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静岡の老舗物流会社がエアライン事業を続ける理由

FDA鈴木与平会長インタビュー
静岡の老舗物流会社がエアライン事業を続ける理由

インタビューに応える鈴木与平会長

 中部地域を地盤とする地域航空会社のフジドリームエアラインズ(FDA)が、飛躍を続けている。「地方と地方をつなぐ航空会社」との旗を掲げ、静岡空港を拠点に2機の旅客機で運航を始めたのは2009年。この6年間で機材を9機に拡大し、16年には2機追加して11機体制となる。国内15路線に展開し、今後は国際線への参入も見据える。スカイマークの経営破たんなどで日本の“空”は大手2強の色が強まる中、独立系の地域航空会社として存在感を高めている。
 
 このほど、FDAの会長で、親会社の物流会社・鈴与(静岡市清水区)の鈴木与平会長兼社長が日刊工業新聞のインタビューに応えた。ニュースイッチでは、鈴木会長の思いや国産旅客機「MRJ」に対する評価などを紹介する。


―― 2009年に静岡空港を拠点に就航してから約6年を迎えます。10年には松本、名古屋にも就航しています。この間の業界動向をどう見ていますか。

 スカイマークやエアドゥなど、(1990年代の)航空自由化の時にできたエアラインはほぼダメになってしまって、大手航空会社の傘下に入った。そのあと、格安航空会社(LCC)の時代がきて、今後はLCCがどうなるかが話題の一つだろうと思う。

 しかし、(JALANAなどから)独立している会社は少なくなってきた。当社は今も独立してやっている。日本の場合、国内は日本航空と全日空という二つの大きな流れがあるわけだからできるだけ、その中で、大手と競合しないようなところで飛ぶというのが、我々のポリシーの一つだ。

―― これまでも大手やLCCと競合しないところに飛ばす方針で路線ネットワークを拡充してきましたが、その方針は今後も変わりませんか。

 基本的には変わらない。LCCの場合は、羽田や成田から福岡や札幌線など、大きい町を頻繁に飛ぶことでコストを下げ、安い料金で座席を提供するビジネスだ。一方、我々はローカルからローカル。大きな飛行機が飛ばないところをカバーしていく。当社が使う「リージョナルジェット」(RJ)という機材の座席数は、LCCの主要機材(注:エアバスA320やボーイング737など)の半分程度しかない。しかしパイロットや客室乗務員は同じように配置しなくてはならないから、全体のコストが高く付く。

 地域航空会社が大変なのは、大手やLCCと比べてマーケットが小さいことだ。丁寧に、確実に需要を取り込みながら飛ぶことが大切になる。さほど儲かる仕事ではなく、(飛行機が)好きじゃないとできないと思う。

―― 地域航空会社の多くは、座席数の少ないリージョナルジェットを使い、一定の搭乗率を確保して運航するというビジネスモデルを採用しています。一方、今後はJALやANAといった大手もリージョナルジェットを本格導入する考えです。競争環境は変わりませんか。

 我々が飛んでいる路線に大手も参入すれば、それは競争になる。しかし、現在は小牧空港(名古屋空港)や松本空港に就航するのは我々だけだ。静岡空港にはANAも就航しているが、時間帯も競合していないし、なるべく共存できるような飛ばし方をしている。今のところは、われわれのポリシーが実現できている。

―― 現在は国内15路線を展開しています。今後、国際線に参入するお考えはありませんか。

いずれは進出したいという思いはあるが、現時点ではFDA全体が赤字だから、すぐに参入できるとは考えていない。ただ、地方空港は営業時間が決まっている。例えば、松本空港は9~17時。短い営業時間の中で飛行機を飛ばさないといけないため、我々のような地域航空会社は、どうしても飛行機の「回転率」が悪くなる。この回転率を向上させられるのなら、国際線の展開は魅力的だ。

LCCがコストを安くできる理由は機材の「回転率」の良さにある。我々が一日に4回しか飛べないところを、(LCCは)8回くらい飛ばせるので、コストを安くできる。そういう意味では、我々はハンディキャップを背負っている。これを少しでも解消するために、例えば(24時間運用の)北九州から韓国や台湾などに飛び、夜中のうちに帰ってくることができれば、機材の回転が良くなっていく。チャーターで(海外に)飛ばすことも考えられる。国際線への進出は、今後の検討課題だ。

―― リージョナルジェットを運航する航空会社として、国産旅客機「MRJ」をどう評価していますか。

 基本的には、当社が現在使っているのは76~84席の航空機。MRJは90席が基本で、将来的にストレッチタイプができれば100席弱となる。当社は2016年に2機の「エンブラエル175」を導入し、全11機体制となるが、この辺で何とかそろばん(収益)を取っていきたい。

