「MRJ」初のキャンセルへ。日本の航空機産業は立ち直れるのか
装備品産業、十分に育っていない
国産初のジェット旅客機「MRJ」が航空会社への納入契約について、初めてキャンセルが出る可能性が大きくなった。MRJとはどんな航空機か、改めて検証する。
MRJは開発当初から高い燃費性能を売りにしている。その切り札が、航空エンジン世界大手の米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)が供給する最新鋭エンジン「PW1200G」だ。
同じ軸で回るタービンとファンの間に遊星ギアを入れる「ギアド・ターボファン(GTF)」方式を採用。軸の回転を減速してファン側に伝え、タービンとファンのそれぞれが最も効率的なスピードで回るようにした。これにより騒音、燃費とも大幅に削減する。
MRJは旅客機としては世界で初めて08年にGTFの採用を決定。その後、カナダ・ボンバルディアや欧エアバスの航空機が採用したほか、MRJと競合するブラジル・エンブラエルも既存機のエンジンをGTFに置き換えることを決めた。
MRJの初飛行の遅れによって、新エンジンによる燃費性能の優位性は薄れた。それでもMRJの燃費の良さの半分はエンジン、もう半分は機体の形状によってもたらされている。
GTFは現行のエンジンよりも空気を取り入れるファンの直径が大きい。このため主翼の下に広いスペースが必要だ。MRJは主翼とエンジン、ナセル(エンジンを覆うカバー)の最適な位置関係を探りつつエンジンを主翼の真下ではなく、機体前方寄りに配置した。ほかにも、機体前方下部の貨物室を機体後部に統合し、他の航空機より細く空気抵抗の少ない胴体を実現。シャープで美しい機体だ。
一方で、装備品は実績のある海外製を多く搭載している。「航空機の頭脳」とも言われる操縦用電子機器(アビオニクス)をはじめ、空調や油圧機器から内装品に至るまで、コストベースで部品の約7割が海外製だ。
こうした海外メーカーは米ボーイングや欧エアバスをはじめ世界の航空機メーカーにも同様の部品を供給、民間機向け装備品市場は寡占化の傾向すらある。日本にはこれらの装備品産業が十分に育っておらず、今後、日本の航空機産業が参入分野を増やしていく上での壁になっている。
現状、国内で完成機を開発しているのはMRJの三菱航空機だけ。それに続く動きは見えてこない。なお、本田技研工業の子会社アメリカ法人が「ホンダジェット」を生産してはいる。
航空機は基本的に分業で製造される。完成機メーカーの代表格であるボーイングやエアバスであっても、すべての工程を自社のみでまかなっているわけではない。通常は、機体の一部を生産する機体メーカーや機体構造メーカー、エンジンメーカー、装備品メーカー、部品メーカー、材料メーカーなどおよそ数千社が分業して一機の航空機が完成する。こうした分業体制に、たくさんの日本企業も参画している。
『航空機産業と日本』の著者、中村洋明氏によれば、完成機を開発・製造する「完成機プログラム」の存在は、航空機産業全体の「成長の原動力」となる。国内にある程度の規模の完成機プログラムがあれば、国内のエンジンメーカーや装備品メーカーなども奮起し、仕事を得ようとしのぎを削るだろうからだ。
航空機は、サイズによって、小さい方からリージョナルジェット機、細胴機(単通路)、広胴機(2通路)の3カテゴリーに分けられる。MRJはリージョナルジェット機だ。広胴機はさらに中型機、大型機、超大型機に分けられるため、通常、航空機はリージョナルジェット機、細胴機、中型広胴機、大型広胴機、超大型広胴機の5種類に分類される。
これらのうち、市場規模がもっとも大きいのは細胴機で、航空機全体の44%を占める。一方、日本企業の参画度合いがもっとも小さい(2~3%)のも、細胴機なのだ。こうしたデータから中村氏は、日本がMRJに続く開発対象と考えるべきは細胴機だと結論づけている。
細胴機はリージョナルジェット機であるMRJより一回り大きいだけだ。しかも、細胴機の最新型であるエアバスA320neoとボーイング737MAX-8は、自衛隊が所有する国産の哨戒機P-1とほぼ同じサイズだという。つまり日本企業は、最新の民間の細胴機と同サイズの航空機を製造する能力を持っているということだ。
中村氏は、細胴機の完成機プログラムを進めるためには、政府が強力にバックアップし、巨額の費用がかかるなどのビジネスリスクを軽減する必要があると主張する。その上で、特定の一社が主導するのではなく「オールニッポン」の新たな組織体を作るのが望ましいとしている。国家ぐるみの体制で航空機の世界市場に名乗りを上げようとしている中国に水をあけられないためにも、一丸となった取り組みが必須ということだろう。
