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なぜマツダは「失敗大賞」をつくったのか

あえて称賛し大きな成功につなげる
なぜマツダは「失敗大賞」をつくったのか

圓山氏

 失敗が成功のもと―。マツダの生産・物流担当の圓山雅俊常務執行役員が広島県福山市内で「マツダのものづくり」と題して講演。本社工場長などを歴任した圓山氏は、失敗してもチャレンジ精神をたたえる表彰制度「失敗大賞」を導入した経緯を紹介。挑戦することを真剣に楽しむ意義を説き、その上で「あえて失敗を称賛し、大きな成功に導きたい」と強調した。

 失敗例からはビッグデータ(大量データ)を活用した燃費改善などが生まれたとし、「モノづくりの方法も革新が必要」と力を込めた。

日刊工業新聞2017年5月25日



「ラインを止めても生産順序守る」


 マツダで最も古い車両工場、本社工場(宇品第1工場=広島市南区)。組み立てラインには、発売したばかりの「ロードスター」「CX―3」など8車種が流れる。オープンカーからミニバンまで同じラインを流れてくるのに、組み立て作業はよどみなく進む。「混流生産は宇品第1が一番うまい」。常務執行役員本社工場長の圓山雅俊は胸を張る。
 
混流生産を徹底させるうえでマツダが旗印として掲げてきたのが「計画順序生産」だ。1台単位で生産する順番を決めて、工場では実際にその通りクルマを作り、部品メーカーの工場も同期して順番通りに部品を生産納入するというもの。02年に部品メーカーを巻き込んで開始した。

 その実施に奮闘した1人が圓山だ。生産順序を守るためには製造品質を大幅に高める必要がある。1台でも不具合が生じてラインから跳ね出されれば、即、順序が狂うからだ。

 当時最も不具合が多かったのが塗装。数マイクロメートルのホコリが付着していても不具合につながる。工場でゴミやホコリが発生する膨大な数の要因を突き止め、つぶしていった。入社後約15年間塗装技術に携わってきた圓山の経験が生きた。「当初部品メーカーには疑心暗鬼もあった。ラインを止めても生産順序を守ると言って信頼を得てきた」と振り返る。

 生産計画の順守率は00年に34%だったのが15年にはほぼ100%に向上。生産リードタイムは00年に平均5直(1直は約8時間)だったのが15年は同3・75直に短縮した。

 こうした生産現場の実力向上は、マツダの復活を支えた「スカイアクティブ・テクノロジー」搭載車の生産に力を発揮した。現行4代目の小型車「デミオ」は00年当時の初代デミオに比べ、使う部品は1・59倍に、クルマの仕様の種類も1・54倍に増えた。にもかかわらず生産リードタイム、納期順守率ともに向上させている。

 計画順序生産というマツダ独自の取り組みは「マス・カスタマイゼーション(大量個別生産)」の発想にも通じる。圓山は「将来、1台ごとにもっとこうしてほしいとお客さんがいう時代が来るかもしれない。生産現場としても準備しておく必要がある」と話す。

日刊工業新聞2015年07月23日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 圓山氏はマツダの生産と開発部門の連携による「モノ造り革新」を主導してきた人。生産現場から得られる加工条件などのさまざまなデータをサーバーで管理し分析・活用し、よりよいモノづくりにつなげている。エンジンの生産では組み立てラインのデータを前工程の機械加工にフィードバッグし、機械加工の精度とエンジンの性能の関係を明らかにして性能向上を図っている。  例えばピストンとシリンダーの摩擦を下げられれば性能が上がる。生産現場が評価用のエンジンを使ってピストンリングと回転抵抗の関係性を検証して開発部門と共有。ピストンリングの形状を改良した新型エンジンは従来より回転抵抗を半減できた。  商品の競争力を高める多様性と、規模の効率を高める共通性という相反する特性を両立するための「モノ造り革新」は、世界販売150万台の中堅クラスのマツダが生き残りをかけて2008年に始めたもの。さらに今後はこれまでの生産と開発部門の連携だけでなく、調達部門を含めて、グローバルでの部品や材料の調達の最適化を進め、IoTを活用し「インダストリー4.0」の領域に入っていく。

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