「使っている木材の産地は?」と会社に問い合わせが来たら、答えられますか?
違法伐採防ぐ「クリーンウッド法」。企業にNGO・投資家の厳しい目
「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律」(クリーンウッド法)が20日、施行される。海外での違法な森林伐採をなくすため、合法的に切り出した木材の使用を企業に求める。努力義務なので違法伐採木材を利用しても罰則はないが、非政府組織(NGO)や投資家が木材利用に厳しい目を向けており、企業は合法性の確認を迫られる。木材関連事業者は、合法性の証明が事実上の取引条件になりそうだ。(編集委員・松木喬)
「原料は認証材ですか」―。2月末、ある段ボールメーカーに取引先から問い合わせが来た。認証材とは、適切に管理されたと第三者が認めた森林産の木材。森林認証と呼ばれ、「FSC(森林管理協議会)」「PEFC」マークが有名だ。認証材は一般の木材より割高になる。
前述の取引先はクリーンウッド法を誤解し、認証材で作った段ボールを購入する必要があると思い込んでいた。クリーンウッド法は認証材の使用を強制していないが、こうした誤解が生じるほど産業界のクリーンウッド法への関心が高まっている。
クリーンウッド法は、政府機関が合法木材を調達する「グリーン購入法」と同水準の取り組みを民間に求める。木材を扱う事業者を「木材関連事業者」と定義。丸太、製材、合板、家具、製紙、住宅メーカーなどが該当する。木材を燃料とするバイオマス発電事業者も含む。ただし、古紙を原料とした製品は除く。小売業も除いた。
「登録木材関連事業者」(登録事業者)が新法の要となる。合法木材を扱っていると宣言した企業に登録事業者になってもらう。輸入業者などサプライチェーンの上流側の企業の登録を想定する。
登録事業者は伐採国・地域の購入先の名称などの情報、合法証明書を入手し、販売先に伝える。製材工場なら登録事業者から丸太を購入すれば、自ら合法性を確認しなくてもよい。
国は秋にも登録事業者の受け付けを始める。登録事業者が違法木材を国内に流通させない“防波堤”となる。ただし、登録事業者は合法性を確認できない木材も販売できる。
米国は2008年、欧州連合(EU)は13年、違法木材の使用を取り締まる規制を作った。背景には途上国で後を絶たない違法伐採がある。
東南アジアでは大規模伐採で住民が生活の場を奪われ、人権問題になっている。開発業者だけでなく、違法木材の購入企業が森林破壊と人権侵害に加担していると非難を浴びる事態が起きている。
大企業は、法的に問題なくても社会から批判を受ける「レピュテーション(評判)リスク」に対し、警戒を強めている。花王は16年、パーム油の調達先企業が、パームヤシ農園開拓のためにインドネシアの熱帯雨林を破壊したとNGOから指摘されたため、パーム油の調達をやめた。
投資家も企業の木材利用を注視する。英ロンドンに本拠を置く環境NGOの「CDP」が4月に都内で開いた森林関係のシンポジウムで、機関投資家のスタンダード・ライフ・インベストメンツ・ジャパンの植田八大氏は「評判リスクを警戒し、川下企業が調達先へ違法性が疑われる木材を使わないように働きかけ始めた」と説明した。
英・王立国際問題研究所は、法律がない日本に違法性の高い木材が流通していると指摘する。クリーンウッド法は努力義務だが、企業は社会の非難を受けないように、木材製品の産地を確認する必要がある。
木材関連事業者は取引先からの問い合わせに備え、合法性を確認しておくことで、取引の維持や拡大につながりそうだ。
双日は登録事業者になる予定だ。同社は16年に日本の原木輸入量の21%を取り扱った。林産資源部の桐山孝次部長は「登録はリーディングカンパニーとしての責任」と話す。
すでに違法木材を扱うリスクを洗い出している。15年に木材調達方針を制定し、16年に世界各地の調達先1400社を調査した。
