デンソーに続きアイシン精機も東京にAI拠点
ソフトウエアに強い人材を囲い込み
自動車部品メーカーが人工知能(AI)を活用した製品開発を加速する。アイシン精機は、東京・台場に4月開設したAI開発拠点「台場開発センター」を報道陣に公開した。首都圏でソフトウエアに強い人材を囲い込み、自動運転向けなどのシステム開発を急ぐ。デンソーやドイツの大手部品メーカーも開発を強化している。AIを使ったシステム提案の巧拙は、部品メーカーの将来の競争力を左右する一つの要因となりそうだ。
「当社はソフトウエア分野で遅れている。即戦力の人材を採る」。アイシン精機の伊原保守社長は台場開発センターの狙いをこう語る。主要拠点のある愛知県ではなく、都内にAIの開発拠点を設けたのも、ひとえに人材確保のため。人材獲得競争が激しくなる中、「従来の(給与)水準にこだわらなくていい」(伊原社長)と採用活動を急ぐ。同拠点で年内に50人、将来は100人体制を目指す。
同社は現在、変速機やブレーキなどで世界有数のサプライヤーだ。しかし自動運転などの開発でソフトウエアの重要性は飛躍的に高まる。今の競争力を失わないためにも、ブレーキなどを動かす電子制御ユニット(ECU)やアルゴリズムの強化が不可欠だとみている。
他の部品メーカーも既にAI開発などの強化に動いている。デンソーは2000年代からAI開発を進めており、NECや東芝とも協業を進める。
独ボッシュはドイツとインド、米シリコンバレーの3カ所に17年から順次「AIセンター」を設置し、21年までに約360億円を投じる計画。独ZFは米半導体大手のエヌビディアと提携し、AIの高度化を急ぐ。
アイシン精機も今後は「自動運転」「つながる車」などの成長領域の中核技術としてAIを位置付ける。技術責任者の藤江直文副社長は「AI技術なくしてハードは進化できない。従来のメカ(機械)中心の考え方から、今後はソフトウエアにも価値が出てくる」と話し、ハードとソフトの融合を目指す考えを強調した。
(文=名古屋・杉本要)
自動車の安心安全を支える技術の高度化へ、人工知能(AI)を活用しようという動きが顕著だ。運転者を安全面でサポートする先進運転支援システム(ADAS)や、移動における社会課題の解決手段として期待される自動運転車には、瞬時にカメラの映像やセンサー情報から危険などを判断する技術の確立が欠かせない。デンソーもAI技術を自動車に実装しようと諸技術を研究開発している。
デンソーグループのデンソーアイティーラボラトリ(東京都渋谷区)は、グループのAI技術研究の拠点に位置づける。設立は2000年とAIの研究を長く続ける。社員数32人のうち研究者が25人。AI、特に画像認識率のアップに不可欠な機械学習、ディープラーニング(深層学習)関連の最先端の論文を読み解き、ときには自分らで安全技術に使って技術を高めていく。
社内には、楽器やくつろげるスペースがあり、海外のベンチャー企業のような雰囲気を醸し出す。同社の平林裕司社長は「『デンソーらしくない』と言わせたい」と笑う。自由闊達(かったつ)でオープンな環境から将来の自動車を支える新技術を生み出そうという意欲が伝わってくる。
研究テーマは数多い。大まかには、運転者の意図を理解する「意図推定」、車両の周辺状況を把握する「周辺状況認識」、それら二つの情報を解析して渋滞予測や運転者の疲労度などを提示する「情報解析・生成」、分かりやすく適切に情報を提示する「ユーザーインターフェース」に分かれる。
AIを使った画像認識技術の一つが深層学習によるリアルタイムの歩行者認識。単眼カメラで歩行者の体の向きや距離を推定しつつ、歩行者の状態を検知する。
技術者によると「カメラから遠い、近いで人の画像の大きさが変わる。それでも的確に検知できる」のがポイントだ。深層学習の手法の一つであるディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)を認識に使い、ピラミッド画という処理手法を採用。さらに瞬時に処理できるよう計算の負担を減らすための工夫を施した。
