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お客は「親友!」メルマガ経由で売上の6割を稼ぐワインECサイト

文=尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO)「Vinomofo」のマーケティングの極意
 「Vinomofo」https://vinomofo.com/はオーストラリアにあるワインのECサイトだ。このサイトの特徴は「グルーポンモデル(フラッシュマーケティング)」でワインを販売していることにある。

 「グルーポン」と聞くと、ニュースを騒がせた「スカスカのおせち」を思い出してしまい、良いイメージがわかない人も多いだろう。おせちだけではなく、その他のクーポンも「あからさまに品質の低いサービスを受けた」など、確かに安いが気分が悪い…そんな経験をしたこともままあるようだ。

 そんなグルーポンのビジネスモデルをワインに活用した「Vinomofo」。2011年に豪州で設立された同社は、2014年度に2200万豪ドル(約18億9200万円)を売り上げた。「グルーポンブーム」が終わった今でもなお、右肩上がりの成長を遂げている。

 なぜ「Vinomofo」はグルーポンモデルで成長を続けるのか? その秘密はマーケティングに対する真摯な考え方にあった。

きっかけはワイン愛好者のためのコミュニテイサイト


 顧客との“密”な関係作りが、急成長の要因となっている「Vinomofo」のポイント
 ●ワイン通である顧客の信頼を裏切らない質の高い商品の販売
 ●売り上げの6割はメルマガ経由が占める顧客との関係性
 ●顧客は「商品を買う人」ではなく、「親友」という位置付け

 「Vinomofo」創業者のAndre Eikmeier(エークメーアー、写真左)氏は9歳の頃からオーストラリアの俳優として活動。そのかたわらマキュアリー大学で経済学を学び、卒業後はプロモーションビデオを作る会社の経営に携わっていたという。

 この製作会社のクライアントにはワイン農家がいたため、やがてエクメーアー氏自身がワイン通となり、ワインに関連したビジネスを手がけたいと考えるようになった。

 そこで、「あるワインを飲んだことのある利用者が、まだ飲んだことのない利用者にアドバイスする」という切り口のワイン専門のレビューサイトを運営することを考案。2006年に「redcellar.com」(現在は停止されている)というサイトを開設する。

 さらに、ある時、南米旅行から帰ってきた義兄のJustin Dry(ドライ)氏が、旅行者同士のコミュニティ作りや情報交換に使われているとして、当時始まったばかりの「Facebook」のことを教えてくれた。エークメーアー氏とドライ氏は、「Facebook」という新しいツールをチェックして、このコミュニティの要素を「レビューサイトに付加してみると面白いのでは」と話し合った。

 そして2007年にワインのレビューとオンラインコミュニティの両機能を持った「Qwoff」(こちらも現在は停止)を開設した。この「Qwoff」をはじめ、運営者であるエークメーアー氏らは、次第にソーシャルメディアやネットで広く認知されるようになっていく。

 その背景には、2人が青色のバンを運転して豪州全土のワインの生産地をめぐる旅を撮影した「Youtube」動画「Road to Vino」(和訳:ワインへの道)や、ワインをテーマにしたブログ執筆の製作などにもチャレンジするなど、自分たちが「やりたいこと」に積極的に取り組んだこともあったようだ。

 もっとも、これらの試みは残念ながら大きな収益にはつながっていなかった。奥さんからは「充分に稼げないようであれば別の仕事を探して欲しい」とつつかれ、その都度、待ってもらうことでなんとかその場をしのいでいる状態だった。

 「サイトの評判は良いのに経営的には苦戦」という状態に悩んでいたある日のこと。ドライ氏はオフィスに帰ると、「ワイン版のグルーポンを作るぞ!」とエークメーア氏に提案した。エークメーアー氏は「正気か?」と聞きかえした。収益を得るためにはワイン販売が一番良いことはわかっていたが、サイトのコミュニティのメンバーにワインを販売するのは“功利的”に思えて抵抗を感じていたからだ。

 しかし、思い切ってコミュニティのメンバーに意見を聞いてみると、多くの人が「僕たちは君たちのことを信頼している。君たちは僕たちのワインの好みを十分に知っているだろうし、君たちがおすすめするワインを買うのも良いと思っている」と言ってくれた。

 そこでコミュニティの購買力を活用し、低価格のワインを期間限定で販売するグルーポン型のフラッシュマーケティングを開始。すると、すぐに21箱の注文が入り、3か月以内で15万豪ドル(約1290万円)を売り上げるまでに成長した。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
フラッシュマーケティングは信頼という基盤があれば実に効果的に活用できるよい事例。メルマガは信頼を得る上で大事なコミュニケーションになっているが、最近は手触り感のあるアナログな「手紙」やDMが意外と効果があると聞く。

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