結果はA―Dに分けて公表した。調達方針を持つ企業は多いが、結果の公開は少ない。「認証材または認証材相当」と確認した最高評価のAは42%、次に高評価のBは17%で半分が低リスクだった。一方で最低の「履歴管理の確保が不十分」のDが21%あった。
Dには伐採許可証がないなど書類の不備が目立った。20年までにDをゼロにする目標を設定し、調達先に通達した。熊谷正二部長補佐は「書類が必要と理解してもらえると、調達先の意識の底上げになる」と期待する。
調査の基本はアンケートだが、リスクの高い国は現地確認もしている。政府が合法と認めても、実態は違法性が高い“グレー”な木材があるためだ。月1回、関係会社も加わった特別チームが対策会議を開き、リスク排除に努めている。
積水ハウスは06年に木材調達ガイドラインを制定。違法伐採の恐れがなく、生態系破壊がないなど10の基準を設けた。木材のランク付けもしており、現在は高評価のSとAランクが全体の93%を占めた。
環境推進部の佐々木正顕部長は「木材を安定調達できないと、事業を継続できない」と、ガイドライン制定の理由を説明する。森林が減少して思うような量や価格で木材を購入できなくなると、住宅事業が成り立たない。06年は熱帯雨林の破壊が社会問題化した時期でもあり、評判リスクへの警戒もあった。
当初は「産地不明」の回答が多く、リスクが最も高いCが40%近くあった。調達先の建材メーカーは加工業者から材料を仕入れているため、産地の情報を持っていなかった。
そこで仕入れ先に確認してほしいと依頼した。「安定調達は調達先の経営も持続可能にする。コストではなく将来への投資だ」(佐々木部長)と協力を呼びかけた。
今も違法性が疑われる産地がないか、NGOに相談しながら確認している。クリーンウッド法を契機に合法性を確実に確認した木材の需要が高まると予想される。「判断材料が蓄積されている」と先行者の利点を語る。
「使っている木材の産地は?」と問い合わせが来たら答えられますか?「認証材を使わないと取引しないぞ」と言われて、反論できますか?努力義務の法律って、かえって混乱を生じさせるような気がします。現場から「どうせなら義務にしてほしかった」という声も聞かれました。
(文=松木喬)
登録事業者が“防波堤”
「原料は認証材ですか」―。2月末、ある段ボールメーカーに取引先から問い合わせが来た。認証材とは、適切に管理されたと第三者が認めた森林産の木材。森林認証と呼ばれ、「FSC(森林管理協議会)」「PEFC」マークが有名だ。認証材は一般の木材より割高になる。
前述の取引先はクリーンウッド法を誤解し、認証材で作った段ボールを購入する必要があると思い込んでいた。クリーンウッド法は認証材の使用を強制していないが、こうした誤解が生じるほど産業界のクリーンウッド法への関心が高まっている。
クリーンウッド法は、政府機関が合法木材を調達する「グリーン購入法」と同水準の取り組みを民間に求める。木材を扱う事業者を「木材関連事業者」と定義。丸太、製材、合板、家具、製紙、住宅メーカーなどが該当する。木材を燃料とするバイオマス発電事業者も含む。ただし、古紙を原料とした製品は除く。小売業も除いた。
「登録木材関連事業者」(登録事業者)が新法の要となる。合法木材を扱っていると宣言した企業に登録事業者になってもらう。輸入業者などサプライチェーンの上流側の企業の登録を想定する。
登録事業者は伐採国・地域の購入先の名称などの情報、合法証明書を入手し、販売先に伝える。製材工場なら登録事業者から丸太を購入すれば、自ら合法性を確認しなくてもよい。
国は秋にも登録事業者の受け付けを始める。登録事業者が違法木材を国内に流通させない“防波堤”となる。ただし、登録事業者は合法性を確認できない木材も販売できる。
米国は2008年、欧州連合(EU)は13年、違法木材の使用を取り締まる規制を作った。背景には途上国で後を絶たない違法伐採がある。
