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日本唯一のセキュリティーに特化した大学院、学生はどんな人たち?

企業以外に警察庁など官公庁からの入学も多く
  IoT(モノのインターネット)の普及を背景にサイバー攻撃が急増し、情報セキュリティー対策は今やあらゆる業界で必須の経営課題になった。セキュリティーに特化した日本唯一の大学院である情報セキュリティ大学院大学は設立14年目を迎え、産業界や他大学と連携しながら日本のセキュリティー教育をけん引する。4月に就任した後藤厚宏学長に、大学の役割と人材育成の課題などを聞いた。

 ―学生の8割以上が社会人のため、「専門家のための教育機関」との印象が強いです。
 「我々は大学院としてセキュリティーの専門家を育てるだけでなく、別分野の専門家がこれを併せて学ぶ『+(プラス)セキュリティー』が重要だと考える。そのため、企業向けの短期集中講座や一般向けのオンライン講座などの提供も始めた。勉強したいと思うすべての人が学べるような多様な教育の場を作りたい」

 ―他大学にもまだ体系化されたコースはほとんどありませんが、特筆すべき点は。
 「セキュリティー教育の多くは理工系で行われているが、我々は暗号や人工知能(AI)、ネットワーク、システム技術から、これを使いこなす法制度や倫理など社会科学系まで文理融合のコースを設けた。学生が目指す将来によって自由に選択できる。最近は2020年の東京五輪・パラリンピックの開催に向け、警察庁など官公庁からの入学も多くなっている」

 ―東北大学慶応義塾大学などと連携し、世界で活躍するセキュリティーエキスパートを育成するための共同講座を作りました。
 「経団連の要請に応える形で、米IBMやNTTなど産業界と協力し、文部科学省の事業として社会のリーダーとなる人材を育てる枠組みを整えた。これまでに350人以上が学び、女性の参加も2割近くまで増えた。17年度からこの仕組みをいよいよ本格的に展開する」

 ―セキュリティー人材になるためには。
 「現在の人材不足は深刻な状況だ。高度専門人材を目指すなら修士号以上の取得が望ましい。ただ、皆が専門家になる必要はなく、医療や金融、自動車など各業界でセキュリティーに関わる人をもっと増やすべきだ。今後は学部レベルの教育も必要だろうが、教員が足りず改革が進んでいない」
「『+(プラス)セキュリティー』が重要」と後藤学長

【略歴】ごとう・あつひろ 84年(昭59)東大院工博士課程修了、同年NTT入社。07年情報流通プラットフォーム研究所長、10年サイバースペース研究所長。11年情報セキュリティ大学院大学教授、17年4月より現職。工学博士。新潟県出身、61歳。
日刊工業新聞2017年5月25日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
専門大学院ながら、一般を含めた教育の底上げと若手育成にも熱心なのは、日本で教育できる機関が限られているためだ。後藤氏はサイバーセキュリティーの国家プロジェクトの責任者でもあり、産業界とのパイプは太い。言うまでもなく人材育成は長期戦。現場ニーズに合った地道で着実な教育の継続が求められる。 (日刊工業新聞科学技術部・藤木信穂)

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