「電力VSガス」自由化とエネルギー業界のこれから
東京理科大・橘川教授インタビュー「異なる地域の都市ガス×電力という戦略的連携から」
電力小売自由化から1ヶ月。来年にはガス小売自由化が控えており、「電力VSガス」の熾烈な競争が始まる。第4回は、「電力ガス自由化とエネルギー業界のこれから」について前回に引き続き、エネルギー産業の動向に詳しい東京理科大学橘川教授に話を伺った。
-海外ではひと足早く、電力自由化が行われています
ドイツは98年の電力自由化の結果、8大電力会社と900社を超える配電会社が4社(地域の自治体公益事業会社;シュタットベルケを除く)に統合されました。イギリスも98年より段階的に自由化を進めた結果、M&Aが活発となり、現在は「ビッグ6」と呼ばれる6つのグループに集約されています。 そのロジックで考えると、日本の電力会社10社が6社に集約されるのは、おかしなことではないと思います。
―電力自由化を進めた結果、停電回数が増えたとききますが、日本は大丈夫でしょうか?
米国のカリフォルニア電力危機(2000年夏~01年冬)では電力需給がひっ迫し、停電が頻発しました。じつは全米50州のうち、電力自由化を実施しているのは半数以下です。カリフォルニア州をはじめ6州は自由化を撤回しています。
一方で、「PJM(ペンシルベニア州・ニュージャージー州・メリーランド州など北東部13州とワシントンDC)」と呼ばれる北米の地域送電機関ではうまくいっているようです。その理由は、戦前から電力プールという卸電力市場がすごく発達していたからです。 PJMでは大容量の電力が卸市場で取引されていますが、日本の卸市場の比率は2%未満です。 卸市場から新規参入業者は購入しますから、供給不足だからといって慌てて発電所を建設しなくてもよいわけです。
電気料金の高いカリフォルニア州は自由化を急いだため、発電所が建たなくなり、強制的に料金を抑えたら停電になってしまったというのが実態だと思います。日本は海外の失敗例から学んでいるので、そのままのことが起こることはないでしょう。
-停電のほかに電力自由化で国民が不利益を被ることはあるのでしょうか?
国民の関心が最も高い「料金が下がるのか」という期待においては、何とも申し上げられません。短期的には明らかに料金は下がります。しかし長期的には、じわじわと上昇するでしょう。
日本の電力市場は、発電・送電・小売・配電の一貫体制から発送電分離に舵を切ったことで、大きな転機をむかえました。
いままでは総括原価方式(編集部注:「電気料金=原価+電力会社の事業報酬」)ですから、電気料金に組み入れて確実にコストが回収できました。発電所の建設には膨大なコストと投資回収に時間がかかります。
売れるか分からない状況では新規設備を作るインセンティブは小さくなり、なるべく発電所をつくらないという風潮になるでしょう。創意工夫して発電所を長く使おうと思っても限界があります。長い目でみるとじわじわと料金が上がり、電力の供給力不足になるかも知れません。日本でもそうなる可能性があります。
<家庭用電気料金の推移(2014年)社会実情データ図録 「電気料金の国際比較(家庭用)」より>
-来年4月には家庭用ガス小売も自由化され、家庭用電力と合わせて10兆円超の市場が開放されます
電力・ガス自由化でさまざまなセット販売に注目が集まると思いますが、電気とガスのセット販売を実施する場合、じつは電力業界の方が難しいのです。
その理由は保安問題にあります。法律で義務付けられているガスの安全点検を一般家庭で行うには、ガスの専門知識を持った人と組まなければなりません。ガス会社は営業エリア内に点検拠点を構えています。電力自由化で攻め込まれている電力業界は、来年のガス小売自由化で顧客の奪還を狙っています。そのためには電力会社は、ガスの保安点検ができるガス会社と組むしかないのです。
<都市ガス大手の家庭用販売シェア(2014年度)=日本ガス協会の資料から作成>
-「電力VSガス会社」の競争間で、提携先はあるのですか?
