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なぜGEは世界一巨大なスタートアップになれたのか?

「社内カルチャーを変えることが初めの一歩」 
なぜGEは世界一巨大なスタートアップになれたのか?

GEデジタル・ジャパン、コマーシャルリーダ― Mandar Wavde氏

 ゼネラル・エレクトリック(GE)は、大胆な施策を次々と打ち出し、産業界において常に第一線で活躍している。6月7日に行われたスマートファクトリー展では、GEデジタル・ジャパンのコマーシャルリーダ―、マンダール・ワブデ氏が登壇した。ワブデ氏によるとGEが産業界の先頭を走り続ける中で、一番重視したこと、苦労したことは、「社内カルチャーの改革」だと言う。これほど巨大な組織が、なぜスタートアップのようにスピーディなプロダクト開発をできるのか?その秘密は社内カルチャーの改革にあった。

時代に追いつけない危機感


 GEは100年を越える歴史を持つ古い会社だ。人も考え方も役所みたいだと揶揄されたこともあった。一つの決断に至るまでに多くの手続きを得なければならない、そんなモデルが社内に染みついていた。

 そんな中、驚異のスピード感を持ったスタートアップが頭角を現し始める。2011年、「シンプリフィケーションして速さを求めていかなければ、これからの世界では戦えない」と、ジェフ・イメルトCEOは明確な危機感を吐露した。ここからGEの社内カルチャーの改革が始まる。

シリコンバレーのスタートアップから学ぶ


 GEは社員の意識を変えるために、5つの「GE Value」を「GE Beliefs」へと刷新した。これがGE Beliefsだ。

[1] お客様に選ばれる存在であり続ける
[2] より速く、だからシンプルに
[3] 試すことで学び、勝利につなげる
[4] 信頼して任せ、互いに高め合う
[5] どんな環境でも勝ちにこだわる


 GE Beliefsからはスタートアップの姿勢を感じる。かつてスタートアップで働いていたワブデ氏は「スタートアップで必要なことは、まずモノを売ること。つまり、お客様が成功を決める。お客様から選ばれる存在であり続けるためにどうしたらいいかを常に考え、即座に行動していかなければならない」と強い実感を持ってこの変化に賛同した。

 素早く動くためにはノイズを無くさなければならない。そのために“昔からやっているからやる”という無駄な作業を社内から排除した。シンプリフィケーションを上位だけではなくて、会社の根っこレベルにまで浸透させることを徹底した。

 また社員が自分たちで考え、気付いたことを即座に行動に移さなければ、市場のニーズに追いつけない。いちいち上司の許可を得なければ動けないという環境を変えなければならなかった。そのために「信頼して任せる」を信念の一つとした。

 そして、このGEの5つの“信念”は、「Fast Works」、「Performance Development」につながる。

顧客にフォーカス、素早く動く 


 GEはプロダクト開発において、シリコンバレーのスタートアップから学んだことをGEなりに落とし込み、「Fast Works」という新たな手法を作成した。

 まず、顧客の問題提起を理解し、それに対していかにソリューションを提案できるか考え、どんなアイデアでもまずは受け入れる。その中から最も簡単にできて、最もインパクトのあるアイデアを洗い出す。最小限のコストで、最大限の効果を狙うのだ。

 ここで重要になるのは、プロダクトを小まめに出していくということだ。未完成でも市場に出してしまい、顧客のフィードバックをもとに改善、完成に近づけていく。

 開発の段階で最後まで完成を待っていたら、市場の状況は一変してしまう。市場のニーズに合わせるためには、市場の中で対応していくしかないとワブデ氏は言う。

 さらに、キーメトリクスを決め、それを達成しているか確認した上で、そのプロダクトをやり続けるか、辞めて新しいプロダクトに移行するかを判断する。

 GEはこの顧客を中心としたサイクルを、とにかく速く回し続けることで、変化の激しい市場に対応することを可能にした。

気付きを蓄積する


 GEの人事評価制度「9ブロック」の廃止は我々に大きな衝撃を与えた。従来の評価システムでは、変化の激しい市場に対応できる社員が育たなかった。そこで人事制度の評価システムを刷新した。

 特に重視したのは、フィードバックを速くすることだ。今までは年に一度しかなかった上司との面談を、“最低”月に一度は行う「タッチポイント」として義務付けた。

 そして、全社員のPC、スマートフォンに専用ツール「Performance Development」を導入。上司、同僚、部下、階級に関係なく、インサイト(気付いたこと)を誰もがタイムリーに発信・受信できる仕組みを構築した。

 様々な立場から送られてくるインサイト、フィードバックの蓄積から、社員1人1人が自分の活動を“主観的”に評価できる。このことにより、社員は自発的に変化に気づき、即座に対応していくことが可能になった。

よりアクションの近くへ


 GEは、コネチカット州のフェアフィールドから、マサチューセッツ州のボストンへと本社を移転することを決めた。「もっとアクションの近くに行きたい」という思いがそこにはある。

 ボストンは、マサチューセッツ工科大を始め、世界トップクラスの研究機関を数多く抱える学術都市である。研究開発を強化する狙いもあるのだろう。

 またオフィスも変化した。日本のオフィスも全て、オープンオフィスへと変わり、上司、部下関係なく誰でも好きな時にアドレスできる環境を整えた。

 「社内カルチャーを変えないとデジタルトランスフォーメーションの一歩は踏み出せない」(ワブデ氏)。最新のテクノロジーに頼る前に、それを十分に扱える環境を整備しておかなければならない。

 GEは、徹底的に新しいカルチャーを社内に浸透させた。スタートアップから積極的に学び、要らない文化は躊躇わずに排除した。GEの変革は、ついつい新しいテクノロジーを取り込むこと自体に躍起になってしまう我々に重要な気づきを与えてくれる。
スマートファクトリー展、ワブデ氏の講演の様子

(構成=大森翔平)
ニュースイッチオリジナル
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
先日、退任を発表したイメルトCEO。株価うんぬんの声はあるが、彼が吹き込んだ新しい風は非常に大きいと感じる。

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