「国家戦略特区」それぞれの通信簿

計画進むも成果は本当に刈り取られるのか

 政府が規制改革の突破口と位置付けた「国家戦略特区」の成果が徐々に見え始めた。外国人材の活用や訪日外国人観光客の誘致、近未来技術の開発、医療など幅広い分野で、自治体による計画の具体化が進み、企業の参画も始まった。特区は当初の6区域から現在の10区域に拡大している。各地の動向を探った。

【千葉市】ドローン宅配で利便性向上


 千葉市の掲げる国家戦略特区指定のイメージは幕張副都心を中核にした「未来都市技術実証・多文化都市」の構築だ。ドローン(飛行ロボット)や自動走行車の活用による子育て世代や高齢者を含めた生活者の利便性向上の実現だ。

 特に「未来都市実証特区」としてドローンによる宅配の実現に力を注ぐ。東京湾臨海部の物流施設から幕張副都心のマンションに届ける構想だ。11月に2回目の実証実験を実施。幕張副都心に近い人工海浜「いなげの浜」から700メートル先の公園まで書籍などを運んだ。

 新たな試みとしてスマートフォンなどの通信に使うLTE回線を通じて、約40キロメートル離れた世田谷区からドローンを遠隔操作した。

 しかし、海上での飛行には航行する船舶への影響や漁協との関係など課題も多い。さらに騒音やプライバシー保護などクリアすべきハードルも多い。国家戦略特区の「千葉市ドローン宅配等分科会」を中心に制度改革、規制改革を進める。同分科会の下に技術検討会を設置し、2019年のドローン宅配実現に向け、実験を重ねていく。
マンション屋上へのドローンによる物資輸送に成功


【横浜市】外国人居住タワー着工


 横浜駅の「きた西口」(横浜市神奈川区鶴屋町)では、横浜市内に外資系企業を誘致するため住宅複合ビルの着工に向けた整備が進んでいる。高さ180メートルの職住近接型の外国人向け高層タワーが21年度に完成予定だ。

 国家戦略住宅整備事業の活用で、同地区の指定容積率が最終的に850%まで緩和されたことで、高層タワーの建設が可能となった。

 現在は18年度の着工に向けて、相鉄ホールディングスを中核とする相鉄グループや、東急電鉄などで構成する事業主体の「再開発準備組合」が、17年3月の組合格上げに向けて月に1回程度会議を開いている状況だ。

 タワー内はホテルや分譲物件のほか、短・中期滞在者に向けた家具付きアパートなども用意する見込み。24時間常駐の多言語コンシェルジュサービスや外国人を受け入れ可能な保育施設、子育て支援施設も検討している。

 横浜市の遠藤拓也横浜駅周辺等担当課長は「環境づくりを通して新たな需要を生み出していきたい」と話す。外国人向け住居の整備によって横浜市内へ外国企業の誘致を呼び込み国際競争力を高める。
外国人の入居を想定した職住近接型の住宅複合ビルの完成予想図


【愛知県】外国人の就労・居住、年2500人受け入れ


 愛知県は深刻化する労働力不足の解消に向けて「外国人雇用特区」を提案している。高度外国人材と単純労働者との中間に「産業人材」と呼ぶ新たな在留資格を設け、一定以上の能力を持つ外国人が就労・居住できるようにする。県は年2500人程度の受け入れを想定する。

 現行の技能実習制度の下で働いた外国人らに対し、再び国内での就労を許可することなどを検討。技能検定3級相当以上の技能を持つなど一定の要件を設ける一方、最長5年とする在留資格の更新も認める。

 県は15年11月に同特区を提案。国の作業部会から3回ヒアリングを受けた。特に低賃金労働者の雇用を奪わないよう、産業人材の受け入れは「年収が全産業平均を上回っている産業」に限定することにした。具体的には食料品、樹脂製品、金属製品、輸送用機械の生産工程を想定する。県は「世界から能力ある人材を受け入れ、企業の国際競争力を高めたい」(政策企画局企画課)としている。
       


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日刊工業新聞2016年12月29日「深層断面」

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三苫 能徳

三苫 能徳
12月30日
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成果が出るのであれば、どんどん進めてほしいと思います。一方で、この記事では挙がっていませんが、沖縄県も国家戦略特区に指定されているものの、特区制度を生かし切れていない印象です。さらには「国際物流も特区に加えては」との声も地場経済界の一部から出始めました。決して“特区の持ち腐れ”にならないことを期待します。

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