「敵はアマゾン、アリババ」-銀行業界に迫る脅威
異業種参入、相次ぐ。金融持ち株会社の規制緩和が焦点に
銀行の「アンバンドリング化」(機能分化)が欧米で叫ばれて久しい。ITや流通など事業会社が金融業界に参入し、急速に垣根が低くなる中、銀行業界が担っていた決済などの役割が奪われかねないとの指摘だ。日本でも楽天やヤフーがグループ会社を通じて、決済サービスにとどまらず、モールの出店者向けの融資まで始めた。メガバンク関係者は「お手並み拝見」と余裕をみせるが、新興勢力は新たなビジネスモデルを緩やかだが確実に築きつつある。
■銀行“静観”動き鈍く-生き残りへITと融合
「このままではバックオフィスになってしまう」。大手銀行グループのりそなホールディングスの東和浩社長の一語が銀行業界を襲う強烈な変化を物語る。オムニチャンネル、ビッグデータ。同社の経営戦略を眺めるとITと切り離せない文言が並ぶ。東社長にとっては当然、IT業界の動きは目に入る。
米アマゾン、中国のアリババ集団。近年海外では、電子商取引を扱う流通系企業が金融業に参入。彼らがネット決済を自ら担うことで起きているのが「アンバンドリング化」だ。
電子商取引業者が決済サービスを始めることで顧客を囲い込む。結果、既存の金融機関はビッグデータ時代に宝の山となる購買履歴が中抜きされる。融資業務にまで参入してきている。
警戒感を示すのは、都市銀行だけでない。「アマゾンは脅威」。静岡銀行の中西勝則頭取は危機感を隠さない。地銀再編の火ぶたが切られた中、「地銀の雄」として動向が注目されるが、中西頭取の頭を占めるのは銀行間の連携よりも異業種との提携だ。
2014年にはマネックスグループに出資して、新たな決済サービスを模索する。現在もメーカーなど異業種との従来にないサービスの提供を構想する。低金利下で本業の貸し出しで収益が拡大できない中、ITとの融合は生き残りのためには不可欠との姿勢を打ち出す。
【中小向け脅威拡大】
米国では金融とITの融合が進む。00年代に入り銀行規制の解釈が変更され、銀行が仮想モールを運営できるようになった。ウェルズ・ファーゴなど大手は自社で手がけ、新たな金融サービスを提供する。ソフトウエア開発企業などを買収する動きも広まる。
一方、日本では銀行法の規制もあり、業界の動きは鈍かったが、19日に会見した全国銀行協会の平野信行会長(三菱東京UFJ銀行頭取)は、業界の脅威として「ICTをテコにした他業態の金融事業への進出」を挙げた。「リテール(個人や中小企業向け)に関して大きな脅威」と語る。実際、脅威は顕在化しつつある。
■「モノの動き把握」強み-直近の販売実績基に融資判断
「十分に決算書に代わる判断材料になる」とジャパンネット銀行(JNB)の岡本康昭執行役員は強調する。 JNBは筆頭株主の1社であるヤフーとの提携をいかしてインターネットショッピングモール「Yahoo!ショッピング」の出店事業者向けにローンサービスの提供を1月に始めた。
最大の強みは決算書ではなく、リアルタイムでの「モノ」の動きを把握している点だ。従来の銀行と異なり、融資判断にはYahoo!ショッピングでの販売実績を基に直近一定期間の売り上げ推移や客からの評価などを参考にする。
最大貸出金額は1000万円。無担保で、保証人や決算書の提出は不要。早ければ翌日には融資する。簡単・速いを特徴として、従来、大手銀行からの資金調達が難しかった小規模事業者への融資を順調に伸ばしている。
かつて無担保のスピードローンは都銀各行が参入したが、三井住友銀行を除き軒並み撤退した。だが、岡本執行役員は「ビジネスモデルが間違っているとは思っていない」と語る。関係者は「一般の銀行と比べても貸し倒れの引き当て比率は低いのではとみている」と胸を張る。
融資規模で3年後には数百億円を目指す。今後はデータを蓄積して審査の効率化を図り、将来的にはYahoo!ショッピング出展企業以外への展開も視野に入れる。
【スマホで決済】
「日本で急拡大している金融事業をこれからも伸ばしていく」。楽天の穂坂雅之副社長は意気込む。カードや銀行以外にも証券や保険、さらに最近はスマートフォンを活用したクレジットカード決済サービスなど金融事業を拡大している。
その勢いはとどまるところを知らず、楽天カードはインターネットショッピングモール「楽天市場」の出店事業者向けに、限度枠内で必要な金額を繰り返し資金調達できる極度方式基本契約のローンを1月に開始した。
