日立のM&Aはうまくいってるのか。歴史から学び、これからを占う
企業には固有の「規模」や「時間」があり、そこから外れた事業に参入すると失敗する
日立製作所は2009年にグループ子会社の再編を終え、海外事業の再編に着手した。2012年、連結子会社でHDD駆動装置メーカーの日立グローバルストレージテクノロジーズ(日立GST)を、同事業で世界最大手の米国・ウエスタンデジタル(WD)に約3440億円(そのうち、約500億円分はWD社株)で譲渡した。約3440億円という金額は日立にとって過去最大の事業譲渡取引であった。
日立GSTの11年3月期の売上高は5268億円、営業利益は572億円。HDD市場における市場シェアは世界第3位の18%を持つ。同社は02年に約2400億円で米国・IBMから日立が買収した後、長らく赤字に苦しんできた。しかし、リーマン・ショック後に経営を立て直し、ようやく上場を目指せる段階にまで回復していた。
回復軌道に乗った子会社までも売却するに至ったのには理由がある。ストレージの需要は今後も増大すると考えられたが、日立がこれまで手掛けてきたパソコンや薄型テレビと同様、将来的に大衆化が進み過当競争に陥る懸念があった。また、売却により得た資金を、日立が今後の成長の柱と考えるインフラ関連など、社会イノベーション事業に注ぎ込みたいという理由もあった。
年月 内容
1989.1 日立データシステムズは、米国・ナショナルセミコンダクターより、ナショナル・アドバンスド・システムズを買収
1990.5 日立化成工業が米国・コールモーゲンの研究・開発部門が保有する株式100%を18億円にて取得
1998.10 日立建機は、スウェーデンのボルボが保有する鉱山用ダンプトラックで世界第3位のユークリッド日立の株式40%を30億円にて買い取り、子会社化
2000.1 日立は25%出資し、米GE、東芝と3社で、原子燃料の営業、設計、開発、製造部門を統合し、合弁会社のグローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパンを設立
2000.10 日立と三菱電機は、両社のホームエレベーター事業を統合し、3億円(50%)出資により、合弁会社の三菱日立ホームエレベーターを設立
2002.6 日立はストレージ管理ソフトウェアの開発会社である米国・コムストックの全株式を24億円にて買収
2002.12 日立は米国・IBMのハードディスクドライブ(HDD)事業部門の株式70%を2400億円にて買収
2003.3 バブコック日立(現・三菱日立パワーシステムズ)は、ドイツの大手ボイラーメーカー、バブコックボルジッヒグループのボイラー部門を24億円にて買収
2003.4 日立は55%出資により、三菱電機とシステムLSI事業を中心とする半導体の新会社ルネサスエレクトロニクスを設立
2003.7 日立の子会社が保有する日東電工の株式15.5%を1200億円にて譲渡
2004.3 日立はリコーに日立プリンティングソリューションズの全株式を譲渡することで合意
2004.4 日立金属は住友特殊金属(現・NEOMAX)の株式50%を取得、連結子会社化
2004.4 日立は15億円(49%)出資により、カシオ計算機と携帯電話端末の共同開発で提携、開発、設計、製造などを担う合弁会社を設立
2004.10 日立は55%出資により、オムロンとATM(現金自動預け払い機)などの情報機器事業を統合、合弁会社を設立
2005.1 日立は300億円(50%)出資により、東芝、松下電器産業とテレビ向け液晶パネルの製造・販売の合併会社IPSアルファテクノロジを設立
2005.2 日立と松下電器産業は、プラズマディスプレー事業の包括的協業を推進していくことで合意
2005.11 日立は保有する日立ハイテクノロジーズ500万株、日立システムサービス300万株を186億円にて譲渡
2006.4 日立は、日立モバイルへの出資比率を64.8%から100%とし完全子会社化
2006.11 クラリオンの株式を公開買付(TOB)により出資比率14.41%から63.66%まで追加取得
2007.1 日立と米国・GEは、新会社設立に関する基本合意書を締結