 ただし、将来、地域の航空市場を深耕し、お客様が増えれば、機材のグレードアップ(大型化)を考えて行かなくてはいけない。それは90~100席の飛行機になる。その段階ではMRJも候補に入ってくる。ブラジルのエンブラエルも、新型機「E2」を開発しているので、どちらかを導入することになるだろう。

 実際に、三菱航空機やエンブラエルからデータを取り寄せ、検討は進めている。ビジネスである以上、極めて冷静に(後継機の選定を)判断する。赤字になっては困る。MRJはすでに(ANAやJALなど)他の航空会社が発注しているので、それらの使用実績も見ながら、結論を出していく。

―― 現在保有する9機の機材は、すべてエンブラエル製です。MRJを導入するとなると、コストが高くつくのではないですか。

 エアラインの経営はそこが大事。後継機もエンブラエルにすれば、フライトシミュレーターやパイロット、整備士などが移行しやすい。ただ、私も日本人だから、日本の飛行機を使いたいという気持ちは強い。もしMRJを導入するのであれば、(現在の機材を)すべて切り替えるのに近いことをする必要が出てくるだろう。

 中途半端に新しい機材を入れると、(パイロットなどの)ライセンス取得や訓練、整備も両方しないといけなくなる。50~60機持っている会社なら2種類あっても良いかもしれないが、5機や10機ではコストが高くなる。


―― 航空機は通常、まとめ買いする時の割引があると聞きます。

 機体の割引は大きい。だから、我々みたいに少しずつ買っているのが、一番高くつく。ただ、他社は大体そこで失敗する。安くなるから、買いすぎてしまう。機材を買いすぎると、それだけ初期投資が大きくなり、お金が回らなくなってしまう。

 航空路線というのは、就航してから最初の3年くらいは、お客はそんな増えない。お客さんがその航空会社を知り、便利さを認識して初めて使ってもらえるようになるわけで、(当初から機材を大量購入すれば)それまでの間にお金が続かなくて、参ってしまう。

 当社も今まで、ずっと赤字ですからね。数年間の赤字を承知で経営してきており、今期中にはトントン(収支均衡)に持って行けそうだと考えている。

―― 現在拠点とする愛知県営名古屋空港に続き、早ければ2016年に、中部国際空港への就航も検討しています。

 基本的には、当社は中部地域にお世話になっているので、中部国際空港にもお役に立たないといけないとは思っている。ただ、中部にはLCCも就航しているので、我々がそこに飛ぼうとするとLCCとの競争になる。ウチの飛行機はもともとコストが高く、まともに競争したらかなうはずない。そういう意味で、なかなか中部から飛ぶのは難しいだろうと思う。赤字で飛ばすわけにはいかない。大手と競争せず、LCCとも競争しない。この二つの条件に引っかかってくるから、(中部就航への)気持ちはあっても、難しい。

―― 中部空港に就航する場合、同じ愛知県内の名古屋空港との役割分担をどう考えますか。

 当社にとって、小牧(名古屋空港)は大事な空港。中部地域には「旅客便を中部に一本化すべきだ」との空港一元化論があるが、通常、大都市には2~3つの空港があるものだ。例えば関西地方であれば関西国際空港、大阪国際空港(伊丹)、神戸空港がある。東京近郊には羽田と成田に加え、茨木もあり、それぞれの役割を分担している。

 小牧は、愛知県の空港であると同時に、岐阜県や長野県南部も方々も利用する空港。「ローカルからローカル」という当社のミッションにもっとも適した空港であり、中部空港とは役割が異なると思っている。

―― 名古屋空港から飛ばしている路線を中部に移す考えはありませんか。

 お客の利便性による。名古屋空港は、愛知県でも北の方に住むお客さまが多いから、その路線を中部空港に移すとなると、利用者が困ってしまう。このため、需要があれば、二つの空港から同じ目的地までの便を持つということは考えられなくもない。

―― 2015年3月までの全路線の平均搭乗率は68・5パーセントと、就航当初と比べて順調に高まっています。今後の目標は。

 当社機材のサイズでは、80%以上を目標としたい。基本的には松本発着の路線や、名古屋―福岡線などの搭乗率が高い。しかし、(3月に開設した)名古屋―北九州線の搭乗率は40%強にとどまっており、同路線の搭乗率が今の最も大きな課題だ。

(聞き手は名古屋支社 杉本要)
日刊工業新聞 2015年06月08日 最終面を加筆
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
赤、黄、緑、紫など、FDAの機体はとにかくカラフル。就航先では、おなじみになりつつあるのではないでしょうか。

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