フィンテックの第一人者が語る、「実は内向的で狭い市場」からの広がり
マネーフォワードフィンテック研究所長・瀧俊雄氏インタビュー
―家計簿アプリケーション(応用ソフト)が好調ですね。
「当社は金融とITを融合した『フィンテック』ベンチャー。家計簿アプリは、お金が動くたびにクラウドで管理し、通帳の記録や履歴表示を行う。すでに利用者は500万人を突破した。個人の同意を得て、IDとパスワードを預かり利用する『アカウントアグリケーション』技術を応用した。法人向けの会計ソフトサービスでも同様の技術を転用しており、会計の法律に沿って専門的な帳簿を付けられるように加工処理を加えている」
―今後はどんな機能を拡充し顧客に訴求しますか。
「現在は可視化や管理のツールを提供しているが、今後はユーザーの課題を解決していきたい。お金のログを取るだけでなく、設定貯金額に対し、どのような買い物をすれば良いかなどを提案する。生活家電との融合もあるかもしれない。足りない食材や買うべき調味料などを把握できる冷蔵庫と組み合わせつつ、貯金できるような最適な買い物を提案できる」
―生体認証を通じた決済など先駆的な技術が普及する可能性は。
「生体認証は実証実験の段階だが、精度については機械学習を行うことで良くなるだろう。こうしたテスト回数が実現性のカギを握る場合は、普及のために大手電機メーカーやITベンダーと協業していく必要がある」
―フィンテックとIoT(モノのインターネット)の融合により、どんな世界がつくられますか。
「『ヒト・モノ・カネ』の中で、IoTはモノの流れを、フィンテックはカネの流れを追える。これにより、あらゆる事象を精緻に分析できる。例えば、自動車保険のビジネスなどは影響が大きい。電装化が進み、多数のセンサーが搭載された自動車が登場すれば、急ハンドルなどをしない優良な運転手がより明確になる」
「保険のマーケットが細分化されて、価格が適正化してしまう。保険は、事故を起こさない人が高い保険料を払うことで成り立つ側面がある。だが、事故を起こすかどうかのパラメーターはほぼ検出できるし、それに対応した金額設定も正確に行われるようになる」
―ビジネスそのものが変革するということですね。
「フィンテックには相手の真贋(しんがん)確認などのチェック機能があり、IoTにはモノが動いているかどうかをセンシングできる機能がある。このため、例えばトラックや設備を購入するための借入金について、顧客からの返済が滞った場合に遠隔で稼働を停止できたりする。フィンテックとIoTの融合により、監視能力は向上する」
―今後、フィンテックサービス市場の拡大に向けて課題はありますか。
「根本的な部分ではあるが、日本の環境でキャッシュレス化が進むかどうか。フィンテックをずっと追ってきたが、キャッシュレスの議論すべきテーマは防犯だ。例えば、インバウンド消費などを背景に中国の阿里巴巴集団が手がける非接触型決済サービス『アリペイ』などの利用が国内で拡大している。ただ、アリペイの情報は中国など外国を経由するため、認証などに使用される情報が国外に漏れているという見方もある」
「また、アリペイは金融以外の分野で個人の信用計測に使われるなど用途も広がっている。アリペイの使用履歴から信用力が高いと判断された場合、ある国ではビザが取りやすくなるなどの事例もある。つまり、こうした利便性を受け入れ複雑なマネー情報を管理できるかどうかだろう。国防などの観点では難しいとされている」
―一方で政府は今後10年後までにキャッシュレス比率を40%まで増やすとしている。
「日常の消費者体験を考えると、スマートウオッチやスマートフォンが普及する中では電子マネーなどで払うのが一番便利。個人的にはキャッシュレス比率を増加させるためには、アリペイなどの普及が大切だ。社会への浸透も進んでいる」
「だが、業界の関係者などからは『紙の日本銀行券が不要になり、アリペイになってしまうのでは』という飛躍した危機感を示している。金融取引とはなにかを考えた時、コミュニケーションに本人確認が付いているだけだ。やみくもに恐れるのではなく、この“確認”の部分を正しく認識し、進化のポイントと捉えればよい」
―フィンテックサービスで海外展開は。
「フィンテックサービスは電子マネーの普及状況や個人情報の扱い方など専門性が高いため、実は内向的で狭い市場だ。そのため、まずは国内市場を考えている。もちろん、アカウントアグリケーションの技術自体は応用性が高いため、パッケージ化は容易だろう。だが、その地域の文化などローカライズが要求される」
(聞き手=渡辺光太)
