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時間当たりの生産性が把握しにくい保険業界で残業どう減らす?

社内規定やインセンティブ導入で各社工夫
時間当たりの生産性が把握しにくい保険業界で残業どう減らす?

三井住友海上火災保険で配られた卓上POP

 長時間労働の是正による生産性とワークライフバランスの向上を目指し、保険会社で残業を減らす取り組みが活発化している。電通社員の過労自殺問題をきっかけに多くの企業で長時間労働を見直す動きが続くが、働き手にとっても労働習慣は簡単に変えにくいのが実情。T&Dフィナンシャル生命保険が6月に新たな制度を設けるなど、保険各社は社内規定やインセンティブの導入により残業の削減を進めている。

 T&Dフィナンシャル生命保険は20時になると社用パソコンの電源を自動でシャットダウンする仕組みを6月1日から導入する。

 同社は代理店経由で保険を販売。代理店の営業時間にあわせる必要から、残業が増えがちだった。時間が来ると電源を落とすという半強制的な方法により、社員が労働ペース見直し、業務を効率化させることを期待する。

 三井住友海上火災保険は4月から、全社員を対象にした「19時前退社ルール」を始めた。退勤時間を周囲に伝える卓上POPを配布。部下や同僚の退社予定時刻が一目で分かることで、業務指示の仕方に工夫が生まれ効率的な労働につながるという。マネジメント層を対象とした生産性向上に関する研修も実施し、社員の意識変革も進めている。

 オリックス生命保険は朝方勤務を促す奨励金制度を4月からテスト的に導入した。8時までに出社し18時までに退社した社員に、1日当たり1000円(上限月1万5000円)の奨励金を支給。9月末までに、前年同期比20%の残業削減を目指している。

 東京商工リサーチが行った残業に関する調査では、回答企業の約8割が「残業時間の削減に取り組んでいる」と答えた。残業削減は生損保だけでなく全企業の共通テーマとなっている。
(文=鳥羽田継之)
日刊工業新聞2017年5月17日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
特に保険業は製造業などと違って時間当たりの生産性が把握しにくく、非効率な残業が増える一因となっていた。半強制や奨励金の効果は大きく、各社の残業は減っていきそうだ。ただ、労働時間が短縮されても、それだけでは生産性は向上しない。今後は時間当たりの生産性の“見える化”と、生産性向上ノウハウの社内共有化が各社のテーマとなる。 (日刊工業新聞経済部・鳥羽田継之)

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