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25歳以上の大学進学率は1%台。日本で「学び直し」の機会に恵まれない理由

学費、大きな障壁。企業が個人の負担に「ただ乗り」
 社会人の「学び直し」の必要性が喧伝(けんでん)される一方、大学院へ入学する社会人の数は伸び悩みが続いている。2015年度、大学院の修士課程・専門職課程に入学した社会人は約1万1000人で、10年前の05年度とほぼ変わらない。国際的な比較でも日本の社会人の進学率の低さは際立ち、25歳以上の大学進学率は北欧諸国で10%近くに達する一方で、日本は1%台にとどまっている(OECD調査)。

 一方、社会人大学院は近年、非常に充実している。休日・夜間の開講、都心のキャンパス、実践性の高いカリキュラム、ITの活用−。環境的ハードルが下がったにもかかわらず、入学者が伸びないのはなぜか。

 大学院に入学する社会人は企業派遣が中心だった以前と異なり、今はほとんどが私費での進学だ。私の情報誌では毎年100人前後の社会人学生を取り上げるが、みな自らの貯金を投じて大学院で学習している。

 その生活はかなりハードだ。早朝のリポート作成、深夜に及ぶ勉強会やディスカッション、そして休日の授業。彼ら彼女らは時間をひねり出し、学習に力を尽くしている。しかし、個人の努力ではどうにもならない壁がある。「学費」である。

 大学院の教育は少人数で密度が高いこともあり、年間100万―200万円の学費が必要だ。特に意欲の高い30―40代では子どもの教育費と重なり、進学を断念するケースが多い。編集部調査でも社会人が一番ハードルとするのは「費用」。これが社会人学生の数が伸びない理由である。

イノベーションの担い手、育成を


 他の先進諸国では高等教育費用の公費負担割合は高く(OECD平均は7割、日本は約3割)、学生は無償やそれに近い形で学ぶことができる。フランスの国立大学の学費は年2万円強。日本の30―50分の1だ。

 大学院で学ぶために必要な「お金」「時間」「努力」。日本では、そのほとんどを学ぶ個人が負担している。学ぶ個人の自主的な負担に、社会や企業が、いわば「ただ乗り」している構図。これでは持続的に社会人の学びを促すのは難しい。

 そこで提言したいのが、社会人として一定の経験を積み、新たに大学院に入学する者の学費を公費負担する「無償化」である。自らの意思で「時間」「努力」を大学院に投資しようという個人に対して「お金」の部分は社会全体で投資しようというわけだ。

 これまで1000人以上の社会人学生を誌面で取り上げてきた経験から断言できるが、新たに大学院で学ぼうという意欲を持つ彼ら彼女らは、高いセルフマネジメント力を持つ。修了後に起業やイノベーションなど具体的な成果につなげるケースも多い。社会全体にとって、確実性が高く、かつ利回りのいい投資ではないだろうか。

(文=乾喜一郎 『社会人&学生のための大学・大学院選び』編集長)









日刊工業新聞2016年10月10日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
日本は再挑戦の機会に恵まれない国だとの指摘があります。社会人の学び直しが難しいのがその一例でしょう。優先順位からいけば相対的貧困状態にある生徒・学生への公的援助が先だと思いますが、意欲がある社会人への投資という視点はユニークだと思います。また、若年層の非正規雇用の拡大や賃金の低さ、正社員になっても長時間労働を強いられるといった、雇用環境を改善することも不可欠です。

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