重力波にノーベル賞、「アインシュタインの宿題」に解
日本でも大規模な観測計画進む
「重力波」は物理学者のアルバート・アインシュタインが一般相対性理論から予言した、いわゆる「アインシュタインからの最後の宿題」。100年の時を経てこれに解を与えたのが、2015年の米大学を中心とするチームの重力波の初観測だった。重力波を使えば、宇宙誕生直後の様子など光や電波では観測できない新しい宇宙の姿が明らかになる。重力波の観測施設は世界で4拠点あり、日本でも大規模な観測計画などが進んでいる。
一般相対性理論では重力は時空(時間と空間)の歪みとして理解する。重力波は、ブラックホールなど質量の大きい物体が動く際に時空が歪み、この歪みの変動が波として伝わる現象を指す。
米重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)のチームが重力波の直接観測に成功したことで、「重力波天文学」と呼ばれる新分野が誕生した。17年8月には、ライゴと欧州の重力波望遠鏡VIRGO(バーゴ)チームが共同で、観測史上4度目となる重力波を検出した。
日本では、東京大学宇宙線研究所などが岐阜県の神岡鉱山地下に「大型低温重力波望遠鏡(KAGRA、かぐら)」を建設し、感度の高い重力波の観測を目指して16年3月に試験運転を始めた。
かぐらは1辺3キロメートルのL字型のレーザー干渉計。高感度で重力波を観測するため、極低温の鏡を使うほか、世界で初めて200メートルを超える深さの地下に設置する。東大宇宙線研がホストとなり、高エネルギー加速器研究機構や国立天文台のほか、国内外の約70機関が協力する。19年にも本格的な観測を始める見通しだ。
地上の重力波望遠鏡はライゴであれば10―1000ヘルツと比較的高い周波数領域を観測する。普通の大きさのブラックホールや、中性子で作られた中性子星の合体などで生じる比較的、高周波領域の重力波だ。
だが太陽の質量の数億―数十億倍の超大質量のブラックホールが合体したときの重力波や、宇宙が誕生後、一気に膨張したとする「インフレーション仮説」で生じたとされる重力波では、0・1ミリ―100ミリヘルツの周波数域にある。こうした低周波領域の重力波は、地面の振動による雑音の影響でとらえることが難しい。
そこで欧州宇宙機関(ESA)は宇宙空間に浮かぶ宇宙重力波望遠鏡「LISA」(リサ)の34年の打ち上げを目指す。レーザー光を放出する宇宙機1機、レーザー光を鏡で受け止める宇宙機2機の計3機を打ち上げ、太陽を回る軌道に乗せる。
この3機の宇宙機が1辺250万キロメートルの巨大な三角形を描きながら飛行し、レーザー光を往復させて宇宙に浮かぶ巨大なレーザー干渉計を作る壮大な計画だ。
すでに15年にリサの技術の試験ミッション「リサ・パスファインダー」の衛星が打ち上がっており、実現に向け大きく前進している。
日本でも宇宙望遠鏡の計画を検討中だ。東京大学大学院理学系研究科の安東正樹准教授らは、宇宙空間重力波望遠鏡「DECIGO」の20年代末の運用開始を目指している。
宇宙空間に浮かぶ0・1―10ヘルツの重力波の検出を目指す。各1000キロメートル離れた3機の衛星で構成し、重力波が引き起こす衛星間の距離の微小な変化をレーザー干渉計で計測する。
光を利用した観測では宇宙誕生後38万年以前の世界を観測できないという。このため、重力波を通して宇宙誕生直後の世界を観測し、宇宙誕生の謎の解明を目指す。
同計画の前段階として20年代に重力波の試験観測「B―DECIGO」を行う。DECIGOに比べ小スケールでの実証試験となる計画だ。
重力波を出す天体を解明するため超小型衛星を使った取り組みも進む。突発的な天体の爆発などによる電磁波の検出には、速やかに天体の位置を精密に決め、姿勢を変えなければならない。こうした機敏な動きに対応するには超小型衛星が向いている。
東京工業大学の松永三郎教授らの超小型衛星「ひばり」や、金沢大学の八木谷聡教授らの「カナザワサット」が重力波の発生源からの紫外線やX線などの検出を狙っている。
天体の爆発や衝突などでいきなり現れた現象を検知し観測する。金沢大のプロジェクトでは超小型衛星での天体発見後、地上の望遠鏡と連動し、精度の高い観測を目指すという。八木谷金沢大教授は「重力波とX線の検出で、ブラックホール誕生の瞬間の謎に迫りたい」と強調する。
