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スタート時の出資比率は15%未満だが、WDが埋め込んだ地雷

東芝メモリ売却は予断許さず。提案書には将来の出資引き上げが…
スタート時の出資比率は15%未満だが、WDが埋め込んだ地雷

WDのミリガンCEO(左)と東芝の綱川社長

 東芝が進める半導体メモリー事業売却の行く先を覆う霧が、依然として晴れない。提携先の米ウエスタンデジタル(WD)などが構成する「新日米連合」と大筋合意したが、将来WDが経営権取得に動く懸念を完全に払拭(ふっしょく)できていない。また新日米連合が滞りなく正式発足するか予断を許さない。これら二つの課題を解決し、契約にこぎ着けられるか。取引先銀行が求める8月末という期限に間に合わせるのは難しいという悲観論も出ている。

 「スタート時のWDの出資比率は15%未満。しかしWDからの提案書には将来の出資引き上げを示す“地雷”が埋め込まれている」と東芝関係者は話す。

 同社は半導体子会社「東芝メモリ」売却の優先交渉先を、WDや政府系ファンド・産業革新機構が構成する「新日米連合」に切り替えた。

 WDが起こした訴訟が障害となり韓国SKハイニックスや米ファンド・ベインキャピタル、革新機構による「日米韓連合」との交渉が暗礁に乗り上げたためだ。

 東芝は係争状態の解消、WDは東芝への出資という双方のメリットが新日米連合の形成を後押ししたが、WDの出資比率が焦点。

 東芝は東芝メモリを2018年3月末までに売却し、上場廃止となる2期連続の債務超過を避ける計画。独占禁止法の審査が長引くリスクが高まるため、WDに15%未満の出資に抑えるよう求めた。

 WDは、4月に持ち上がった最初の日米連合計画の際に提案に盛り込んでいた「将来の経営統合」の文言を削除するなど一定の譲歩をみせるが、出資比率引き上げを意図する文言の完全削除には至っていない模様。この状況を放置して売却契約を結べば、独禁法審査が長期化し、さらにWDに経営の主導権を握られるという最悪の事態になりかねない。

 新日米連合が滞りなく正式発足するかも懸念材料だ。革新機構と日本政策投資銀行は連合の相手をSKハイニックス、ベインからWD、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に乗り換える形。情報を共有していた仲間に裏切られる格好のベインは難色を示し「説明を求める文書を関係者に送った」(業界関係者)。

 WDのスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)が来日し、綱川智東芝社長や経済産業省幹部、革新機構幹部と会談し契約締結に向け詰めの協議を行っているが、週明け時点で東芝と新日米連合は正式な交渉テーブルにつけていない。

 期限まで残りわずか。革新機構関係者は「論点は整理できた」とし契約に自信を示すが、東芝関係者は「全力を尽くすが、簡単ではない」と話す。それでも取引行は、売却手続きを前進させるため、独禁法リスクを飲み込み東芝に契約締結を求める可能性がある。
                 

(文=後藤信之)
日刊工業新聞2017年8月29日
後藤信之
後藤信之 Goto Nobuyuki ニュースセンター
金額に加え、できるだけ良い条件、良い相手に東芝メモリを売りたい東芝。売却ありきで条件・相手は二の次という銀行とでバトルは激しさを増す。いつの時代もお金の出し手の力は強い。

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