「当社は金融とITを融合した『フィンテック』ベンチャー。家計簿アプリは、お金が動くたびにクラウドで管理し、通帳の記録や履歴表示を行う。すでに利用者は500万人を突破した。個人の同意を得て、IDとパスワードを預かり利用する『アカウントアグリケーション』技術を応用した。法人向けの会計ソフトサービスでも同様の技術を転用しており、会計の法律に沿って専門的な帳簿を付けられるように加工処理を加えている」
―今後はどんな機能を拡充し顧客に訴求しますか。
「現在は可視化や管理のツールを提供しているが、今後はユーザーの課題を解決していきたい。お金のログを取るだけでなく、設定貯金額に対し、どのような買い物をすれば良いかなどを提案する。生活家電との融合もあるかもしれない。足りない食材や買うべき調味料などを把握できる冷蔵庫と組み合わせつつ、貯金できるような最適な買い物を提案できる」
―生体認証を通じた決済など先駆的な技術が普及する可能性は。
「生体認証は実証実験の段階だが、精度については機械学習を行うことで良くなるだろう。こうしたテスト回数が実現性のカギを握る場合は、普及のために大手電機メーカーやITベンダーと協業していく必要がある」
―フィンテックとIoT(モノのインターネット)の融合により、どんな世界がつくられますか。
「『ヒト・モノ・カネ』の中で、IoTはモノの流れを、フィンテックはカネの流れを追える。これにより、あらゆる事象を精緻に分析できる。例えば、自動車保険のビジネスなどは影響が大きい。電装化が進み、多数のセンサーが搭載された自動車が登場すれば、急ハンドルなどをしない優良な運転手がより明確になる」
「保険のマーケットが細分化されて、価格が適正化してしまう。保険は、事故を起こさない人が高い保険料を払うことで成り立つ側面がある。だが、事故を起こすかどうかのパラメーターはほぼ検出できるし、それに対応した金額設定も正確に行われるようになる」
―ビジネスそのものが変革するということですね。
「フィンテックには相手の真贋(しんがん)確認などのチェック機能があり、IoTにはモノが動いているかどうかをセンシングできる機能がある。このため、例えばトラックや設備を購入するための借入金について、顧客からの返済が滞った場合に遠隔で稼働を停止できたりする。フィンテックとIoTの融合により、監視能力は向上する」
―今後、フィンテックサービス市場の拡大に向けて課題はありますか。
「根本的な部分ではあるが、日本の環境でキャッシュレス化が進むかどうか。フィンテックをずっと追ってきたが、キャッシュレスの議論すべきテーマは防犯だ。例えば、インバウンド消費などを背景に中国の阿里巴巴集団が手がける非接触型決済サービス『アリペイ』などの利用が国内で拡大している。ただ、アリペイの情報は中国など外国を経由するため、認証などに使用される情報が国外に漏れているという見方もある」
「また、アリペイは金融以外の分野で個人の信用計測に使われるなど用途も広がっている。アリペイの使用履歴から信用力が高いと判断された場合、ある国ではビザが取りやすくなるなどの事例もある。つまり、こうした利便性を受け入れ複雑なマネー情報を管理できるかどうかだろう。国防などの観点では難しいとされている」
―一方で政府は今後10年後までにキャッシュレス比率を40%まで増やすとしている。
「日常の消費者体験を考えると、スマートウオッチやスマートフォンが普及する中では電子マネーなどで払うのが一番便利。個人的にはキャッシュレス比率を増加させるためには、アリペイなどの普及が大切だ。社会への浸透も進んでいる」
「だが、業界の関係者などからは『紙の日本銀行券が不要になり、アリペイになってしまうのでは』という飛躍した危機感を示している。金融取引とはなにかを考えた時、コミュニケーションに本人確認が付いているだけだ。やみくもに恐れるのではなく、この“確認”の部分を正しく認識し、進化のポイントと捉えればよい」
―フィンテックサービスで海外展開は。
「フィンテックサービスは電子マネーの普及状況や個人情報の扱い方など専門性が高いため、実は内向的で狭い市場だ。そのため、まずは国内市場を考えている。もちろん、アカウントアグリケーションの技術自体は応用性が高いため、パッケージ化は容易だろう。だが、その地域の文化などローカライズが要求される」
(聞き手=渡辺光太)
【略歴】たき・としお 2004年に野村証券に入社し、野村資本市場研究所で家計行動などの研究業務に従事した。野村ホールディングスの企画部門を経て、12年からマネーフォワード(東京都港区)の設立に参画。自動家計簿サービスアプリ「マネーフォワード」を展開している。15年には同社フィンテック研究所長に就任した。
日刊工業新聞2017年9月21日の記事に加筆