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ルネサスは研究開発で世界と戦えるか

日高CTOに聞く「グローバルでシナジーの成功例はできた」
 ルネサスエレクトロニクスが、研究開発体制の変革を推し進めている。半導体業界では先端プロセスの進展に伴い研究開発の負担が年々大きくなり、開発効率の向上が課題の一つになっている。経営再建フェーズから成長ステージへの一歩を踏み出したルネサスは、そのテーマにどう取り組むのか。最高技術責任者(CTO)の日高秀人執行役員に聞いた。

 ―研究開発体制は変わりましたか。
 「事業化、アウトプットをより重視するようになった。加えて各事業の横串を通すコア技術がなければ、製品の強みにならない。そこで、この2年くらいで『技術戦略会議』という組織を立ち上げた。技術の横串の部分を全て把握し、事業部の意向と開発側の戦略をマッチングして予算を設定する。単年度と2―3年先の中期サイクルで設定しており、それがようやく回り始めた」

 ―体制の変化は開発効率の向上につながっていますか。
 「技術サイクルはどんどん短くなっている。非常に速いテンポで製品を出さねばならない。そこでコア技術は自社で開発するが、非注力領域では、そのこだわりは捨てている。また以前はコア技術だったが、今は違う、ということもある。時間変化を密に精査し、取捨選択する。その能力はかなり上がっている」

 ―投資効率の向上も重要です。
 「昔は特許出願でもやみくもに数を出し、打率が低い時代があった。しかし質を高めるのが重要だ。その策の一つとして、新しい特許報酬制度を導入する」

 「従来は特許出願時、成立時、自社製品への採用時、他社製品への採用時に特許報酬を支払っていた。今後は全体の額は変えずに、出願時と成立時にまとめて支払う方式にする。以前は退職者に報奨が支払われるケースが多かったが、新制度の導入で現役社員に支払われる割合を大幅に上げる。社員のモチベーションと研究開発の質を高める好循環を生み出す」

 ―重点領域は。
 「自動運転や電気自動車(EV)、『インダストリー4・0』、IoT(モノのインターネット)が主なキーワードになる。その軸となる技術に人工知能(AI)、セキュリティー、セーフティー、コネクティビティー、低消費電力などを据える」

 ―車載用マイコンにAI技術を搭載する見通しは。
 「2018―19年頃には、部分的にだが、AIアルゴリズムを意識した製品を出したい」

 ―会社全体では「グローバル化」をテーマに掲げています。
 「最も象徴的なのが、マイコンと関連ソフトを一括して提供する『ルネサスシナジー』だ。これは米国の部隊が中心となって開発した初めての例だ。これで一つの成功例はできた。例えばベトナムの部隊はソフト開発が得意で、中国はハードウエアの設計が上手といった地域特性はあるように感じる。欧州では自動運転関連で相当な部隊があり、成果が期待できる」
(聞き手=政年佐貴恵)
日高秀人氏
日刊工業新聞2017年6月9日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
ルネサスの17年度売上高に占める研究開発費の比率は、16―17%を計画する。高い水準を維持するが、海外では20%超を投じる競合相手もいる。研究開発の時点でビジネスの勝敗が決まることが増えるとみられるだけに、開発部隊と事業部がより密に連携する土壌が整ったことは大きな成果だろう。今後は買収したインターシルとも同様の仕組みが作れるか、人材獲得競争を勝ち抜けるかも焦点になりそうだ。

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