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“デジタルトラベラー” の必需品、スマート決済は日本で広がるか

JTBがアリペイ導入支援、ピーチは「ビットコイン」決済
“デジタルトラベラー” の必需品、スマート決済は日本で広がるか

JTBが導入したアリペイ決済の窓口

 現金を使わずにスマートフォンで電車代や飲食代などを支払う“スマート決済”が広がっている。オンラインで宿泊や交通を予約してスマホ片手に旅行する“デジタルトラベラー”には不可欠なインフラだ。キャッシュレスを日常とする海外からの旅行客にとって、慣れ親しんだ決済手段が使える利便性は訪日満足度向上に直結する。旅行会社も観光地への誘客に、決済サービス導入支援の後押しを始めた。

 政府は2020年に訪日外国人観光客数4000万人、同旅行消費額8兆円の目標を掲げる。16年3月に策定した「観光ビジョン」にはストレスなく快適に観光できるよう「キャッシュレス環境の飛躍的改善」を盛り込んだ。20年に主要観光地でクレジットカードに完全対応し、欧米並みの環境を整備する。

 一方、国内には非接触ICカードの電子マネーが普及する。JR東日本「Suica」など交通系電子マネーは7月単月の利用件数が1億7000万件を突破。「ファストフード店などで加盟店が拡大」(JR東日本)を背景に急伸している。

 近距離無線通信(NFC)機能搭載のスマホで使う「モバイルSuica」の会員は6月末で465万人。昨秋、米アップル「iPhone(アイフォーン)」が対応して入会が加速した。

 交通系電子マネーは複雑な鉄道網利用時に切符購入の手間が省ける。しかしプリペイド(前払い)は、訪日客に便利だとは言い難い。

 中国などアジアではカード浸透前にスマホが普及し、新たな決済手段が生まれている。訪日客の大きな割合を占める同市場への配慮なくしてキャッシュレス化によるストレスフリーの意義は薄い。

 JTBは7月、中国流通大手のアリババグループが運営するスマホ決済サービス「アリペイ」の導入支援を始めた。3月時点の利用者は5億2000万人とされ、訪日中国人旅行者が日常的に利用する決済手段だ。加盟店への誘客につなげる。

 スマホのアプリケーション(応用ソフト)で表示した2次元コードを、店がモバイル端末で読み取ることで決済が完了。利用者の支払金は、登録したクレジットカードや預け金、銀行口座などから即時に引き落とされる。初期費用、手数料率ともにクレジットカードより低いのも特徴だ。

 JTBは取引先の旅館やホテル、土産品店に提案。「モノからコトへと広げる」(岩楯隆志事業開発室マネージャー)とし、人力車など“体験型観光”の料金収受にも、場所の制約なく、決済できる特性を訴求する。3年で2000カ所の加盟店獲得を目指すとともに、他の決済サービスへの対応も見据える。

 ANAホールディングス(HD)傘下の格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションは年内にも、中国人利用者が多い仮想通貨「ビットコイン」を使う決済システムを導入する。

 航空券を買えるようにするほか、北海道や東北、沖縄をモデル地区と設定して加盟店を増やす構想。「地方創生の新しい提案になる」(井上慎一最高経営責任者)と述べ、決済インフラの整備による観光地の魅力向上に期待する。
関空に設置するビットコインATM(中央)とピーチの井上CEO(中央左)

(文=小林広幸)
日刊工業新聞2017年8月14日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
スマート決済の歴史は浅く、各種決済手段が乱立する状態。今後も優勝劣敗が想定されるが、対応しなければ機会逸失の可能性もある。訪日旅行者は成長市場。観光業者もスマート決済の導入など情報通信技術(ICT)戦略は待ったなしだ。 (日刊工業新聞第二産業部・小林広幸)

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