MRJは開発当初から高い燃費性能を売りにしている。その切り札が、航空エンジン世界大手の米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)が供給する最新鋭エンジン「PW1200G」だ。
同じ軸で回るタービンとファンの間に遊星ギアを入れる「ギアド・ターボファン(GTF)」方式を採用。軸の回転を減速してファン側に伝え、タービンとファンのそれぞれが最も効率的なスピードで回るようにした。これにより騒音、燃費とも大幅に削減する。
MRJは旅客機としては世界で初めて08年にGTFの採用を決定。その後、カナダ・ボンバルディアや欧エアバスの航空機が採用したほか、MRJと競合するブラジル・エンブラエルも既存機のエンジンをGTFに置き換えることを決めた。
MRJの初飛行の遅れによって、新エンジンによる燃費性能の優位性は薄れた。それでもMRJの燃費の良さの半分はエンジン、もう半分は機体の形状によってもたらされている。
GTFは現行のエンジンよりも空気を取り入れるファンの直径が大きい。このため主翼の下に広いスペースが必要だ。MRJは主翼とエンジン、ナセル(エンジンを覆うカバー)の最適な位置関係を探りつつエンジンを主翼の真下ではなく、機体前方寄りに配置した。ほかにも、機体前方下部の貨物室を機体後部に統合し、他の航空機より細く空気抵抗の少ない胴体を実現。シャープで美しい機体だ。
一方で、装備品は実績のある海外製を多く搭載している。「航空機の頭脳」とも言われる操縦用電子機器(アビオニクス)をはじめ、空調や油圧機器から内装品に至るまで、コストベースで部品の約7割が海外製だ。
こうした海外メーカーは米ボーイングや欧エアバスをはじめ世界の航空機メーカーにも同様の部品を供給、民間機向け装備品市場は寡占化の傾向すらある。日本にはこれらの装備品産業が十分に育っておらず、今後、日本の航空機産業が参入分野を増やしていく上での壁になっている。
日刊工業新聞2015年11月12日
「オールニッポン」で完成機開発に取り組むべき
現状、国内で完成機を開発しているのはMRJの三菱航空機だけ。それに続く動きは見えてこない。なお、本田技研工業の子会社アメリカ法人が「ホンダジェット」を生産してはいる。
航空機は基本的に分業で製造される。完成機メーカーの代表格であるボーイングやエアバスであっても、すべての工程を自社のみでまかなっているわけではない。通常は、機体の一部を生産する機体メーカーや機体構造メーカー、エンジンメーカー、装備品メーカー、部品メーカー、材料メーカーなどおよそ数千社が分業して一機の航空機が完成する。こうした分業体制に、たくさんの日本企業も参画している。
『航空機産業と日本』の著者、中村洋明氏によれば、完成機を開発・製造する「完成機プログラム」の存在は、航空機産業全体の「成長の原動力」となる。国内にある程度の規模の完成機プログラムがあれば、国内のエンジンメーカーや装備品メーカーなども奮起し、仕事を得ようとしのぎを削るだろうからだ。
航空機は、サイズによって、小さい方からリージョナルジェット機、細胴機(単通路)、広胴機(2通路)の3カテゴリーに分けられる。MRJはリージョナルジェット機だ。広胴機はさらに中型機、大型機、超大型機に分けられるため、通常、航空機はリージョナルジェット機、細胴機、中型広胴機、大型広胴機、超大型広胴機の5種類に分類される。
これらのうち、市場規模がもっとも大きいのは細胴機で、航空機全体の44%を占める。一方、日本企業の参画度合いがもっとも小さい(2~3%)のも、細胴機なのだ。こうしたデータから中村氏は、日本がMRJに続く開発対象と考えるべきは細胴機だと結論づけている。
細胴機はリージョナルジェット機であるMRJより一回り大きいだけだ。しかも、細胴機の最新型であるエアバスA320neoとボーイング737MAX-8は、自衛隊が所有する国産の哨戒機P-1とほぼ同じサイズだという。つまり日本企業は、最新の民間の細胴機と同サイズの航空機を製造する能力を持っているということだ。
中村氏は、細胴機の完成機プログラムを進めるためには、政府が強力にバックアップし、巨額の費用がかかるなどのビジネスリスクを軽減する必要があると主張する。その上で、特定の一社が主導するのではなく「オールニッポン」の新たな組織体を作るのが望ましいとしている。国家ぐるみの体制で航空機の世界市場に名乗りを上げようとしている中国に水をあけられないためにも、一丸となった取り組みが必須ということだろう。
2017年07月17日「読学のススメ」の記事から抜粋