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「米中経済戦争」の内実を読み解く

著者インタビュー・津上俊哉氏「中国の影響力、長期的には下降に向う」
 ―本書はトランプ米大統領の就任直後、米国に行ったところから始まります。トランプ氏の対中国政策をどう評価しますか。
 「トランプはころころ変わる。就任前は『一つの中国』政策に疑問を呈したが、就任後にすぐ修正した。貿易赤字問題をハードに交渉するかと思ったら、北朝鮮問題に焦点を当てている」

 「一方、習近平は4月の米中首脳会談で『(北朝鮮に)今後は核実験をさせない』とアピールしてトランプを中国寄りにさせた。しかし北朝鮮が『それならば』とミサイルに注力したので、トランプにかけた魔法の効き目が薄れている」

 ―北朝鮮問題の深刻さについて書いています。
 「トランプによる先制攻撃を不安視する声があるが、一方で米国には『中国を本気にさせるために(障害になる)在韓米軍の撤収を検討せよ』との声もある。米国の核の傘の有効性も揺らいでおり、日本の安全保障は根底から揺らぎかねない」

 ―米国、中国の国際的な立場はどう変化しますか。
 「リーマン・ショックで終わったと見られた米国経済は復活してきたが、トランプが保護主義やアメリカファーストを激化させれば、米国の経済繁栄も覇権も終わる恐れがある」

 「その傍らで影響力を増している中国も、経済に深刻な問題を抱えている。中国の国際的な影響力は当面増大が続くが、長期的には下降に向かうだろう」

 ―やはり中国経済の未来は暗いのですか。
 「サービスやITなどニューエコノミーは日本の先を行く好調さだが、重厚長大産業や地方政府などオールドエコノミーの劣化が進行している。膨大な投資がカネを生まず借金も返せない、投資バブルを政府の信用で取り繕っているが、いつまでも続けられない」

 「日本はバブル崩壊後の経済の落ち込みを財政出動で穴埋めして社会の安定を保ったが、国に借金の山が残った。今の中国も似ている」

 ―本書では中国の資本流出についても分析しています。
 「資本流出と言っても、中国人(企業)が『元は先安』と見て資産を外貨建てに替え、外貨建て負債を繰り上げ償還する動きが大半なので、それで崩壊することはない。ただ、資本移動を厳しく制限して元安と資本流出は一服したが、カネが行き場を失い国内で資産バブルが起きやすくなっている」

 「世界銀行やアジア開発銀行などがアジアインフラ投資銀行(AIIB)に案件を回して協調融資させれば、AIIBを国際秩序色に染められ、中国の資産バブルも緩和できるのではないか」

 ―米国の未来をどう見ますか。
 「トランプ政権は史上まれなダメ政権になる予感がする。環太平洋連携協定(TPP)やパリ協定からの脱退など、何かをやめることはできても、議会の協賛が必要な政策はことごとく失敗している」

 「しかも『早晩弾劾されて辞任する』とも考えにくい。熱狂的なトランプ支持者がおり、引きずり降ろすと米国に深刻な分断が広がってしまうからだ。彼の任期中は、米国だけでなく世界の政治・経済に暗い影が差すだろう」
津上俊哉氏

(聞き手=鳥羽田継之)
【略歴】
80年(昭55)東大法卒。通商産業省(現経済産業省)に入省し、在中国日本国大使館経済部参事官、通商政策局北東アジア課長、経済産業研究所上席研究員を歴任し、退官後は現代中国研究家として活動。主な著書に『中国停滞の核心』『巨龍の苦闘』など。愛媛県出身、60歳。『「米中経済戦争」の内実を読み解く』(PHP研究所)
日刊工業新聞2017年8月21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
津上さんの講演を一度聞いたことある。とても示唆に富む内容が多かった。中長期の視点で中国をみたい方はぜひ。

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