海外の医療機器大手、日本市場との向き合い方
日本法人トップに聞く
**GEヘルスケア・ジャパン・多田荘一郎社長
―日本の医療機器市場の環境をどう見ていますか。
「国の医療費抑制で、経済が成長する以上に医療への支出が増えることはないだろう。医療業界全体の“面積(市場規模)”が決まる中で、医療機器の台数が大きく伸びる市場でない。横ばいか縮小していくだろう」
「一方で医師が高齢化し、人材が不足する中、医療の質を保ちながら生産性を上げるニーズが増している。また、治療技術が進化しており、治療計画や治療効果の判定といった需要は伸びる。治療を意識した診断の重要性が高まる」
―何に重点を置きますか。
「健康寿命の延伸だ。脳卒中や循環器系疾患などは、予後が悪く生活の質(QOL)が下がる。ここに焦点を当てていく。高齢化社会をどう乗り越えるかという関心は高い。平均寿命と健康寿命の差を埋め、健康寿命の延伸に貢献したい」
―ITとの連携にも力を入れていますね。
「世界の健康関連のデータ収集量は2020年までに年率約50%成長すると見ている。いかに質のいいデータを蓄積するかが重要になる。そのために他業態や学会のほか、同じ医療機器メーカーとも連携・協業しやすい仕組みを作る」
―国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)との提携など、アカデミア(研究機関や大学)との協業も進めています。
「社内に20人規模の専任組織『アカデミックチーム』を立ち上げた。高齢化の進展で治療も複雑化し、治療のあり方も多様化している。どういう治療法が良いかなど、テーマを見つけて研究を進めていく」
―日野工場(東京都日野市)で工場のIT化を図る「ブリリアント・ファクトリー」に取り組んでいます。
「変化が激しい中で生産性などの質を高め、世界の中で高付加価値製品は日野工場が担っていきたい。人員数もこの2年間で1割程度増やした。今後も特徴を生み出せるような投資を継続していく。また自社工場で効率化したノウハウを、医療施設の効率化につながるような提案に結びつけていきたい」
―日本市場での成長目標は。
「今の延長線上ではない非連続の成長を目指す。振り子で言えば、今はちょうど折り返しのタイミング。医療機器業界の中で今までとは違う位置付けに業態を変えていく」
―日本での成長戦略に製品構成の拡充を掲げています。
「ハイブリッド手術室向け多軸透視・撮影システム『アーティス・フィノ』のような高付加価値製品は事業の核であり、今後も新しい製品を出し続ける。医療現場で使える磁場強度7テスラの磁気共鳴画像装置(MRI)を世界市場で発表した。コンピューター断層撮影装置(CT)も高画質、低被ばくなど次世代技術を開発中だ。いずれ日本でも発表できる」
「さらに成長するには、これまで取り込めていなかった普及価格帯市場に対応する必要がある。同市場向けのCT、MRIを発売した。単に価格で勝負するのではなく、被ばく低減など高付加価値製品で培った技術を惜しみなく使い、当社らしい高い性能を低コストで提供していく」
―販売の拡充策は。
「競合する国産メーカーと比べ、販売の人員体制は少ない。診療所や小規模病院に拡販するには、協業企業の販売チャンネルが必要。そこを充実する」
「子会社に体外診断薬・機器を手がけるシーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス(東京都品川区)がある。従来、営業体制は別だったが、昨年私が社長を兼務して両社の一体経営を進め、販売面のシナジーを追求している。例えば、検体検査で取引のある医薬品卸会社に画像診断装置を扱ってもらうなど体制も整いつつある」
―アウトソーシング(受託)などサービス事業の強化を打ち出しています。
「当社の強みは幅広い製品群だ。医療施設の設備をまとめて管理・運用でき、経営の効率化を支援できる。将来的には放射線科の人員など人的インフラも含め、提供したい」
「従来のリース契約と違い、将来の機能向上への対応や装置の入れ替えなども提案でき、医療現場で常に最新の状態で使える。効率的な運用などのコンサルティングサービスと合わせて、医療機関の経営を良くしていく。自力はあるけれど大型投資にためらっている病院は多い。予算が付きにくくなっている中、サービスのニーズは高い」
―顧客との結びつきがさらに強くなりますね。
「単に製品を販売するだけでなく、我々は医療機関のパートナーになりたい。医療機器メーカーもある程度の覚悟を持って、医療機関とリスクを共有し、経営に関与していく時代になっている」
