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簡易型ハイブリッドで“自問自闘”する軽の王者・スズキ

「燃費競争は1リットル当たり30kmが境目。軽が電気的な力に頼っていいのか」(本田副社長)
簡易型ハイブリッドで“自問自闘”する軽の王者・スズキ

「他社と技術連携するには、まだVWとの決着がついていないという現実がある」(本田副社長)

 スズキ副社長経営企画委員兼四輪技術本部長・本田治氏に聞く

 ―簡易型ハイブリッドシステム「S―エネチャージ」の搭載が拡大しています。スズキの環境技術の柱としていく考えですか。
 「今まさに自問自“闘”しているところだ。エネチャージからS―エネチャージに進化し、顧客からはアイドリングストップからの再始動時の音が静かになったと評価されている。搭載車種も軽自動車3車種に増えた。しかし“スズキらしさ”を追求する上で、今の延長線上で進むべきかは、自分の中に闘いがあり、結論を出せていない」

 ―スズキらしさとは。
 「燃費競争はガソリン1リットル当たり30キロメートルが大きな境目になった。それ以上はもはや大きな感動や喜びにつながらないのではないか。特に軽自動車のお客は合理的で、車を買う時の初期費用とガソリン代のバランスを考えている。軽自動車のような小さい車が電気的な力に頼っていいのか、との思いもある。当社は“1部品1グラム活動”を継続的に展開してきた。1グラムでも軽く、1円でも安くという車づくりの思想が根付き、そういう目で部品や車を見る目が養われている」

 ―新型「アルト」では新プラットフォームが採用されました。
 「部品単品でなく、構造的に見ることも大事だ。アルトの新プラットフォームはこれまで4本の骨が必要だった形状を変え、3本でも従来以上の剛性を出せた。車両全体で約60キログラム軽量化し、1リットル当たり37キロメートルの燃費を達成した。最近発売した新型『ラパン』にも同じプラットフォームを採用している。コストとのバランスでアルトやラパンにはS―エネチャージを採用していない」

 ―電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の開発の進捗(しんちょく)は。
 「先行メーカーと比べたらまだ勉強中のレベルだ。他社と技術連携するには、まだ独フォルクスワーゲン(VW)との決着がついていないという現実がある」

 ―VWとの(資本提携の解消を巡る)係争が障害になっていますか。
 「それはそうだろう。ただ、社員はここ数年、必死に頑張ってくれた。その結果の一つがS―エネチャージだ。ただ、この先のことは自分たちで悩み、考えていかなければならない。今は自社の技術を磨くことに専念する。将来、どんな技術が主流になるか、リュックにおにぎりをつめて世界中を見て歩きたい」

 【記者の目/提携・再編、台風の目に】
 HVの台頭で軽自動車の燃費面での優位性は薄れ増税も逆風。VWとの係争も長引いている。その中でS―エネチャージの開発やアルトのガソリン車最高燃費の達成、インドでの自社開発ディーゼルエンジンなどは技術陣の気概を感じた。小さい車を安く上手に作るのがスズキの真骨頂。VW問題の決着後は、再び世界の自動車メーカーの提携や再編の台風の目となるだろう。
 (聞き手=田中弥生)
日刊工業新聞2015年06月12日 自動車面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
とても率直に答えてくれているインタビュー。確かにユーザーが「軽」の価値のプライオリティーをどこに置いているかを考えると、安易なHV化は早計かもしれない。また、軽以外の環境技術開発では予想以上にVWとの係争が足を引っ張っている。鈴木修会長兼社長ももう85歳。どう決着を付けて、次世代に繋げていくのか。

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