首都圏の場合、東京電力は東京ガスとライバル関係にありますから、LP(プロパン)ガスと組むだろうと思われます。これが東京電力とLPガス最大手の日本瓦斯(ニチガス)や二番手のTOKAIホールディングスと提携した理由です。中部電力もTOKAIホールディングスと提携しています。
こうした「同じ地域の都市ガス×LPガス」のほか、今も連携関係のある大阪ガスと中部電力、東京ガスと東北電力、東京ガスと関西電力というような「異なる地域の都市ガス×電力」といったガス会社との戦略的連携から発展して、将来的には一部がM&Aになる可能性も出てくると思います。
<電力・ガスの連携例>
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-海外ではひと足早く、電力自由化が行われています
ドイツは98年の電力自由化の結果、8大電力会社と900社を超える配電会社が4社(地域の自治体公益事業会社;シュタットベルケを除く)に統合されました。イギリスも98年より段階的に自由化を進めた結果、M&Aが活発となり、現在は「ビッグ6」と呼ばれる6つのグループに集約されています。 そのロジックで考えると、日本の電力会社10社が6社に集約されるのは、おかしなことではないと思います。
―電力自由化を進めた結果、停電回数が増えたとききますが、日本は大丈夫でしょうか?
米国のカリフォルニア電力危機(2000年夏~01年冬)では電力需給がひっ迫し、停電が頻発しました。じつは全米50州のうち、電力自由化を実施しているのは半数以下です。カリフォルニア州をはじめ6州は自由化を撤回しています。
一方で、「PJM(ペンシルベニア州・ニュージャージー州・メリーランド州など北東部13州とワシントンDC)」と呼ばれる北米の地域送電機関ではうまくいっているようです。その理由は、戦前から電力プールという卸電力市場がすごく発達していたからです。 PJMでは大容量の電力が卸市場で取引されていますが、日本の卸市場の比率は2%未満です。 卸市場から新規参入業者は購入しますから、供給不足だからといって慌てて発電所を建設しなくてもよいわけです。
電気料金の高いカリフォルニア州は自由化を急いだため、発電所が建たなくなり、強制的に料金を抑えたら停電になってしまったというのが実態だと思います。日本は海外の失敗例から学んでいるので、そのままのことが起こることはないでしょう。
新規設備を作るインセンティブは小さくなる
-停電のほかに電力自由化で国民が不利益を被ることはあるのでしょうか?
国民の関心が最も高い「料金が下がるのか」という期待においては、何とも申し上げられません。短期的には明らかに料金は下がります。しかし長期的には、じわじわと上昇するでしょう。
日本の電力市場は、発電・送電・小売・配電の一貫体制から発送電分離に舵を切ったことで、大きな転機をむかえました。
いままでは総括原価方式(編集部注:「電気料金=原価+電力会社の事業報酬」)ですから、電気料金に組み入れて確実にコストが回収できました。発電所の建設には膨大なコストと投資回収に時間がかかります。
売れるか分からない状況では新規設備を作るインセンティブは小さくなり、なるべく発電所をつくらないという風潮になるでしょう。創意工夫して発電所を長く使おうと思っても限界があります。長い目でみるとじわじわと料金が上がり、電力の供給力不足になるかも知れません。日本でもそうなる可能性があります。
<家庭用電気料金の推移(2014年)社会実情データ図録 「電気料金の国際比較(家庭用)」より>
電力会社は保安点検ができるガス会社と組むしかない
-来年4月には家庭用ガス小売も自由化され、家庭用電力と合わせて10兆円超の市場が開放されます
電力・ガス自由化でさまざまなセット販売に注目が集まると思いますが、電気とガスのセット販売を実施する場合、じつは電力業界の方が難しいのです。
その理由は保安問題にあります。法律で義務付けられているガスの安全点検を一般家庭で行うには、ガスの専門知識を持った人と組まなければなりません。ガス会社は営業エリア内に点検拠点を構えています。電力自由化で攻め込まれている電力業界は、来年のガス小売自由化で顧客の奪還を狙っています。そのためには電力会社は、ガスの保安点検ができるガス会社と組むしかないのです。
<都市ガス大手の家庭用販売シェア(2014年度)=日本ガス協会の資料から作成>
-「電力VSガス会社」の競争間で、提携先はあるのですか?
首都圏の場合、東京電力は東京ガスとライバル関係にありますから、LP(プロパン)ガスと組むだろうと思われます。これが東京電力とLPガス最大手の日本瓦斯(ニチガス)や二番手のTOKAIホールディングスと提携した理由です。中部電力もTOKAIホールディングスと提携しています。
こうした「同じ地域の都市ガス×LPガス」のほか、今も連携関係のある大阪ガスと中部電力、東京ガスと東北電力、東京ガスと関西電力というような「異なる地域の都市ガス×電力」といったガス会社との戦略的連携から発展して、将来的には一部がM&Aになる可能性も出てくると思います。
<電力・ガスの連携例>
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●「関西電力による中国電力の買収」の可能性があった?
M&A Online 2016年05月20日