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離島防衛のカナメ”日本版海兵隊”

「敵前上陸」能力、適切な運用を
離島防衛のカナメ”日本版海兵隊”

AAV7米国仕様(enemyforces.net)

 18日に閉会した国会で「改正自衛隊法」が成立した。全国の陸上自衛隊の部隊を一元的に指揮する「陸上総隊」を創設し、陸上総隊の直轄組織として〝日本版海兵隊〟といわれる「水陸機動団」を2018年3月までに新設するのが目玉だ。国内に点在する離島などが不法に占拠された場合、離島に上陸して奪還を目指す専門部隊である。

 水陸機動団は陸上自衛隊の相浦駐屯地(長崎県佐世保市)に駐屯する西部方面普通科連隊をベースに組織される。同連隊は上陸作戦を行える部隊を目指して2002年3月に創設。

 隊員の多くがレンジャー資格を持つ精鋭部隊で、これまでに日本国内や米国で米海兵隊と共同演習も行っている。現在は660人規模で、水陸機動団が発足すれば2000人以上の規模に膨れあがる。

 先日、その相浦駐屯地を訪れた。海に面した92万平方メートルの広大な敷地に、さまざまな建物が点在し、水泳や射撃訓練はもちろん、カラビナやハーネスなどを使った山岳登攀訓練、ゴムボートなどを用いた水路潜入訓練など、多彩な訓練が行える。

 屋内プールでは完全武装した隊員が平泳ぎで泳いでいた。装備は20キロから30キログラム以上に上り、着衣のまま、靴を履いたまま100メートルを泳ぎ切る。かなりの体力がなければ、泳ぎ切ることはできないだろう。

 隣のコースでは、ヘリコプターが墜落し、海上に着水した際の脱出訓練を行う。コクピットに見立てた鉄枠をプールに浮かべ、枠の中に隊員が座り、枠を逆さまにする。

 隊員は逆さまになったまま、水中で安全ベルトを外し、水上に脱出する。この間、1分以上は呼吸するのを我慢しなければならない。相当きつい訓練だ。

 次に建設中の脱出専用プールを見学した。プールの上10メートル程度の位置に横移動ができるクレーンを配置。そこに隊員たちが乗り込んだ実物大のヘリコプターや水陸両用車の模型を吊した上で、水中に落下させ、乗車している隊員たちが順序よく脱出できるように訓練する。

 これにより、実際に海上に落下した際、一カ所の入り口に隊員が殺到してパニックになる事態を回避し、無事に生還する術を学ぶ。

 水陸機動団には水陸両用車の専門部隊も新設される。水陸両用車部隊は、相浦駐屯地から佐世保市中心部を挟んで12キロメートルほど離れた崎辺地区に崎辺分屯地(仮称)を建設して本拠地とする。
水陸両用車を搭載する輸送艦(海上自衛隊資料)

 実際に現地に行ってみると、まだ地盤改良と造成工事を行っている段階だった。今秋以降には隊庁舎や食堂・厚生施設・体育館、整備工場などを着工し、完成は2018年度にずれ込む見通しだという。

 配属される水陸両用車は「AAV7」型と呼ばれる米国製車両で、地上ではクローラー走行し、水上ではウォータージェット推進により浮上航行する。乗員3人以外に兵員25人を運ぶことができ、離島への上陸強襲作戦などに威力を発揮する。

 ところで、実際に離島が占拠された場合の奪還作戦のイメージはどうなのか。海上自衛隊の艦船で島まで数キロメートルの沿岸まで接近し、そこから水陸両用車やボート、ヘリコプターなどを使って上陸するというのが基本だ。

 ただ、その前にやらねばならないことがある。航空自衛隊の戦闘機や海自の護衛艦を使って攻撃し、敵を制圧することである。

 陸自幹部は「敵がガッチリ構えている場所にそのまま入って行くことは難しい。敵をほとんど叩いた後に我々が行く」と話し、人命第一をアピールする。

 離島が無人島なら良いが、有人島の場合は空や海からの攻撃は難しく、その場合はどうするのか。また離島奪回作戦は陸海空の3自衛隊の連携が不可欠だが、その辺りはどうなのか。

 さまざまな課題はあるだろうが、水陸機動団の誕生は、日本の離島を不法に占拠しようとする組織への「抑止力」につながるはずだ。とはいえ、水陸機動団が実際に戦闘する場面は見たくない。

 相浦駐屯地の食堂で、陸自幹部が自慢する美味しいキーマカレーを食べながらそう思った。
米軍の上陸訓練(防衛省資料)

(文=根本英幸)
日刊工業新聞電子版2017年6月22日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
”海兵隊”は、専守防衛の自衛隊にとって長らくタブーでした。「かが」はじめ4隻のヘリ空母の就航に続き、「水陸機動団」を創設することで、自衛隊は小規模ながら映画『史上最大の作戦』のような「敵前上陸」の能力を持つことになります。批判もあるでしょう。しかし現在の自衛隊の弱みのひとつが離島防衛であることも事実です。戦力均衡の考え方からすれば、弱点を放置しておくことは紛争を招く恐れがあるのです。「水陸機動団」は決してアジア諸国の脅威となるような規模ではありませんが、適切な運用を内外にアピールしてもらう必要があります。

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