月後には1600社・団体に急拡大し、現在は2500社・団体を超えた。
日系では東芝テック子会社の名前もある。CO2排出削減はエネルギー使用の制約となるため、企業は高い削減目標を設定しないように政府にロビー活動をするのが普通だった。今は逆となり、厳しい規制を求める企業が増えた。高い目標であるほど、低炭素機器の市場が広がるからだ。欧米企業は気候変動をビジネス機会と捉え、経営戦略として脱炭素を要求する。
日本でもCO2排出ゼロのような高い目標を掲げる企業が増えてきた。ただ、経団連などの業界団体は厳しい目標設定に慎重だ。
「急激な変化に対応できない企業が業界内にいるから」と仲間をかばう意見が聞かれる。一方で、高い目標を掲げた企業幹部は「業界団体の代表として発言する場には出席しない」ときっぱりと言いきった。会社を背負う以上、“二枚舌”と思われるリスクを避けるためだ。ただ、海外に出ると立場の使い分けは通用しない。17年11月のCOP23で日本企業の訪問団は、NGOなどから厳しい質問を受けた。国内に約40基の石炭火力発電所の増設計画を抱えるためだ。NGOから「なぜ、企業が石炭火力に反対しないのか」と責められる場面もあった。
欧米企業は自らに有利なルールになるように、率先して脱炭素を訴える。一方の日本企業は「技術力は高い」と自信を持ちながらも発信力で劣る。COPに参加しても情報収集が中心のようで、存在感が薄い。
パリ協定の運用ルールが決まる12月のCOP24は、国際交渉の議論の大きなヤマ場となる。中川雅治環境相も「重要な会議となる。企業、自治体、NGOのあらゆる主体の取り組みが必要」と語る。
日本政府は50年までの長期削減戦略を提出できるかがポイントとなるが、政府内の議論が停滞している。中川環境相は「18年度の早い段階で検討できるように、政府内で調整していきたい」とする。難航するとCOP24には間に合わない。
すると日本企業がCOP24に参加しても「環境対策に消極的な国の企業」として風当たりは強まり、国際競争で不利となる。政府の方針、業界団体の立場にとらわれず、積極的に発言しないと日本企業はますます埋没する。COP24では、日本の非国家主体からの力強いメッセージが期待される。
(文・松木喬)
17年12月、フランス・パリで気候変動サミットが開かれた。パリ協定の誕生地で、温暖化対策への決意と結束を再確認しようと仏マクロン大統領が呼びかけ、日本を含む55カ国の首脳級が集まった。
だが、主役は“国家”ではなかった。仏保険大手アクサは石炭関連企業から24億ユーロの投資を撤退すると表明。米資産運用会社ブラックロックは120社に対し、気候変動が与える経営リスクを開示するように要求。225の機関投資家は100社に温暖化対策を迫った。投資撤退、リスク開示、温暖化対策を要請された企業に日本企業も含まれていた。
また、仏ミシュランなど54社の企業連合は政府に対し、二酸化炭素(CO2)排出量に応じて課金するカーボンプライシング(炭素の価格付け)制度の導入を求めた。日本では産業界が強く反対するが、連合にはダイキン工業やエプソン欧州子会社も加わった。
気候変動サミットの主役は金融業界だった。自然災害が多発し、保険金の支払いが増えると保険会社は経営が圧迫される。天候不順で原材料の入手が困難になって投資先企業の事業が立ちゆかなくなると、投資家は損を被る。金融業界は気候変動を経営リスクと認識し、行動を起こした。
「COP限界説」がささやかれるほど国家間交渉は難航し、議論が進まなくなっている。代わって国際交渉の主導権を非国家主体が握るようになった。パリ協定を採択したCOP21にはユニリーバ、イケアなどのCEOが集結し、次々に脱炭素支持を表明。今世紀後半に温室効果ガスの排出量と吸収量を一致させる脱炭素目標を、パリ協定の条文に盛り込む機運を醸成した。
地球環境戦略研究機関(IGES)の田中聡志プリンシパルフェローは17年12月のシンポジウムで「マーケットを考えている人の協力がないと温暖化対策のルールは動かない。非国家主体の参加は当然なこと」と語った。
非国家主体は動きも速い。トランプ大統領が17年6月、パリ協定離脱を表明した直後、米企業、大学、州、都市が「WE ARE STILL IN(我々はパリ協定に留まる)」とメッセージが掲げられたウェブサイトに名を連ねた。1カ月後には1600社・団体に急拡大し、現在は2500社・団体を超えた。
日系では東芝テック子会社の名前もある。CO2排出削減はエネルギー使用の制約となるため、企業は高い削減目標を設定しないように政府にロビー活動をするのが普通だった。今は逆となり、厳しい規制を求める企業が増えた。高い目標であるほど、低炭素機器の市場が広がるからだ。欧米企業は気候変動をビジネス機会と捉え、経営戦略として脱炭素を要求する。
日本でもCO2排出ゼロのような高い目標を掲げる企業が増えてきた。ただ、経団連などの業界団体は厳しい目標設定に慎重だ。
「急激な変化に対応できない企業が業界内にいるから」と仲間をかばう意見が聞かれる。一方で、高い目標を掲げた企業幹部は「業界団体の代表として発言する場には出席しない」ときっぱりと言いきった。会社を背負う以上、“二枚舌”と思われるリスクを避けるためだ。ただ、海外に出ると立場の使い分けは通用しない。17年11月のCOP23で日本企業の訪問団は、NGOなどから厳しい質問を受けた。国内に約40基の石炭火力発電所の増設計画を抱えるためだ。NGOから「なぜ、企業が石炭火力に反対しないのか」と責められる場面もあった。
欧米企業は自らに有利なルールになるように、率先して脱炭素を訴える。一方の日本企業は「技術力は高い」と自信を持ちながらも発信力で劣る。COPに参加しても情報収集が中心のようで、存在感が薄い。
パリ協定の運用ルールが決まる12月のCOP24は、国際交渉の議論の大きなヤマ場となる。中川雅治環境相も「重要な会議となる。企業、自治体、NGOのあらゆる主体の取り組みが必要」と語る。
日本政府は50年までの長期削減戦略を提出できるかがポイントとなるが、政府内の議論が停滞している。中川環境相は「18年度の早い段階で検討できるように、政府内で調整していきたい」とする。難航するとCOP24には間に合わない。
すると日本企業がCOP24に参加しても「環境対策に消極的な国の企業」として風当たりは強まり、国際競争で不利となる。政府の方針、業界団体の立場にとらわれず、積極的に発言しないと日本企業はますます埋没する。COP24では、日本の非国家主体からの力強いメッセージが期待される。
(文・松木喬)
日刊工業新聞2018年1月1日