―医療と情報通信技術(ICT)を組み合わせた「ヘルステック企業」でナンバーワンを目標に掲げました。
「当社は医療機器などハードだけの会社ではない。機器にも力を入れ、機能を高めていくが、サービスの中で機器を位置づけていきたい」
「例えば、今年発売した血管撮影装置『アズリオン』は製品から、ソリューションに軸足を移していく具体例だろう。手術室内にある機器情報を統合管理し、情報をつなぐことで新しい価値を生み出せる。コンピューター断層撮影装置(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)でも情報連携を進め、新しい価値を生み出すことに挑戦していく」
「予防から診断、治療、アフターケアまでエンド・ツー・エンド(端から端まで)でサービスを提供できるのも当社の強みだ。各事業で相乗効果を生み出すために組織も見直している。世界で展開する強みを日本の事業にも生かしていきたい。コンサルティングサービスなどとを組み合わせ、最適なソリューションを展開していく」
―ITサービスでは遠隔で病理診断を支援する「デジタルパソロジー」や、複数の集中治療室(ICU)を管理する「遠隔集中治療患者管理プログラム(eICU)」の実証を始めました。
「成果にぜひ期待してほしい。デジタルパソロジーもeICUも骨格ができてきて、近い将来、実用化できるだろう。機器やソフト、サービスの検証、医師や看護師、患者のニーズも取り入れている。関係者とも調整し、商用化につなげたい」
―中小病院、在宅分野への取り組みをどう進めますか。
「営業改革を進め、従来の機器販売といった短期の事業だけでなく、中長期の事業を進める組織も発足している。高齢化が進み、健康ニーズが高まる中、地域と連携して医療の事業基盤を整備する取り組みも進めている。町づくりの中で医療を位置づけて、社会に貢献する仕組みづくりに関わっていく」
―企業や医療機関などとの連携は。
「最適な製品・サービスを作るために、医療機関やIT企業などとも連携を深めて、エコシステム(生態系)を強化していく。また、画像診断のソフトなど世界で見ても日本の技術は高いレベルにあり、全社の中で日本の位置づけは高い。日本のビジネスモデルを世界に発信する役割も担っている」
―日本の医療機器市場の環境をどう見ていますか。
「国の医療費抑制で、経済が成長する以上に医療への支出が増えることはないだろう。医療業界全体の“面積(市場規模)”が決まる中で、医療機器の台数が大きく伸びる市場でない。横ばいか縮小していくだろう」
「一方で医師が高齢化し、人材が不足する中、医療の質を保ちながら生産性を上げるニーズが増している。また、治療技術が進化しており、治療計画や治療効果の判定といった需要は伸びる。治療を意識した診断の重要性が高まる」
―何に重点を置きますか。
「健康寿命の延伸だ。脳卒中や循環器系疾患などは、予後が悪く生活の質(QOL)が下がる。ここに焦点を当てていく。高齢化社会をどう乗り越えるかという関心は高い。平均寿命と健康寿命の差を埋め、健康寿命の延伸に貢献したい」
―ITとの連携にも力を入れていますね。
「世界の健康関連のデータ収集量は2020年までに年率約50%成長すると見ている。いかに質のいいデータを蓄積するかが重要になる。そのために他業態や学会のほか、同じ医療機器メーカーとも連携・協業しやすい仕組みを作る」
―国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)との提携など、アカデミア(研究機関や大学)との協業も進めています。
「社内に20人規模の専任組織『アカデミックチーム』を立ち上げた。高齢化の進展で治療も複雑化し、治療のあり方も多様化している。どういう治療法が良いかなど、テーマを見つけて研究を進めていく」
―日野工場(東京都日野市)で工場のIT化を図る「ブリリアント・ファクトリー」に取り組んでいます。
「変化が激しい中で生産性などの質を高め、世界の中で高付加価値製品は日野工場が担っていきたい。人員数もこの2年間で1割程度増やした。今後も特徴を生み出せるような投資を継続していく。また自社工場で効率化したノウハウを、医療施設の効率化につながるような提案に結びつけていきたい」
―日本市場での成長目標は。
「今の延長線上ではない非連続の成長を目指す。振り子で言えば、今はちょうど折り返しのタイミング。医療機器業界の中で今までとは違う位置付けに業態を変えていく」
シーメンスヘルスケア・森秀顕社長
―日本での成長戦略に製品構成の拡充を掲げています。