2007.4 日立金属は、磁石などを手掛ける子会社NEOMAXの株式49%を973億円にて取得
2007.9 日立マクセルは、粘着テープ製造・販売のスリオンテック(神奈川県)の株式93%を114億円にて、野村プリンシパル・ファイナンスから取得
2009.3 日立は、日立国際電気の株式を公開買付け(TOB)により104億円にて13%取得
2009.3 日立は子会社の日立工機の株式を公開買付け(TOB)により162億円にて10%取得
2009.10 日立は子会社の日立プラントテクノロジーの株式を公開買付け(TOB)により307億円にて94%取得
2009.10 日立は子会社の日立マクセルの株式を公開買付け(TOB)により686億円にて91%取得
2009.10 日立は子会社の日立情報システムズの株式を公開買付け(TOB)により576億円にて98%取得
2009.10 日立は子会社の日立システムアンドサービスの株式を公開買付け(TOB)により255億円にて99%取得
2009.10 日立は子会社の日立ソフトウェアエンジニアリングの株式を公開買付け(TOB)により730億円にて97%取得
2011.10 日立、三菱電機、三菱重工業の3社は、3社の水力発電システム事業をそれぞれ簡易吸収分割により、日立の子会社であるエイチエム水力に株式45%承継させる会社分割を行うことで承認することを決定
2012.3 日立は、子会社でHDD事業を行う日立グローバルストレージテクノロジーズの全株式を、米国のHDD世界最大手ウエスタンデジタル社へ約3440億円で譲渡
2012.6 日立パワーヨーロッパは、レモンディスの傘下であるドイツのクセルフォン・エナジーを買収
2012.11 日立は、英国の原子力発電事業開発会社であるホライズン・ニュークリア・パワーを889億円で全株式取得
2013.2 日立は、日立メディコの株式を公開買付け(TOB)により226億円で94%取得
2014.1 日立は35%出資により、三菱重工業と火力発電システムを主体とする分野で事業統合
2015.2 日立は、イタリアの防衛大手フィンメカニカ傘下にある鉄道関連2社を2600億円で株式の40%取得
2015.2 日立データシステムズはデータ管理の米国・ペンタホを買収
2015.6 日立は7億円(51%)出資により、電力・オートメーション企業であるスイス・ABBと国内向け高圧直流送電事業に関する合弁会社設立
2016.3 子会社の日立物流をSGホールディングスへ875億円で譲渡>
12年6月、グループ会社である日立パワーヨーロッパがドイツのクセルフォン・エナジーを買収している。同社はドイツの有力な発電プラントサービス会社の一つであり、ドイツ国内だけではなく周辺諸国にも顧客ネットワークを有し、東欧、中東、アフリカ諸国においても数多くの実績を残している。
さらに、同年11月には英国の原子力発電事業開発会社ホライズン・ニュークリア・パワーを約892億円で買収している。同社を買収したことによる業績への影響は、イギリスでの原子力発電所の建設が始まる前に許認可を得る必要があるため先の話となるが、将来的な収益源を狙った買収である。日立としては、当時の民主党政権下で脱原発へ向かう日本に依存せず、海外展開に活路を見出そうとする戦略があったことがうかがえる。
そして15年2月、日立にとって過去最大の買収となった、イタリアの防衛大手フィンメカニカ傘下にある鉄道関連企業、アンサルドブレダおよびアンサルドSTSの2社を買収する。
本買収も先の原子力事業と同じく、日立の戦略は成熟した国内鉄道市場から海外へ進出することであった。欧州の鉄道産業は世界の46.4%を占める世界最大の市場であり、日立にとっても決して無視できない市場であった。
日立にとって欧州への進出は喫緊の課題であったが、欧州ではすでに鉄道ビッグスリー(カナダ・ボンバルディア、ドイツ・シーメンス、フランス・アルストム)が牙城を築いていた。ビッグスリーの鉄道事業の売上高はいずれも8000億円を超え、日立の1700億円とはかなりの隔たりがあった。
しかし今回の買収により、アンサルドブレダの売上高約700億円と、アンサルドSTSの約1700億円が加算され合計して約4000億円となった。
