すべての照明機器はプロジェクターに代わる?
IoT時代“夢再び”
「すべての照明機器はプロジェクターに代わるべきだ」(岩井大輔大阪大学准教授)―。プロジェクション研究者の野望は大きい。大画面・高精細の液晶ディスプレーの普及で、存在がかすむプロジェクター。モノのインターネット(IoT)時代が幕を開け、スクリーンだけでなく、あらゆるものに投影できるプロジェクターがあらためて注目されている。大学、企業でのプロジェクション研究の最前線を追った。
【ドローンで投影】
大阪大学の佐藤宏介教授は「小型化でスマートフォンやデジカメ、タブレットなどにプロジェクターが搭載された。光量の大きいプロジェクターの価格も下がり、野外のプロジェクションマッピングがイベントとして成立するようになった」と説明する。ソニーはスマートフォンに搭載可能なレーザープロジェクターモジュールを開発した。価格低下で個人用に続き、空間の至る所に機能を埋め込むIoT用が視野に入りつつある。
阪大の佐藤教授と岩井准教授は飛行ロボット(ドローン)にプロジェクターを搭載する研究を進めている。警備ドローンが見物客を誘導したり、美術館で芸術品の解説を投影したりすることを想定する。人混みの合間を縫ってメッセージを投影するには、固定機でなくプロジェクター自体が飛び回れることが理想だ。
佐藤教授は「小型化が進むドローンにディスプレーを搭載することは考えにくい」と説明する。現在、ドローンの飛行制御や投影補正技術を開発中だ。岩井准教授は「電池などの課題はあるが、15年度中に人を避けながらの投影制御を完成させたい」と開発を急ぐ。
【室内丸ごと、質感変化、動き…広がる可能性】
プロジェクターの強みはスクリーン以外にも投影できることだ。電気通信大学の橋本直己准教授は、色や柄、形状の変わる面にも投影できる光学技術を開発した。壁やタンス、カーテンの色などを丸ごと消して、一つの画面に変えてしまう。カメラで投影画像を確認し、投影する明るさや色を画素より小さな単位で調整。動画のフレームレートよりも早く調整するため、映像は乱れない。投影面に人が立つと溶け込むように消えていく。橋本准教授は「部屋の天井付近は空いていることが多い。天井から壁にかけて大画面スクリーンが実現する」と自信をみせる。
和歌山大学の天野敏之准教授はプロジェクションで物体の質感を自在に変える技術を開発した。写真を照らすと、みるみるセピア色に退色する。天野准教授は「色調や明暗は変幻自在。カラー写真をモノクロにしたり、反対にコントラストを強調して新聞を読みやすくすることも可能だ」と胸を張る。
知覚心理学研究者がプロジェクション技術を活用し、静止画に動きを与えることに成功した。NTTコミュニケーション科学基礎研究所の西田眞也上席特別研究員らは、錯覚を起こすプロジェクション技術「変幻灯」を開発してバッハの肖像画を笑わせた。人間が「笑い」と認識しやすいパターンを投影すれば笑顔になり、しかめ面や喜怒哀楽など、さまざまな表情を作れる。
【IoTのインターフェースとして】
何よりIoTのメッセンジャーとしての期待が大きく、ディスプレーを搭載していない家電もメッセージを発信できるようになる。阪大の岩井准教授は「スマートハウスの管理キャラクターがテレビやスマホの画面の中に閉じ込められていてはスマートではない。ウエアラブル端末にプロジェクターが搭載されれば、あらゆる場面でIoTと人がつながるインターフェースになる」と期待する。
企業でもプロジェクターの用途開発は進んでいる。NECネッツエスアイは遠くのオフィスとオフィスをつなぐ「スムーススペース」を開発した。プロジェクターで壁に遠くのオフィスを投影し、そのまま地続きにつながっているかのように演出する。菊池惣グループマネージャーは「研究所の設計部門と工場の製造部門が席を並べているように働ける。会議はコミュニケーションのごく一部。世間話や立ち聞きから生み出されるアイデアが周囲を触発する」という。