これまでも融資ごとに契約する証書貸付契約のローンを提供してきたが、極度方式では初回審査を通過すれば一定の期間、限度枠内の範囲であれば継続して仕入れ目的の運転資金を提供する。出店事業者は融資を受ける度に契約を更新する必要はなく、翌日には融資を受けられるため、スピーディーで柔軟性のある資金調達が可能となる。
貸出金額は最大3000万円だが、月商3カ月分くらいを一つのめどとする。担保は取らず、楽天市場での過去の履歴を重視して融資判断する。決算書を提出してもらうが、楽天市場での売り上げ動向など「もっと細かく日々の売り上げ推移なども見る」(大山隆司執行役員)ことで判断する。そのため、「貸し倒れは当初の想定より低い」(同)。
用途としては仕入れ資金が大半のため、楽天市場が盛り上がれば融資も伸びる。ニーズのあるところに適切な融資がされれば、楽天市場もさらに盛り上がる。顧客を囲い込む好循環がグループの持続成長を実現する。
【ニーズに迅速対応】
インターネット上の販売では、顧客ニーズの高いモノを早く仕入れ、売らないと商機を失う。ヤフーも楽天もグループの金融機能をいかし、ネット販売上での直近の動向を融資の判断材料に用いて顧客の資金ニーズに素早く対応できるようにしている。
従来の大手銀行からは取り残されていたニーズをうまく拾い上げ、金融とネット販売の両面で成長を図る。
特に楽天は楽天市場で知られるが、グループ営業利益の約45%を金融事業が稼ぐ。既存の銀行から見れば規模はまだ歯牙にもかけない存在だが、楽天銀行が法人向け融資を検討するなど領域を確実に拡大している。世界で進む「サービス・モノ」と金融の融合を日本で体現する「申し子」は無視できない存在になりつつある。
≪金融持ち株会社の規制緩和検討-業務範囲の拡大焦点≫
金融庁は金融持ち株会社の規制緩和の検討に入っている。金融持ち株会社の傘下子会社の業務範囲を拡大することで、電子商取引やスマートフォンを使った決済に参入しやすくする。銀行の健全性を維持するために業務範囲や投資上限額が改正案の焦点になる。年内にも方向性をまとめ、早ければ16年の通常国会に銀行法の改正案が提出される。
金融庁が規制緩和に動くのは、情報技術や購買行動の変化で銀行グループが自前の技術だけでは十分に対応できない状況が生まれてきた背景がある。銀行法はこれまで健全性の観点から、金融持ち株会社に金融事業以外への出資を制限していた。IT企業を買収して新たなサービスを提供することで、銀行自体の収益改善や消費者の利便性向上につながる。
■銀行“静観”動き鈍く-生き残りへITと融合
「このままではバックオフィスになってしまう」。大手銀行グループのりそなホールディングスの東和浩社長の一語が銀行業界を襲う強烈な変化を物語る。オムニチャンネル、ビッグデータ。同社の経営戦略を眺めるとITと切り離せない文言が並ぶ。東社長にとっては当然、IT業界の動きは目に入る。
米アマゾン、中国のアリババ集団。近年海外では、電子商取引を扱う流通系企業が金融業に参入。彼らがネット決済を自ら担うことで起きているのが「アンバンドリング化」だ。
電子商取引業者が決済サービスを始めることで顧客を囲い込む。結果、既存の金融機関はビッグデータ時代に宝の山となる購買履歴が中抜きされる。融資業務にまで参入してきている。
警戒感を示すのは、都市銀行だけでない。「アマゾンは脅威」。静岡銀行の中西勝則頭取は危機感を隠さない。地銀再編の火ぶたが切られた中、「地銀の雄」として動向が注目されるが、中西頭取の頭を占めるのは銀行間の連携よりも異業種との提携だ。
2014年にはマネックスグループに出資して、新たな決済サービスを模索する。現在もメーカーなど異業種との従来にないサービスの提供を構想する。低金利下で本業の貸し出しで収益が拡大できない中、ITとの融合は生き残りのためには不可欠との姿勢を打ち出す。
【中小向け脅威拡大】
米国では金融とITの融合が進む。00年代に入り銀行規制の解釈が変更され、銀行が仮想モールを運営できるようになった。ウェルズ・ファーゴなど大手は自社で手がけ、新たな金融サービスを提供する。ソフトウエア開発企業などを買収する動きも広まる。
一方、日本では銀行法の規制もあり、業界の動きは鈍かったが、19日に会見した全国銀行協会の平野信行会長(三菱東京UFJ銀行頭取)は、業界の脅威として「ICTをテコにした他業態の金融事業への進出」を挙げた。「リテール(個人や中小企業向け)に関して大きな脅威」と語る。実際、脅威は顕在化しつつある。
