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ニッポンの「オリガミ」が世界から再評価されている理由

掘り起こせ!古き日本の固有技術
 「ツナミ」「オモテナシ」などは、日本文化が海外に輸出されたものだ。「ハラキリ」は1840年と言われているから、江戸時代末期だ。

 昨年、オバマ大統領(当時)が広島を訪問した際に、自作の折り鶴を寄贈して、「オリガミ」が脚光を浴びたことは記憶に新しい。「オリガミ」は、良く知られているように、一枚の紙を折ることによりさまざまなモノの形を表現できる。

 「オリガミ」には形の表現ばかりでなく、強度を有する物体としての機能を持っていることが、研究の結果、分かってきた。その考え方を応用したのが、人工衛星に使われている太陽電池だ。人工衛星が宇宙空間に到着したのち、「オリガミ」を広げて、その機能を利用している。

 「オリガミ」は工学的な応用で注目を集めている。本紙電子版、3月5日号では「光を当てるだけの折り紙技術で、平面シートから立体形状」と題してリポートしている。これは米科学誌サイエンス・アドバンシーズの同月3日発表の論文によったものである。この論文は各方面で注目されたようだ。

 折り紙製品は手作業で作られるが、この手作業を自動化すれば、工業化に弾みが着く。

 筆者の専門である化学工学界でも、取り上げられている。米国化学工学会のケミカル・エンジニアリング・プログレス誌5月号では「オリガミが光でポリマーを折り・曲げる」として報告している。

 ノースカロライナ州立大学(NCSU)のディキー氏とジェンザー氏は、当初、黒インクでマークしたポリマーを熱処理していた。ところが、目的とは異なり、マークの部分で折り畳まれることを見いだした。

 これは、インクが塗られた部分に光が当たると、熱を吸収し、ポリマーが収縮し、結果として折れ曲がるという訳だ。この原理を応用して、NCSUでは研究を進め、インクの色・濃さと光の強弱を組み合わせることにより、さまざまな形状のモノを自動的に「折る」システムをコンピューターにより開発した。

 開発した技術によると、自重の925倍の重量のものを保持できるそうだ。

 「オリガミ」の「技術」は、古くから日本にある固有の技術であった。しかし、この技術の神髄を捉えたのは海外の研究者であり、今や、逆輸入すべき技術となってしまったのではないか? せっかくの宝が持ち腐れてしまったと言えよう。他にも宝があるかも知れない。
(文=大江修造 日本開発工学会会長 東京理科大学元教授)

日刊工業新聞2017年5月22日



光を当てるだけの折り紙技術で、平面シートから立体形状


(米ノースカロライナ州立大の発表資料から)

 平らなプラスチックシートに光を当てると、あらかじめ色付きのインクを印刷しておいた部分が折り紙のように折れ曲がり、複雑な立体形状を自動的に作れる手法を米ノースカロライナ(NC)州立大学の研究グループが開発した。しかも、それぞれの印刷箇所のインクの色合いを調節することで、単色光を使い、複数の折り目が折れ曲がる順番までプログラムできるようにしたという。

 2次元のシートを3次元に展開するのにモーターなどの駆動機構や広げるための手間が不要になる上、印刷費用も安く、かさばらずに運搬できることから、小型化・コストダウンにつなげられる。用途としては、生体に埋め込む医療デバイスやスマートパッケージ(賢い包装材)、人工衛星に組み込む太陽光発電パネルなどが想定されている。

 これに先立ち、研究グループではポリスチレンの平面シートで作った形状の折り目にあたる部分に、さまざまな色をインクジェットプリンターで印刷。違う色の光で印刷箇所が折れ曲がるようにした。

 例えば、シアン(青緑色)のインクは赤い光を吸収し、インクを印刷した線の部分の温度が上昇して素材が縮み、そこだけが折れ曲がる。同じように、黄色いインクは青色の光を、赤いインクは緑色の光をそれぞれよく吸収し、各インクを印字した線がヒンジのように選択的に曲がって、花びらのような立体形状を作ることができた。

 さらに、この知見を発展させ、単一波長の可視光を使って折れ曲がる順番を自在に制御できる手法を編み出した。それぞれの折り目に印字するインクの色合いや色の濃さを変えることで、光の吸収度合い、つまり温度上昇のスピードが異なることを利用している。詳細は米科学誌サイエンス・アドバンシーズに3日掲載された。

日刊工業新聞2017年3月5日

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
技術ではないが、例えば多くの語彙を知らない外国の人たちに日本語の美しさを教えられることがある。

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