「ハイブリッド手術室向け多軸透視・撮影システム『アーティス・フィノ』のような高付加価値製品は事業の核であり、今後も新しい製品を出し続ける。医療現場で使える磁場強度7テスラの磁気共鳴画像装置(MRI)を世界市場で発表した。コンピューター断層撮影装置(CT)も高画質、低被ばくなど次世代技術を開発中だ。いずれ日本でも発表できる」
「さらに成長するには、これまで取り込めていなかった普及価格帯市場に対応する必要がある。同市場向けのCT、MRIを発売した。単に価格で勝負するのではなく、被ばく低減など高付加価値製品で培った技術を惜しみなく使い、当社らしい高い性能を低コストで提供していく」
―販売の拡充策は。
「競合する国産メーカーと比べ、販売の人員体制は少ない。診療所や小規模病院に拡販するには、協業企業の販売チャンネルが必要。そこを充実する」
「子会社に体外診断薬・機器を手がけるシーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス(東京都品川区)がある。従来、営業体制は別だったが、昨年私が社長を兼務して両社の一体経営を進め、販売面のシナジーを追求している。例えば、検体検査で取引のある医薬品卸会社に画像診断装置を扱ってもらうなど体制も整いつつある」
―アウトソーシング(受託)などサービス事業の強化を打ち出しています。
「当社の強みは幅広い製品群だ。医療施設の設備をまとめて管理・運用でき、経営の効率化を支援できる。将来的には放射線科の人員など人的インフラも含め、提供したい」
「従来のリース契約と違い、将来の機能向上への対応や装置の入れ替えなども提案でき、医療現場で常に最新の状態で使える。効率的な運用などのコンサルティングサービスと合わせて、医療機関の経営を良くしていく。自力はあるけれど大型投資にためらっている病院は多い。予算が付きにくくなっている中、サービスのニーズは高い」
―顧客との結びつきがさらに強くなりますね。
「単に製品を販売するだけでなく、我々は医療機関のパートナーになりたい。医療機器メーカーもある程度の覚悟を持って、医療機関とリスクを共有し、経営に関与していく時代になっている」
フィリップスエレクトロニクスジャパン・堤浩幸社長
―医療と情報通信技術(ICT)を組み合わせた「ヘルステック企業」でナンバーワンを目標に掲げました。
「当社は医療機器などハードだけの会社ではない。機器にも力を入れ、機能を高めていくが、サービスの中で機器を位置づけていきたい」
「例えば、今年発売した血管撮影装置『アズリオン』は製品から、ソリューションに軸足を移していく具体例だろう。手術室内にある機器情報を統合管理し、情報をつなぐことで新しい価値を生み出せる。コンピューター断層撮影装置(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)でも情報連携を進め、新しい価値を生み出すことに挑戦していく」
「予防から診断、治療、アフターケアまでエンド・ツー・エンド(端から端まで)でサービスを提供できるのも当社の強みだ。各事業で相乗効果を生み出すために組織も見直している。世界で展開する強みを日本の事業にも生かしていきたい。コンサルティングサービスなどとを組み合わせ、最適なソリューションを展開していく」
―ITサービスでは遠隔で病理診断を支援する「デジタルパソロジー」や、複数の集中治療室(ICU)を管理する「遠隔集中治療患者管理プログラム(eICU)」の実証を始めました。
「成果にぜひ期待してほしい。デジタルパソロジーもeICUも骨格ができてきて、近い将来、実用化できるだろう。機器やソフト、サービスの検証、医師や看護師、患者のニーズも取り入れている。関係者とも調整し、商用化につなげたい」
―中小病院、在宅分野への取り組みをどう進めますか。
「営業改革を進め、従来の機器販売といった短期の事業だけでなく、中長期の事業を進める組織も発足している。高齢化が進み、健康ニーズが高まる中、地域と連携して医療の事業基盤を整備する取り組みも進めている。町づくりの中で医療を位置づけて、社会に貢献する仕組みづくりに関わっていく」
―企業や医療機関などとの連携は。
「最適な製品・サービスを作るために、医療機関やIT企業などとも連携を深めて、エコシステム(生態系)を強化していく。また、画像診断のソフトなど世界で見ても日本の技術は高いレベルにあり、全社の中で日本の位置づけは高い。日本のビジネスモデルを世界に発信する役割も担っている」
日刊工業新聞2017年5月18日 /25日/6月1日