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東日本大震災から6年、「わきたつ東北」

東北経済連合会会長(東北電力会長)海輪誠
東日本大震災から6年、「わきたつ東北」

海輪会長

 東北経済連合会は1月に将来ビジョンを策定した。「わきたつ東北」。2030年の地域の姿をこう表現した。

 内からわき上がるエネルギーに満ちあふれ、国内外の人を魅了する東北。あらゆる世代がやりがいを持ち心豊かに日々を過ごす東北。東日本大震災を機に強まった危機感と「何とかしなければ」という意欲の高まり、そして地域に生まれた新たな絆(きずな)。これらを原動力に「新しい東北」の実現へスタートを切るのは今しかない。

 それは同時に、東北特有の控えめな姿勢からの脱却を意味する。国の予算やプロジェクトに依存する「お上頼み」ではなく地域の関係者が「東北は一つ」との一体感の下、主体的・自立的にビジョンを遂行する姿、意識改革が求められている。
 
 「東北は一つ」は、およそ半世紀前にさかのぼる東北経済連合会創立以来の基本理念だ。しかしながら交通網の脆弱さや歴史的な背景などもあり、県境を越え地域全体を浮揚させる取り組みが弱かった。

 とはいえ、従来の発想のままでは激化する地域間競争には到底立ち向かえない。交流人口の拡大や地域経済の活性化へ官民が歩調を合わせ、新潟を含めた東北の一体感を醸成したい。

 経済団体の果たす役割はここにある。自治体は垣根を越えた取り組みに踏み出しにくい。それに代わって、われわれは東北全体の戦略の検討や具体的施策を推進する「場」を提供する。その枠組みのひとつとして産官学に金融機関を加えた各界トップが集い、本音で議論する会議の設立に取り組む。

 観光は広域連携の可能性が見いだしやすい分野だ。仙台空港の民営化や北海道新幹線の函館延伸も追い風にストーリー性ある周遊ルートを打ち出せば誘客拡大が期待できる。

 一例だが、世界遺産の平泉・中尊寺だけでなく山形県の出羽三山や下北半島の恐山などもスピリチュアルなスポットとして外国人観光客の注目が集まる可能性を秘めている。こうしたニーズに東北が一体となって応えることが必要だ。

 すでに実施している取り組みもある。東北各県の農林水産品を低温コンテナに混載して輸出し、物流効率化と東北産食材の販路開拓を後押しする。地元事業者と国の関係機関、自治体が連携してこそ実現できる官民プロモーションだ。

「東北は一つ」は着実に進展しつつある。

真の復興、国だけに頼らず


 西のスプリング8(SPring―8)に東のスリットJ(SLiT―J)―。こう称される最先端加速器産業の拠点を築くことを東北は目指している。

 ともに大型の放射光施設で、いわば大型の顕微鏡。原子・分子レベルで物質の形状や機能を調べられる。

 東北経済連合会や東北大学が中心となり構想を推進する「SLiT―J」は、兵庫県にある「SPring―8」と並ぶフラッグシップとなり得る施設で、産業ニーズが高いX線領域を得意とする。このような最先端施設が建設されれば、企業の研究開発拠点が東北に形成され、産業創出効果は大きい。

 2月中旬に開催された推進母体となる財団の設立総会で私はこう述べた。「国内外から研究者が集まるとともに、研究機関や生産施設が集積し、世界をリードする製品開発が行われる―。こうした“夢”の実現を目指したい」。

 建設費用は国の予算だけに頼るのではなく、民間からの出資も仰ぎ官民連携で実現する計画だ。財団では一口5000万円の出資金を募っており、すでに三菱重工業IHI日立製作所など30社ほどが賛同の意向を表明している。さらに多くの企業に参画していただきたい。

 東北にはもうひとつ壮大なプロジェクトがある。世界最先端の素粒子物理学の実験施設である国際リニアコライダー(ILC)の誘致である。

 世界の研究者の間では北上山地が適しているとの評価が下され、政府は誘致の是非を検討している。東北でも「ILC準備室」を設置し、受け入れに向けた討議を始めた。

 私たちが目指す地域の将来像「わきたつ東北」―。それは産業振興でも同様であり、ダイナミックで主体的な経済活動が繰り広げられる地域でありたいとの思いを込めている。

 企業と大学、あるいは地域内外の企業同士。さまざまな関係者が手を結び、協業する過程で新たな価値を生み出す「共創」の時代だからこそ、挑戦を育む地域でありたい。

 震災翌朝。名古屋から徹夜の強行軍で新潟を経由して仙台にたどり着いたあの日を境に、私自身の価値観も大きく変わった。長らく電力マンとして地域社会に身を置いてきたが、事業活動の域を超え、地域に寄せる思いは一層強くなっている。

 エネルギー問題をはじめ日本には克服しなければならない課題が山積する。しかし、それにとどまらず、私は私なりの思いを胸に東北の真の復興・創生に力を尽くしたい。
日刊工業新聞2017年3月8日/9日
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
昨年夏に東北6県と新潟県の知事らが台湾で観光PRを行いました。こうした取り組みが大きく報じられたこと自体、これまで東北地方の一体感が乏しかった裏返しでもあります。「オール東北」で取り組むことがひいては各県の活性化につながることを、関係者がまず実感することが第一歩と感じます。

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