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都市ガスの卸・大口市場で攻防激化、守る東ガスvs崩す東電

小売り自由化から半年、「相当大きな波が首都圏に押し寄せている」
 首都圏の都市ガス業界に地殻変動が起きつつある。家庭用の切り替えは関西圏に比べて鈍く「西高東低」、「東部戦線異状なし」との見方が支配的だが、卸や大口市場では様相が異なってきた。東京ガスと東京電力ホールディングスなどが攻防を繰り広げている。「相当大きな波が首都圏に押し寄せている」。東ガスの広瀬道明社長は5日の経営方針説明会で危機感を示した。念頭にあるのは、卸や大口市場での他社による切り崩しだ。

 都市ガスの全面自由化から半年が経過したが、家庭など小口向けの切り替え申し込み件数は直近の公表値で約36万件。全体の1%強で、電気が全面自由化開始2カ月で100万件に達したのに比べると切り替え率は低い。

 中でも最大の需要地の関東は約7万件にとどまる。家庭向けの新規参入事業者も全国で10社にも満たない。

 首都圏で家庭向けガス小売りの業界地図を塗り替えると目された東京電力エナジーパートナーは7月にようやく参入。都市ガス製造に必要な熱量調整の整備不足もあり、サービス開始時に、テレビCMを打つなど積極的な販促には出なかった。ガス業界からは「正直、どこまで本気で攻め込んでくるのか」との声も聞こえていた。

 むしろ、激しさを増すのが家庭向けの自由化を契機として、これまで自由化されていた大口や卸市場だ。当然ながら、1件当たりの供給量が大きく、営業効率は高い。

 首都圏ではすでにニチガスが、原材料の調達先を東ガスから東電に切り替えた。東ガスは30万件の顧客を喪失する。17年度の業務用、工業用、卸の販売量は16年度比で5%程度落ち込むことになる。

 追い打ちをかけるように、東ガスは最大の顧客である東電の品川火力発電所向けの都市ガス供給を失う。東電は石油元売り最大手のJXTGホールディングス、大阪ガスと提携し、2020年には品川火力の燃料に自前で製造した都市ガスを充てる。

 東ガスを含む大手都市ガスにしてみれば家庭向けは自由化に合わせて、「シェアを一定量、落とすしかない」領域。むしろ、これまで自由化されていた卸や大口市場での舵取りが経営を左右する。

 東電は中部電力との合弁会社「JERA」に燃料調達部門を統合しており、JERAの調達能力がガス業界をも一変させるとの見方は以前から根強い。

 東ガスも守勢に回るわけではない。9月には堀川産業(埼玉県草加市)に卸供給を始めるなど新たな卸先の開拓を加速している。JERA対抗で、燃料調達で他社との連携も模索する。
(文=栗下直也)
日刊工業新聞2017年10月11日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「首都圏の都市ガス全面自由化が低調」と喧伝される中、水面下の動きは慌ただしくなっている。

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