日立は、00年代に入り事業構造の改編を行ってきたが、事業構造改善費用などにより財務体質は悪化している。98年度の赤字転落まで自己資本比率は順調に上昇していたが、赤字転落して以降、右肩下がりに下降し、90年代に30%を超えていた自己資本比率はリーマン・ショック時の最も厳しかった08年度には、11.2%を記録する。
その後、09年度の増資、10年度の利益回復によって15.7%まで戻し、直近15年3月期では23.66%まで回復しているが、同様に社会インフラ系事業を行っている三菱電機や富士電機の直近の自己資本比率が30%以上となっていることを考慮すると、財務体質の改善が引き続き必要と言えるのではないだろうか。
日立はバブル経済崩壊以降、20年以上に及び事業改善を行ってきた。そして、その成果がようやく財務諸表に現れ始めた。ただ、いっそうの継続的な成長のためには、事業の柱に据えている社会イノベーション事業や情報・通信システム、産業・交通・都市開発システム、電力システム、これらの融合分野および材料・キーデバイスの分野の強みを生かした収益事業の強化がこれからも求められる。
日立は事業再編の一環として、15年から研究開発の組織体制を刷新している。国内外の複数の研究拠点を3つの統括本部およびセンターに集約した。目的は、研究者が顧客とともに課題解決のソリューションをつくるという、顧客起点型の研究開発体制を確立することにある。これまでも研究者が顧客と連携することはあったものの限定的であり、継続的な活動はできていなかった。
この再編により、米州、欧州、中国、アジアの4地域に総代表を据える組織体制を築き、各地域の市場や顧客ニーズを踏まえた経営判断が行えるようになった。
また、今後の海外事業を強化するため、社会イノベーション事業の海外展開を加速させることを計画しており、直近15年2月にはビッグデータ分析ソフトウェア会社の米国・Pentahoの買収を発表している。
20年以上におよぶ苦しい時代を乗り越えて事業改善を続けてきた日立は、日本のほかの電機メーカーが苦戦する中、見事に業態転換を図ってきたといえる。
しかし、完全に復活したと言い切るのには成果が不十分であり、収益力だけでなくさらなる財務体質の改善、社会イノベーション事業を核にした今後の経営戦略がどのように展開されていくか期待される。
<次のページは、HDD事業売却「決断できる経営」示す>
日立GSTの11年3月期の売上高は5268億円、営業利益は572億円。HDD市場における市場シェアは世界第3位の18%を持つ。同社は02年に約2400億円で米国・IBMから日立が買収した後、長らく赤字に苦しんできた。しかし、リーマン・ショック後に経営を立て直し、ようやく上場を目指せる段階にまで回復していた。
回復軌道に乗った子会社までも売却するに至ったのには理由がある。ストレージの需要は今後も増大すると考えられたが、日立がこれまで手掛けてきたパソコンや薄型テレビと同様、将来的に大衆化が進み過当競争に陥る懸念があった。また、売却により得た資金を、日立が今後の成長の柱と考えるインフラ関連など、社会イノベーション事業に注ぎ込みたいという理由もあった。
日立製作所が行った主なM&A
1989.1 日立データシステムズは、米国・ナショナルセミコンダクターより、ナショナル・アドバンスド・システムズを買収
1990.5 日立化成工業が米国・コールモーゲンの研究・開発部門が保有する株式100%を18億円にて取得
1998.10 日立建機は、スウェーデンのボルボが保有する鉱山用ダンプトラックで世界第3位のユークリッド日立の株式40%を30億円にて買い取り、子会社化
2000.1 日立は25%出資し、米GE、東芝と3社で、原子燃料の営業、設計、開発、製造部門を統合し、合弁会社のグローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパンを設立
2000.10 日立と三菱電機は、両社のホームエレベーター事業を統合し、3億円(50%)出資により、合弁会社の三菱日立ホームエレベーターを設立
2002.6 日立はストレージ管理ソフトウェアの開発会社である米国・コムストックの全株式を24億円にて買収
2002.12 日立は米国・IBMのハードディスクドライブ(HDD)事業部門の株式70%を2400億円にて買収
