低落する日本の科学技術力。文科省調査で浮き彫り
実行部隊”の大学院生が増えず。一流科学誌の掲載数シェアで中国に抜かれる
文部科学省の科学技術・学術政策研究所(NISTEP)がまとめた2017年科学技術動向調査のデータから見えてくるのは、日本の科学技術が全分野で低落している姿だ。大学などの研究開発予算が停滞し、論文全体数が伸びない中、質を高めて論文の被引用数を増やしてはいる。だが中国や欧米など科学技術に投資する海外勢の伸びが著しく、相対的に地位が低下。若者が夢を持ち研究の道を選べる環境整備が望まれる。
NISTEPは科学論文の量や質を定点観測する「科学研究のベンチマーキング」と、予算や人材、成果などの研究環境を定点観測する「科学技術指標」の17年版をまとめた。
日本全体の論文数を見ると04年に頭打ちし、10年以上減少傾向にある。このうち、論文の質を表す被引用数の多いトップ10%論文の度合いは微増したものの、英仏独や中国の伸びが著しく、地位が低下している。
一流科学誌の英ネイチャーと米セルの掲載数シェアでは日本は中国に抜かれ、米英独には大差をつけられた。海外勢が科学技術に投資するなか、日本の学術界は停滞している面が否めない。
その要因の一つが研究の“実行部隊”となる博士課程の大学院生が増えない点だ。
16年の理系博士の就職者は69%で、その内、無期雇用は51%。アルバイトなど単発的な仕事に就く「その他」が27%を占める。文系博士で無期雇用に就けるのは30%で「その他」の38%よりも少ない。死亡を含む「不明」は理系で11年が7%で16年が4%。文系は同21%から15%に改善しているが、依然として博士研究員(ポスドク)のキャリアは不透明だ。
また特許分析から産業界と学術界の分断も見えてきた。論文を引用した特許数の割合を調べたところ、バイオ医薬品の論文引用率を100%とすると化学が48%で情報通信が21%、機械工学が9%、自動車を中心とする輸送用機器が7%だった。
日本が国際競争力を持つ産業が実は学術界の論文を引用していない実態が明らかになった。海外と比べても電気工学は日本が16%に対し、米国は28%、ドイツが21%、英国は31%であり、日本は論文と特許の結びつきが弱いといえる。
一般的に技術や産業が成熟していくと、大学の基礎研究と企業の開発の関係は自然と離れていく。例えば材料科学分野では「冶金」、工学分野なら「電機・電子」や「機械」など実用領域の論文数が減っている。このまま分断が進むと、研究力が産業競争力につながりにくい構造に陥りかねない。
そこでNISTEP科学技術・学術基盤調査研究室の伊神正貫室長は、「大学発ベンチャーを一層興すか、組織連携で産と学の強みを補完する必要がある」と指摘する。
国や大学による基礎研究への長期投資が難しければ、産学連携で基礎研究とビジネスの接点を増やすことが重要だ。そして研究成果とその研究を支える人材育成は不可分だ。ポスドクのキャリアパスも開けるかもしれない。
(文=小寺貴之)
NISTEPは科学論文の量や質を定点観測する「科学研究のベンチマーキング」と、予算や人材、成果などの研究環境を定点観測する「科学技術指標」の17年版をまとめた。
日本全体の論文数を見ると04年に頭打ちし、10年以上減少傾向にある。このうち、論文の質を表す被引用数の多いトップ10%論文の度合いは微増したものの、英仏独や中国の伸びが著しく、地位が低下している。
一流科学誌の英ネイチャーと米セルの掲載数シェアでは日本は中国に抜かれ、米英独には大差をつけられた。海外勢が科学技術に投資するなか、日本の学術界は停滞している面が否めない。
ポスドクは使い捨てでいいのか?
その要因の一つが研究の“実行部隊”となる博士課程の大学院生が増えない点だ。
16年の理系博士の就職者は69%で、その内、無期雇用は51%。アルバイトなど単発的な仕事に就く「その他」が27%を占める。文系博士で無期雇用に就けるのは30%で「その他」の38%よりも少ない。死亡を含む「不明」は理系で11年が7%で16年が4%。文系は同21%から15%に改善しているが、依然として博士研究員(ポスドク)のキャリアは不透明だ。
また特許分析から産業界と学術界の分断も見えてきた。論文を引用した特許数の割合を調べたところ、バイオ医薬品の論文引用率を100%とすると化学が48%で情報通信が21%、機械工学が9%、自動車を中心とする輸送用機器が7%だった。
日本が国際競争力を持つ産業が実は学術界の論文を引用していない実態が明らかになった。海外と比べても電気工学は日本が16%に対し、米国は28%、ドイツが21%、英国は31%であり、日本は論文と特許の結びつきが弱いといえる。
一般的に技術や産業が成熟していくと、大学の基礎研究と企業の開発の関係は自然と離れていく。例えば材料科学分野では「冶金」、工学分野なら「電機・電子」や「機械」など実用領域の論文数が減っている。このまま分断が進むと、研究力が産業競争力につながりにくい構造に陥りかねない。
そこでNISTEP科学技術・学術基盤調査研究室の伊神正貫室長は、「大学発ベンチャーを一層興すか、組織連携で産と学の強みを補完する必要がある」と指摘する。
国や大学による基礎研究への長期投資が難しければ、産学連携で基礎研究とビジネスの接点を増やすことが重要だ。そして研究成果とその研究を支える人材育成は不可分だ。ポスドクのキャリアパスも開けるかもしれない。
(文=小寺貴之)