パナソニックは照明にプロジェクター機能を搭載した「スペースプレーヤー」を販売している。スポットライトと同じように映像やメッセージを投影できる。レストランなどの業務用に販売しているが、一般家庭にも受け入れられれば照明がプロジェクターに置き換わる日が来るかもしれない。
(小寺貴之)
【ドローンで投影】
大阪大学の佐藤宏介教授は「小型化でスマートフォンやデジカメ、タブレットなどにプロジェクターが搭載された。光量の大きいプロジェクターの価格も下がり、野外のプロジェクションマッピングがイベントとして成立するようになった」と説明する。ソニーはスマートフォンに搭載可能なレーザープロジェクターモジュールを開発した。価格低下で個人用に続き、空間の至る所に機能を埋め込むIoT用が視野に入りつつある。
阪大の佐藤教授と岩井准教授は飛行ロボット(ドローン)にプロジェクターを搭載する研究を進めている。警備ドローンが見物客を誘導したり、美術館で芸術品の解説を投影したりすることを想定する。人混みの合間を縫ってメッセージを投影するには、固定機でなくプロジェクター自体が飛び回れることが理想だ。
佐藤教授は「小型化が進むドローンにディスプレーを搭載することは考えにくい」と説明する。現在、ドローンの飛行制御や投影補正技術を開発中だ。岩井准教授は「電池などの課題はあるが、15年度中に人を避けながらの投影制御を完成させたい」と開発を急ぐ。
【室内丸ごと、質感変化、動き…広がる可能性】
プロジェクターの強みはスクリーン以外にも投影できることだ。電気通信大学の橋本直己准教授は、色や柄、形状の変わる面にも投影できる光学技術を開発した。壁やタンス、カーテンの色などを丸ごと消して、一つの画面に変えてしまう。カメラで投影画像を確認し、投影する明るさや色を画素より小さな単位で調整。動画のフレームレートよりも早く調整するため、映像は乱れない。投影面に人が立つと溶け込むように消えていく。橋本准教授は「部屋の天井付近は空いていることが多い。天井から壁にかけて大画面スクリーンが実現する」と自信をみせる。
和歌山大学の天野敏之准教授はプロジェクションで物体の質感を自在に変える技術を開発した。写真を照らすと、みるみるセピア色に退色する。天野准教授は「色調や明暗は変幻自在。カラー写真をモノクロにしたり、反対にコントラストを強調して新聞を読みやすくすることも可能だ」と胸を張る。
知覚心理学研究者がプロジェクション技術を活用し、静止画に動きを与えることに成功した。NTTコミュニケーション科学基礎研究所の西田眞也上席特別研究員らは、錯覚を起こすプロジェクション技術「変幻灯」を開発してバッハの肖像画を笑わせた。人間が「笑い」と認識しやすいパターンを投影すれば笑顔になり、しかめ面や喜怒哀楽など、さまざまな表情を作れる。
【IoTのインターフェースとして】
何よりIoTのメッセンジャーとしての期待が大きく、ディスプレーを搭載していない家電もメッセージを発信できるようになる。阪大の岩井准教授は「スマートハウスの管理キャラクターがテレビやスマホの画面の中に閉じ込められていてはスマートではない。ウエアラブル端末にプロジェクターが搭載されれば、あらゆる場面でIoTと人がつながるインターフェースになる」と期待する。
企業でもプロジェクターの用途開発は進んでいる。NECネッツエスアイは遠くのオフィスとオフィスをつなぐ「スムーススペース」を開発した。プロジェクターで壁に遠くのオフィスを投影し、そのまま地続きにつながっているかのように演出する。菊池惣グループマネージャーは「研究所の設計部門と工場の製造部門が席を並べているように働ける。会議はコミュニケーションのごく一部。世間話や立ち聞きから生み出されるアイデアが周囲を触発する」という。
パナソニックは照明にプロジェクター機能を搭載した「スペースプレーヤー」を販売している。スポットライトと同じように映像やメッセージを投影できる。レストランなどの業務用に販売しているが、一般家庭にも受け入れられれば照明がプロジェクターに置き換わる日が来るかもしれない。
(小寺貴之)
日刊工業新聞2015年06月10日 深層断面より一部抜粋