■「モノの動き把握」強み-直近の販売実績基に融資判断
「十分に決算書に代わる判断材料になる」とジャパンネット銀行(JNB)の岡本康昭執行役員は強調する。 JNBは筆頭株主の1社であるヤフーとの提携をいかしてインターネットショッピングモール「Yahoo!ショッピング」の出店事業者向けにローンサービスの提供を1月に始めた。
最大の強みは決算書ではなく、リアルタイムでの「モノ」の動きを把握している点だ。従来の銀行と異なり、融資判断にはYahoo!ショッピングでの販売実績を基に直近一定期間の売り上げ推移や客からの評価などを参考にする。
最大貸出金額は1000万円。無担保で、保証人や決算書の提出は不要。早ければ翌日には融資する。簡単・速いを特徴として、従来、大手銀行からの資金調達が難しかった小規模事業者への融資を順調に伸ばしている。
かつて無担保のスピードローンは都銀各行が参入したが、三井住友銀行を除き軒並み撤退した。だが、岡本執行役員は「ビジネスモデルが間違っているとは思っていない」と語る。関係者は「一般の銀行と比べても貸し倒れの引き当て比率は低いのではとみている」と胸を張る。
融資規模で3年後には数百億円を目指す。今後はデータを蓄積して審査の効率化を図り、将来的にはYahoo!ショッピング出展企業以外への展開も視野に入れる。
【スマホで決済】
「日本で急拡大している金融事業をこれからも伸ばしていく」。楽天の穂坂雅之副社長は意気込む。カードや銀行以外にも証券や保険、さらに最近はスマートフォンを活用したクレジットカード決済サービスなど金融事業を拡大している。
その勢いはとどまるところを知らず、楽天カードはインターネットショッピングモール「楽天市場」の出店事業者向けに、限度枠内で必要な金額を繰り返し資金調達できる極度方式基本契約のローンを1月に開始した。
これまでも融資ごとに契約する証書貸付契約のローンを提供してきたが、極度方式では初回審査を通過すれば一定の期間、限度枠内の範囲であれば継続して仕入れ目的の運転資金を提供する。出店事業者は融資を受ける度に契約を更新する必要はなく、翌日には融資を受けられるため、スピーディーで柔軟性のある資金調達が可能となる。
貸出金額は最大3000万円だが、月商3カ月分くらいを一つのめどとする。担保は取らず、楽天市場での過去の履歴を重視して融資判断する。決算書を提出してもらうが、楽天市場での売り上げ動向など「もっと細かく日々の売り上げ推移なども見る」(大山隆司執行役員)ことで判断する。そのため、「貸し倒れは当初の想定より低い」(同)。
用途としては仕入れ資金が大半のため、楽天市場が盛り上がれば融資も伸びる。ニーズのあるところに適切な融資がされれば、楽天市場もさらに盛り上がる。顧客を囲い込む好循環がグループの持続成長を実現する。
【ニーズに迅速対応】
インターネット上の販売では、顧客ニーズの高いモノを早く仕入れ、売らないと商機を失う。ヤフーも楽天もグループの金融機能をいかし、ネット販売上での直近の動向を融資の判断材料に用いて顧客の資金ニーズに素早く対応できるようにしている。
従来の大手銀行からは取り残されていたニーズをうまく拾い上げ、金融とネット販売の両面で成長を図る。
特に楽天は楽天市場で知られるが、グループ営業利益の約45%を金融事業が稼ぐ。既存の銀行から見れば規模はまだ歯牙にもかけない存在だが、楽天銀行が法人向け融資を検討するなど領域を確実に拡大している。世界で進む「サービス・モノ」と金融の融合を日本で体現する「申し子」は無視できない存在になりつつある。
≪金融持ち株会社の規制緩和検討-業務範囲の拡大焦点≫
金融庁は金融持ち株会社の規制緩和の検討に入っている。金融持ち株会社の傘下子会社の業務範囲を拡大することで、電子商取引やスマートフォンを使った決済に参入しやすくする。銀行の健全性を維持するために業務範囲や投資上限額が改正案の焦点になる。年内にも方向性をまとめ、早ければ16年の通常国会に銀行法の改正案が提出される。
金融庁が規制緩和に動くのは、情報技術や購買行動の変化で銀行グループが自前の技術だけでは十分に対応できない状況が生まれてきた背景がある。銀行法はこれまで健全性の観点から、金融持ち株会社に金融事業以外への出資を制限していた。IT企業を買収して新たなサービスを提供することで、銀行自体の収益改善や消費者の利便性向上につながる。
日刊工業新聞2015年3月20日深層断面