2003.3 バブコック日立(現・三菱日立パワーシステムズ)は、ドイツの大手ボイラーメーカー、バブコックボルジッヒグループのボイラー部門を24億円にて買収
2003.4 日立は55%出資により、三菱電機とシステムLSI事業を中心とする半導体の新会社ルネサスエレクトロニクスを設立
2003.7 日立の子会社が保有する日東電工の株式15.5%を1200億円にて譲渡
2004.3 日立はリコーに日立プリンティングソリューションズの全株式を譲渡することで合意
2004.4 日立金属は住友特殊金属(現・NEOMAX)の株式50%を取得、連結子会社化
2004.4 日立は15億円(49%)出資により、カシオ計算機と携帯電話端末の共同開発で提携、開発、設計、製造などを担う合弁会社を設立
2004.10 日立は55%出資により、オムロンとATM(現金自動預け払い機)などの情報機器事業を統合、合弁会社を設立
2005.1 日立は300億円(50%)出資により、東芝、松下電器産業とテレビ向け液晶パネルの製造・販売の合併会社IPSアルファテクノロジを設立
2005.2 日立と松下電器産業は、プラズマディスプレー事業の包括的協業を推進していくことで合意
2005.11 日立は保有する日立ハイテクノロジーズ500万株、日立システムサービス300万株を186億円にて譲渡
2006.4 日立は、日立モバイルへの出資比率を64.8%から100%とし完全子会社化
2006.11 クラリオンの株式を公開買付(TOB)により出資比率14.41%から63.66%まで追加取得
2007.1 日立と米国・GEは、新会社設立に関する基本合意書を締結
2007.4 日立金属は、磁石などを手掛ける子会社NEOMAXの株式49%を973億円にて取得
2007.9 日立マクセルは、粘着テープ製造・販売のスリオンテック(神奈川県)の株式93%を114億円にて、野村プリンシパル・ファイナンスから取得
2009.3 日立は、日立国際電気の株式を公開買付け(TOB)により104億円にて13%取得
2009.3 日立は子会社の日立工機の株式を公開買付け(TOB)により162億円にて10%取得
2009.10 日立は子会社の日立プラントテクノロジーの株式を公開買付け(TOB)により307億円にて94%取得
2009.10 日立は子会社の日立マクセルの株式を公開買付け(TOB)により686億円にて91%取得
2009.10 日立は子会社の日立情報システムズの株式を公開買付け(TOB)により576億円にて98%取得
2009.10 日立は子会社の日立システムアンドサービスの株式を公開買付け(TOB)により255億円にて99%取得
2009.10 日立は子会社の日立ソフトウェアエンジニアリングの株式を公開買付け(TOB)により730億円にて97%取得
2011.10 日立、三菱電機、三菱重工業の3社は、3社の水力発電システム事業をそれぞれ簡易吸収分割により、日立の子会社であるエイチエム水力に株式45%承継させる会社分割を行うことで承認することを決定
2012.3 日立は、子会社でHDD事業を行う日立グローバルストレージテクノロジーズの全株式を、米国のHDD世界最大手ウエスタンデジタル社へ約3440億円で譲渡
2012.6 日立パワーヨーロッパは、レモンディスの傘下であるドイツのクセルフォン・エナジーを買収
2012.11 日立は、英国の原子力発電事業開発会社であるホライズン・ニュークリア・パワーを889億円で全株式取得
2013.2 日立は、日立メディコの株式を公開買付け(TOB)により226億円で94%取得
2014.1 日立は35%出資により、三菱重工業と火力発電システムを主体とする分野で事業統合
2015.2 日立は、イタリアの防衛大手フィンメカニカ傘下にある鉄道関連2社を2600億円で株式の40%取得
2015.2 日立データシステムズはデータ管理の米国・ペンタホを買収
2015.6 日立は7億円(51%)出資により、電力・オートメーション企業であるスイス・ABBと国内向け高圧直流送電事業に関する合弁会社設立
2016.3 子会社の日立物流をSGホールディングスへ875億円で譲渡>