(文=藤木信穂、冨井哲雄)
米LIGO、時空の歪み観測
一般相対性理論では重力は時空(時間と空間)の歪みとして理解する。重力波は、ブラックホールなど質量の大きい物体が動く際に時空が歪み、この歪みの変動が波として伝わる現象を指す。
米重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)のチームが重力波の直接観測に成功したことで、「重力波天文学」と呼ばれる新分野が誕生した。17年8月には、ライゴと欧州の重力波望遠鏡VIRGO(バーゴ)チームが共同で、観測史上4度目となる重力波を検出した。
日本KAGRA、地下200mから
日本では、東京大学宇宙線研究所などが岐阜県の神岡鉱山地下に「大型低温重力波望遠鏡(KAGRA、かぐら)」を建設し、感度の高い重力波の観測を目指して16年3月に試験運転を始めた。
かぐらは1辺3キロメートルのL字型のレーザー干渉計。高感度で重力波を観測するため、極低温の鏡を使うほか、世界で初めて200メートルを超える深さの地下に設置する。東大宇宙線研がホストとなり、高エネルギー加速器研究機構や国立天文台のほか、国内外の約70機関が協力する。19年にも本格的な観測を始める見通しだ。
欧LISA、低周波域を宇宙でとらえる
地上の重力波望遠鏡はライゴであれば10―1000ヘルツと比較的高い周波数領域を観測する。普通の大きさのブラックホールや、中性子で作られた中性子星の合体などで生じる比較的、高周波領域の重力波だ。
だが太陽の質量の数億―数十億倍の超大質量のブラックホールが合体したときの重力波や、宇宙が誕生後、一気に膨張したとする「インフレーション仮説」で生じたとされる重力波では、0・1ミリ―100ミリヘルツの周波数域にある。こうした低周波領域の重力波は、地面の振動による雑音の影響でとらえることが難しい。
そこで欧州宇宙機関(ESA)は宇宙空間に浮かぶ宇宙重力波望遠鏡「LISA」(リサ)の34年の打ち上げを目指す。レーザー光を放出する宇宙機1機、レーザー光を鏡で受け止める宇宙機2機の計3機を打ち上げ、太陽を回る軌道に乗せる。
この3機の宇宙機が1辺250万キロメートルの巨大な三角形を描きながら飛行し、レーザー光を往復させて宇宙に浮かぶ巨大なレーザー干渉計を作る壮大な計画だ。
すでに15年にリサの技術の試験ミッション「リサ・パスファインダー」の衛星が打ち上がっており、実現に向け大きく前進している。
宇宙空間重力波望遠鏡「DECIGO」
日本でも宇宙望遠鏡の計画を検討中だ。東京大学大学院理学系研究科の安東正樹准教授らは、宇宙空間重力波望遠鏡「DECIGO」の20年代末の運用開始を目指している。
宇宙空間に浮かぶ0・1―10ヘルツの重力波の検出を目指す。各1000キロメートル離れた3機の衛星で構成し、重力波が引き起こす衛星間の距離の微小な変化をレーザー干渉計で計測する。
光を利用した観測では宇宙誕生後38万年以前の世界を観測できないという。このため、重力波を通して宇宙誕生直後の世界を観測し、宇宙誕生の謎の解明を目指す。
同計画の前段階として20年代に重力波の試験観測「B―DECIGO」を行う。DECIGOに比べ小スケールでの実証試験となる計画だ。
重力波を出す天体を解明するため超小型衛星を使った取り組みも進む。突発的な天体の爆発などによる電磁波の検出には、速やかに天体の位置を精密に決め、姿勢を変えなければならない。こうした機敏な動きに対応するには超小型衛星が向いている。
東京工業大学の松永三郎教授らの超小型衛星「ひばり」や、金沢大学の八木谷聡教授らの「カナザワサット」が重力波の発生源からの紫外線やX線などの検出を狙っている。
天体の爆発や衝突などでいきなり現れた現象を検知し観測する。金沢大のプロジェクトでは超小型衛星での天体発見後、地上の望遠鏡と連動し、精度の高い観測を目指すという。八木谷金沢大教授は「重力波とX線の検出で、ブラックホール誕生の瞬間の謎に迫りたい」と強調する。
(文=藤木信穂、冨井哲雄)
日刊工業新聞2017年10月4日