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1万円からの「カジュアル投資」は広がるか。フィンテックベンチャーがけん引役に

20ー30代の未経験者を開拓。大手との連携が普及のカギに
1万円からの「カジュアル投資」は広がるか。フィンテックベンチャーがけん引役に

簡単なスマホ操作で株式に投資できるサービスが登場

 投資の世界に、フィンテック(金融とITの融合)ベンチャーが新たな流れを起こそうとしている。スマートフォンに特化した株式取引サービスや、ロボ・アドバイザー(コンピューターによる投資診断・運用)を使った資産運用サービスなどが登場。どれも少額投資が可能で、手数料が安いのが特徴だ。これまでにないカジュアルなサービスを武器に、大手証券が取りあぐねる20代、30代の顧客を開拓している。

スマホのみで口座開設


 One Tap BUY(ワンタップバイ、東京都港区、林和人社長CEO〈最高経営責任者〉)は、スマホで株式取引ができるアプリを6月にリリースした。配信後2カ月でダウンロード数が4万件を突破するなど、順調な滑り出し。「ユーザーは20代、30代の投資未経験者が圧倒的に多い」(林社長)という。

(サービス内容をプレゼンする林ワンタップバイ社長)

 既存の証券会社もスマホ用の株式取引アプリを配信しているが、同社アプリは圧倒的にシンプルだ。株価に関係なく、1万円単位で投資が可能。3タップで売買できる簡単操作も特徴だ。口座開設もスマホのみで完結する。

 「有名な企業の方が投資しやすい」(林社長)との考えから、取扱銘柄は米マクドナルドや米フェイスブックなど主要米国株の約30銘柄に限定。各企業の投資魅力を伝えるため、企業紹介マンガを電子書籍で配信しているのもユニークだ。

 年内には日本株や上場投資信託(ETF)の取り扱いも予定。ソニーやトヨタ自動車など、なじみのある日本企業への投資が可能となれば、人気はさらに高まりそうだ。

ロボが自動で国際分散投資


 投資未経験者にとって、株式投資以上にハードルが高いのがラップ(投資一任運用)口座などの資産運用サービスだ。もともと富裕層向けサービスのため、大手証券のラップは最低投資額が300万円から、手数料など関連費用は年3%程度となっている。会社員が「ちょっと利用してみよう」という水準ではない。

 この資産運用を「もっと安価に、一般市民が利用できるサービスにしたい」と考えたベンチャーが、相次いでサービスを開始している。お金のデザイン(東京都港区、広瀬朋由CEO)は2月に、ウェルスナビ(同千代田区、柴山和久CEO)は6月に正式サービスを始めた。

 両社のサービスは、ロボアドを使い、世界のETFに分散投資する内容。高度な投資知識は必要なく、ユーザーはネット上で簡単な質問に答えると投資方針を決定してもらえる。ラップでは人間がするリバランス(銘柄入れ替え)作業をロボアドに任せることで人件費を抑え、手数料を大幅に安くしている。

 お金のデザインのサービス「THEO(テオ)」は、最低投資額10万円からで、手数料は預入額の1%。5月末時点での口座開設数は約5500人で、そのうち6割が20代、30代だ。北澤直最高執行責任者(COO)は「既存の資産運用サービスは供給者側の論理が強く顧客と利益相反することもあるが、我々は独立系であり顧客側に立ったサービスが可能」と自信をみせる。


 ウェルスナビは6月からサービスを正式提供。最低投資額は100万円からで、手数料は預入額の1%だ。年初から試験的なサービス提供を実施していたが、その試験ユーザーの3割が追加入金するなど好評。柴山CEOは「2020年の東京五輪までに預かり資産1兆円を目指す」と意気込んでいる。

NISAが使えない!投資に保守的!課題も多し


 各社のサービスは20代、30代の顧客を獲得しているが、課題もある。少額投資の利益を無税とするNISA(少額投資非課税制度)が使えないのはネックだ。ワンタップバイはシステム開発費負担を考慮し対応を見送っている。

 ロボアド資産運用サービスはETFを定期的に売買するため、無税枠内でのリバランスを認めない現在のNISAは使えない。若年層に人気のサービスで、投資家層の拡大を目指すNISAが使えないのは惜しい。政府はNISAの改良を検討しているが、リバランス対応も考慮すべきだろう。

 日本人は投資に対して保守的であり、数万円の資金でも、自分が知らない企業に預けることに抵抗を感じる。各社のサービスが成功するには、知名度を高めることが不可欠だ。そのため各社は、大手企業との連携を模索。ワンタップバイは携帯電話キャリアとの連携を進めており、このほどソフトバンクグループから出資を受けた。林社長によると「ソフトバンクからの出資を発表した直後に口座開設が大きく増えた」という。

 お金のデザインとウェルスナビは、地銀など金融機関との連携を検討している。大手企業との連携が進めば、知名度が向上し事業成長が加速するだろう。

 ネット取引の普及で日本の投資家層は拡大していると思われがちだが、実情はやや異なる。日本証券業協会の調べによると、株式ネット取引の売買代金比率では30代が14・7%、30歳未満は2・5%にすぎない。またその大半は短期売買する投機家だ。中長期的な視点で企業に投資する投資家の裾野拡大は順調ではない。

 ベンチャー3社のサービスは手軽だが、短期売買を推奨するような内容ではなく、企業や世界経済の中長期的成長に期待し投資する内容。各社のサービスをきっかけに、日本の投資家層が拡大することも期待したい。
(文=鳥羽田継之)
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
既存の証券会社も若年層獲得に力を入れている。楽天証券はロボアドを使った安価で小口投資可能なラップを7月に開始。マネックスグループは、クレディセゾン、米バンガード・グループと「マネックス・セゾン・バンガード投資顧問」を立ち上げた。ロボアドを使い1万円からの投資可能なラップを秋にスタートする。 マネックスグループの松本大社長は「小口で安価なのは他社も一緒だが、世界最大級の資産運用会社であるバンガードのノウハウを生かせるのは当社だけ。他社と差別化できる」と自信を持っているようだ。

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