海外市場への進出を図る
12年6月、グループ会社である日立パワーヨーロッパがドイツのクセルフォン・エナジーを買収している。同社はドイツの有力な発電プラントサービス会社の一つであり、ドイツ国内だけではなく周辺諸国にも顧客ネットワークを有し、東欧、中東、アフリカ諸国においても数多くの実績を残している。
さらに、同年11月には英国の原子力発電事業開発会社ホライズン・ニュークリア・パワーを約892億円で買収している。同社を買収したことによる業績への影響は、イギリスでの原子力発電所の建設が始まる前に許認可を得る必要があるため先の話となるが、将来的な収益源を狙った買収である。日立としては、当時の民主党政権下で脱原発へ向かう日本に依存せず、海外展開に活路を見出そうとする戦略があったことがうかがえる。
そして15年2月、日立にとって過去最大の買収となった、イタリアの防衛大手フィンメカニカ傘下にある鉄道関連企業、アンサルドブレダおよびアンサルドSTSの2社を買収する。
本買収も先の原子力事業と同じく、日立の戦略は成熟した国内鉄道市場から海外へ進出することであった。欧州の鉄道産業は世界の46.4%を占める世界最大の市場であり、日立にとっても決して無視できない市場であった。
日立にとって欧州への進出は喫緊の課題であったが、欧州ではすでに鉄道ビッグスリー(カナダ・ボンバルディア、ドイツ・シーメンス、フランス・アルストム)が牙城を築いていた。ビッグスリーの鉄道事業の売上高はいずれも8000億円を超え、日立の1700億円とはかなりの隔たりがあった。
しかし今回の買収により、アンサルドブレダの売上高約700億円と、アンサルドSTSの約1700億円が加算され合計して約4000億円となった。
事業構造改善の一方で財務体質は悪化
日立は、00年代に入り事業構造の改編を行ってきたが、事業構造改善費用などにより財務体質は悪化している。98年度の赤字転落まで自己資本比率は順調に上昇していたが、赤字転落して以降、右肩下がりに下降し、90年代に30%を超えていた自己資本比率はリーマン・ショック時の最も厳しかった08年度には、11.2%を記録する。
その後、09年度の増資、10年度の利益回復によって15.7%まで戻し、直近15年3月期では23.66%まで回復しているが、同様に社会インフラ系事業を行っている三菱電機や富士電機の直近の自己資本比率が30%以上となっていることを考慮すると、財務体質の改善が引き続き必要と言えるのではないだろうか。
さらなる再編と海外強化を目標に
日立はバブル経済崩壊以降、20年以上に及び事業改善を行ってきた。そして、その成果がようやく財務諸表に現れ始めた。ただ、いっそうの継続的な成長のためには、事業の柱に据えている社会イノベーション事業や情報・通信システム、産業・交通・都市開発システム、電力システム、これらの融合分野および材料・キーデバイスの分野の強みを生かした収益事業の強化がこれからも求められる。
日立は事業再編の一環として、15年から研究開発の組織体制を刷新している。国内外の複数の研究拠点を3つの統括本部およびセンターに集約した。目的は、研究者が顧客とともに課題解決のソリューションをつくるという、顧客起点型の研究開発体制を確立することにある。これまでも研究者が顧客と連携することはあったものの限定的であり、継続的な活動はできていなかった。
この再編により、米州、欧州、中国、アジアの4地域に総代表を据える組織体制を築き、各地域の市場や顧客ニーズを踏まえた経営判断が行えるようになった。
また、今後の海外事業を強化するため、社会イノベーション事業の海外展開を加速させることを計画しており、直近15年2月にはビッグデータ分析ソフトウェア会社の米国・Pentahoの買収を発表している。
20年以上におよぶ苦しい時代を乗り越えて事業改善を続けてきた日立は、日本のほかの電機メーカーが苦戦する中、見事に業態転換を図ってきたといえる。
しかし、完全に復活したと言い切るのには成果が不十分であり、収益力だけでなくさらなる財務体質の改善、社会イノベーション事業を核にした今後の経営戦略がどのように展開されていくか期待される。
<次のページは、HDD事業売却「決断できる経営」示す>
2016年1月8日公開