東南アジアでは大規模伐採で住民が生活の場を奪われ、人権問題になっている。開発業者だけでなく、違法木材の購入企業が森林破壊と人権侵害に加担していると非難を浴びる事態が起きている。
大企業は、法的に問題なくても社会から批判を受ける「レピュテーション(評判)リスク」に対し、警戒を強めている。花王は16年、パーム油の調達先企業が、パームヤシ農園開拓のためにインドネシアの熱帯雨林を破壊したとNGOから指摘されたため、パーム油の調達をやめた。
投資家も企業の木材利用を注視する。英ロンドンに本拠を置く環境NGOの「CDP」が4月に都内で開いた森林関係のシンポジウムで、機関投資家のスタンダード・ライフ・インベストメンツ・ジャパンの植田八大氏は「評判リスクを警戒し、川下企業が調達先へ違法性が疑われる木材を使わないように働きかけ始めた」と説明した。
英・王立国際問題研究所は、法律がない日本に違法性の高い木材が流通していると指摘する。クリーンウッド法は努力義務だが、企業は社会の非難を受けないように、木材製品の産地を確認する必要がある。
木材関連事業者は取引先からの問い合わせに備え、合法性を確認しておくことで、取引の維持や拡大につながりそうだ。
双日は1400社調査、履歴管理の意識喚起
双日は登録事業者になる予定だ。同社は16年に日本の原木輸入量の21%を取り扱った。林産資源部の桐山孝次部長は「登録はリーディングカンパニーとしての責任」と話す。
すでに違法木材を扱うリスクを洗い出している。15年に木材調達方針を制定し、16年に世界各地の調達先1400社を調査した。
結果はA―Dに分けて公表した。調達方針を持つ企業は多いが、結果の公開は少ない。「認証材または認証材相当」と確認した最高評価のAは42%、次に高評価のBは17%で半分が低リスクだった。一方で最低の「履歴管理の確保が不十分」のDが21%あった。
Dには伐採許可証がないなど書類の不備が目立った。20年までにDをゼロにする目標を設定し、調達先に通達した。熊谷正二部長補佐は「書類が必要と理解してもらえると、調達先の意識の底上げになる」と期待する。
調査の基本はアンケートだが、リスクの高い国は現地確認もしている。政府が合法と認めても、実態は違法性が高い“グレー”な木材があるためだ。月1回、関係会社も加わった特別チームが対策会議を開き、リスク排除に努めている。
積水ハウスは06年に木材調達ガイドラインを制定。違法伐採の恐れがなく、生態系破壊がないなど10の基準を設けた。木材のランク付けもしており、現在は高評価のSとAランクが全体の93%を占めた。
環境推進部の佐々木正顕部長は「木材を安定調達できないと、事業を継続できない」と、ガイドライン制定の理由を説明する。森林が減少して思うような量や価格で木材を購入できなくなると、住宅事業が成り立たない。06年は熱帯雨林の破壊が社会問題化した時期でもあり、評判リスクへの警戒もあった。
当初は「産地不明」の回答が多く、リスクが最も高いCが40%近くあった。調達先の建材メーカーは加工業者から材料を仕入れているため、産地の情報を持っていなかった。
そこで仕入れ先に確認してほしいと依頼した。「安定調達は調達先の経営も持続可能にする。コストではなく将来への投資だ」(佐々木部長)と協力を呼びかけた。
今も違法性が疑われる産地がないか、NGOに相談しながら確認している。クリーンウッド法を契機に合法性を確実に確認した木材の需要が高まると予想される。「判断材料が蓄積されている」と先行者の利点を語る。
記者ファシリテーター
「使っている木材の産地は?」と問い合わせが来たら答えられますか?「認証材を使わないと取引しないぞ」と言われて、反論できますか?努力義務の法律って、かえって混乱を生じさせるような気がします。現場から「どうせなら義務にしてほしかった」という声も聞かれました。
(文=松木喬)
日刊工業新聞2017年5月15日