次世代ビジネスの目利き役、大手商社はベンチャー投資の担い手か!?

キャピタルゲインだけにとどまらず。炭素繊維など有望技術へ中長期の種まきも

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三井物産が出資する微生物によるガス発酵技術開発の実証プラント
 大手商社が、国内外でベンチャー企業投資などの新規事業の立ち上げ促進・支援を活発化している。資金力や販売機能を武器に投資先の支援だけでなく、長期的視野で社内ベンチャーの育成や次世代産業の創出に挑む動きも見られる。将来の収益貢献に加え、国内外の革新的な技術の普及・実用化によりイノベーション創出の一端を担うという意味でも、商社の果たす役割は大きい。
 
 **負担とリスクは?世界の変化、技術の潮流捉える
 ベンチャー投資や新規事業開発には、市場予測が難しい案件や事業化に至るまでの負担とリスクが存在する。一方で幅広い事業を展開する商社にとっては、単なる資金提供だけでなく、社員を送り込むことで営業や経営面でも支援できるなど、自社の経営資源を活用できる分野だ。
 
 大手商社は、営業部門だけでなく自前のベンチャーキャピタル(VC)などを通じて、有望な技術を持った企業や事業を選定した上で投資し、事業立ち上げやその後の経営を支援。自社の既存事業との連携による業容拡大を目的としたケースのほか、投資先の上場による株式売却益の獲得につなげている。
 
 「商社にはベンチャー企業を育てるすべての機能がそろっている」。伊藤忠商事の佐藤浩毅ITビジネス第二課長は、ベンチャー投資における商社ならではの強みを強調する。同社がベンチャー投資に乗り出したのは、米国でIT産業が活況を帯びていた90年代半ば。現地VCへの投資を通じて、VCの出資先であるITベンチャー企業の商品・サービスを自社のIT関連部門を介して日本で展開するなどし、ベンチャー育成につなげてきた。ほぼ同時期に、国内ITベンチャー企業への直接出資も始めている。
 
 海外VCへの投資経験で培った投資対象の目利き力や情報ネットワークを生かして、00年には自社が中心となって運用するVCの伊藤忠テクノロジーベンチャーズ(ITV、東京都港区)を設立。これまでに三つのファンドを立ち上げ、ネット広告を手がけるアドウェイズなど国内外で計約200億円の投資実績を持つ。7月には4号ファンドを組成する予定だ。今後は「ベンチャー投資の取り組みを情報産業だけでなく、ほかの部門にも持っていく」(佐藤課長)と、ベンチャー投資を機に部門間連携の一層の促進を図る。

 ベンチャー投資事業では、ビジネスモデルの変化や技術の潮流をどう捉え、投資するかが重要な要素となる。住友商事は米国と香港に投資子会社を保有。両社をそれぞれ北米、アジアの地域組織と位置づけITや新エネルギーなど各業界の市場トレンドに応じて有望な技術を持つベンチャー企業を選定し、投資を拡大してきた。特に米国投資会社のプレシディオ・ベンチャーズは、情報セキュリティーやビッグデータの関連ベンチャー企業など、ITを中心に約150件の投資実績を持つ。
 
 住商の小池浩之投資開発部長は「(投資会社を通じて)直接出資するので我々のビジネスに生かしやすい」と、投資先とのシナジーについて語る。現在、注目する分野の一つが北米のIoT(モノのインターネット)だ。「商社のどの部隊とも連携しやすい」(小池部長)分野と捉え、関連企業への投資と育成を視野に入れる。
 
 自ら発掘し長期的な視点で育てる事例も
  投資事業とは異なり、商社が将来の事業の“種”となる素材を自ら発掘してベンチャー企業として育て、芽吹かせた事例も出てきている。
 
 「化粧品に使えるフラーレンの生成・分散技術を持つのは当社だけだ」。炭素素材「フラーレン」配合の化粧品原料を製造・販売するビタミンC60バイオリサーチ(東京都中央区)の林源太郎社長は、自社の独自技術に胸を張る。同社は、三菱商事が93年にナノテク新素材としてフラーレンに着目し、特許取得などを経て03年に設立したベンチャー企業だ。
 
 フラーレンは、肌のシワやニキビの元になる活性酸素を除去する力がビタミンCと比べて100倍以上高く、持続時間も長い。そこで同社は化粧品分野にフラーレンを応用したいと考え、フラーレンを水や油に溶かす独自技術を開発。05年にフラーレン化粧品原料として商品化に結びつけた。これまでに、日本をはじめ米国や中国など国内外で計1500点以上の化粧品に配合されている。
 
 10年3月期には初めて純損益を黒字化し、以降は毎年度黒字を確保している。着実に販売が伸びていることを受け、このほど6年ぶりの新商品の発売を決定。ファンデーションなどのメーキャップ用化粧品向けと、保湿性を加えたスキンケア化粧品向けの二つの原料を8月までに投入する。また、今後は中国や米国の化粧品メーカーにも拡販する方針だ。
 
 一般的に新素材の事業化は、安全性を十分に検証するため、長い時間を要する。ビタミンC60バイオリサーチでも、事業化までに多くの開発費用が必要だったことから林社長は「当社の事業は商社特有のベンチャービジネス」と振り返る。

 また三菱商事としても「当初から時間を見て取り組んでいくと決めて進めてきた」(大槻晃嗣環境R&D事業部長)という。商社の資金力や営業ネットワークを生かしつつ長期的な視野で取り組んだことが、“日本発”の商品誕生につながったと言える。
 

日刊工業新聞2015年06月22日 深層断面

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