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国立大の特許出願、半数は“常連”研究者という残念

残り半数は18年間でわずか1件。知財につながる研究の偏り懸念
 文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が国立大学の特許出願数調査をまとめた。浮かび上がるのは、限られた研究者が特許を出願するいびつな構造だ。上位10%の研究者が半数の特許を出願する一方、残り半数の研究者は18年間で1件しか出願していない。全体の出願数は漸減傾向にある。研究の成果が特許に結びつかない分野は多くあるとはいえ、知的財産につながる研究が偏っている懸念もある。

 NISTEPは国立大学からの出願に加えて、企業や技術移転機関(TLO)を通した出願も網羅的に調査した。発明者を名寄せし、発明者住所から大学をたどるなどして、国立大の研究者の発明に基づく特許を特定した。大学法人化前の1995―2003年に出願された特許に関しては、把握できた特許数は約5倍に増えた。国立大学以外を含む網羅調査は初めてだ。

 全体では95―06年にかけて出願総数は増加し、06年のピーク時には5751件を数えた。ただ07年に国立大学への特許関連料金の減免措置が終わってからは、出願数が漸減している。富澤宏之総括主任研究官は「大学の負担が増えたため、07年以降は特許を絞り込む傾向にある」と説明する。

 特許は出願だけで成立せず、審査請求し、査定を通ると成立する。それぞれ出願料と審査請求料、特許料が発生する。出願だけでも他者が技術を権利化して囲い込むことを防げるため、防衛目的で出願されることもある。07年に審査請求率が下がったのは大学が特許料負担を軽減するため、防衛目的の特許は出願のみに切り替えたと考えられる。

 特許査定率は出願数が1000件を超えた99年をピークに下降し、04年を底に再び上昇に転じた。98年にはTLO法が施行され、大学外部の大学承認TLOからの出願が増え、04年の大学法人化以降はTLO事業が大学内部に取り込まれている。07年の出願数絞り込みの前から査定率が上昇し始めているため、知財体制の変更が寄与したようだ。

 また研究者一人一人の出願数を集計すると95―12年の18年間で、3万8626人の研究者が出願していた。この中で出願実績が1件の研究者は2万448人で52・9%を占めた。一方で上位10%の研究者が出願の51・2%を占めていた。富澤研究官は「偏りは大きい」と指摘する。

 この統計に出願実績のない研究者は含まれない。総務省の調査によると、16年度の国立大学の自然科学系研究者数は11万7231人で、04年度の10万3939人より増えている。実際の偏りは、より大きくなると考えられる。

 現状では「特許が成果物にならない分野」と、「成果物になる分野で出願していない研究者」を切り分けることは難しいのかもしれない。特許が特定の研究者に偏り、知財として守られる研究成果は限定的といえそうだ。特許のポートフォリオを構築できる研究者は極一部に過ぎない。

 今後、NISTEPは特許の実用化や技術貿易収支などに調査を広げていく方針だ。
                   

               

(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年12月29日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 大学が出願し実用化に向かっていない死蔵特許を再利用する動きはありますが、特許の半分はどうにも活用しようがないように思います。よほど強力な特許でないと回避されてしまうので、18年間に1件だけで何が守れるのかと思います。一方で、すべての研究者が稼ぐための特許ポートフォリオを作るのは現実的ではないです。  業界の特許マップを把握して、大事な部分を狙って出願している先生は少数で国立大全体でも3000人もいないということなのかもしれません。特許マップを抑えてポートフォリオを構築するには、優秀な弁理士が分野の数だけ要ります。所属大学の体力の差によって新しい技術が死蔵されることになったら残念です。少なくとも自分の研究の新しさを確かめるための出願は投資効果が問われ、もうできなくなると思います。

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