氷河期就職は年収高い?低い?人事評価に“科学のメス”

東大など解析研究、データ分析で人材最適化

 日本には優れたモノづくりの技術や「おもてなし」のサービスがある。それらを支えるのは結局は人。企業は優れた人材の採用や育成に汗をかき、自社の成長に適したチーム作りに知恵を絞る。今、人事という組織の重要な取り組みに科学のメスを入れて分析し、活用する試みがある。“人事の科学”の解明を試みる東京大学社会科学研究所の大湾(おおわん)秀雄教授を訪ねた。

人事データ、生産力に作用


 2000年代から人事データを使う研究の有効性が認識されるようになってきた。すでにデンマークやスウェーデンなど北欧では政府が個人の職業や就職先の企業、収入の履歴などのデータを集め、研究者が利用できるようにしている。これを活用し、企業内部の独自の労働市場「内部労働市場」や転職、起業などの研究が盛んに行われている。遅ればせながら、日本でも研究が進みつつある。

 人事のデータから何が読み取れるのか。一例として挙がるのが社内の人事異動だ。人事異動には「人材育成」「人材配置」「インセンティブ」(意欲刺激)の3要素がある。

 どのような人がどの部署に異動しているかというデータを定量的に整理することで、異動のプロセスが企業全体の生産能力にどう作用するかを明らかにできるかもしれない。また各社の人事制度の有効性が分かれば、経営陣に課題や改善点を助言することもできるだろう。

就職氷河期入社は所得高い?


 人事給与パッケージソフト大手のワークスアプリケーションズ(東京都港区)の支援を受け、大湾教授は人事制度の設計や運用に関する研究を行っている。

 同社の顧客企業である製造業やサービス業の中の国内大手4社、計2万5000人のデータを分析。社員の学歴や家族構成、異動歴、給与、労働時間などのデータを基に、人事制度の有効性を調べ設計・運用上の課題を探す。こうした知見を人事制度の変更に役立てることが目的だ。分析した人事データで多くの理論を実証した。

  


 実証例の一つは「コーホート(同期)効果」だ。

 就職時の経済状況が何年も後になって賃金に影響を与える同期効果と呼ばれる現象がある。例えば、景気が悪いと学生の就職率が下がるが、この時期に就職した世代の年収は他の世代よりも低いと言われる。自分の能力とあまり関係ない仕事に就いたり、転職により今まで蓄積した技能を無駄にするなどで、所得が下がると考えられているからだ。

 一方、一つの企業の中で、就職難の時期に入社した社員は通常時に入社した世代の社員より収入が高くなる傾向にあるという。2社のデータの分析結果から、採用人数が通常の半分の世代では、入社した社員のその後20年間程度の所得が他の世代に比べ0・1―0・5%押し上げられることが分かった。

 この理由として、就職氷河期に特定の企業に就職できた人は同期の社員が少なく、その後の社内での競争相手が減る。その結果、昇進しやすくなり社内での年収が高くなるわけだ。

 大湾教授は、「日本では入社年ごとに昇格のタイミングを調整する『年次管理』と呼ばれる慣行があり、同期内で競わせる傾向がある。そのことが原因となっているのではないか」と予想する。

日刊工業新聞2017年1月5日

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昆 梓紗

昆 梓紗
01月05日
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