DNNを自動車に実装できるよう、省電力でも高速処理できる技術にも挑む。DNNアクセラレータは、DNNを専用ハードウエアとして実装することで、大きな電力を使うグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)を不要にできる。
各所で研究が進む自動運転車は現状、画像認識に大きくて電力をたくさん使う回路を使っている。処理に必要な電力を減らすか、処理する計算の量を減らすことが自動車への実装には欠かせない。デンソーの加藤良文常務は「人間の脳の電力は20ワット。ここを目指していく」と説く。
併せて、誤動作を起こさない信頼性の確保も新技術では課題だ。深層学習は誰でも使えるオープンなものが出回るが、どういう理由でAIが判断したのかという中身が分からないケースがある。多少負担であっても「重要な部分は、自社製作のAI技術を使う」(同)ことになるという。
(文=石橋弘彰)
「当社はソフトウエア分野で遅れている。即戦力の人材を採る」。アイシン精機の伊原保守社長は台場開発センターの狙いをこう語る。主要拠点のある愛知県ではなく、都内にAIの開発拠点を設けたのも、ひとえに人材確保のため。人材獲得競争が激しくなる中、「従来の(給与)水準にこだわらなくていい」(伊原社長)と採用活動を急ぐ。同拠点で年内に50人、将来は100人体制を目指す。
同社は現在、変速機やブレーキなどで世界有数のサプライヤーだ。しかし自動運転などの開発でソフトウエアの重要性は飛躍的に高まる。今の競争力を失わないためにも、ブレーキなどを動かす電子制御ユニット(ECU)やアルゴリズムの強化が不可欠だとみている。
他の部品メーカーも既にAI開発などの強化に動いている。デンソーは2000年代からAI開発を進めており、NECや東芝とも協業を進める。
独ボッシュはドイツとインド、米シリコンバレーの3カ所に17年から順次「AIセンター」を設置し、21年までに約360億円を投じる計画。独ZFは米半導体大手のエヌビディアと提携し、AIの高度化を急ぐ。
アイシン精機も今後は「自動運転」「つながる車」などの成長領域の中核技術としてAIを位置付ける。技術責任者の藤江直文副社長は「AI技術なくしてハードは進化できない。従来のメカ(機械)中心の考え方から、今後はソフトウエアにも価値が出てくる」と話し、ハードとソフトの融合を目指す考えを強調した。
(文=名古屋・杉本要)
日刊工業新聞2017年5月10日
デンソーらしくないAIラボ
自動車の安心安全を支える技術の高度化へ、人工知能(AI)を活用しようという動きが顕著だ。運転者を安全面でサポートする先進運転支援システム(ADAS)や、移動における社会課題の解決手段として期待される自動運転車には、瞬時にカメラの映像やセンサー情報から危険などを判断する技術の確立が欠かせない。デンソーもAI技術を自動車に実装しようと諸技術を研究開発している。
デンソーグループのデンソーアイティーラボラトリ(東京都渋谷区)は、グループのAI技術研究の拠点に位置づける。設立は2000年とAIの研究を長く続ける。社員数32人のうち研究者が25人。AI、特に画像認識率のアップに不可欠な機械学習、ディープラーニング(深層学習)関連の最先端の論文を読み解き、ときには自分らで安全技術に使って技術を高めていく。
社内には、楽器やくつろげるスペースがあり、海外のベンチャー企業のような雰囲気を醸し出す。同社の平林裕司社長は「『デンソーらしくない』と言わせたい」と笑う。自由闊達(かったつ)でオープンな環境から将来の自動車を支える新技術を生み出そうという意欲が伝わってくる。
研究テーマは数多い。大まかには、運転者の意図を理解する「意図推定」、車両の周辺状況を把握する「周辺状況認識」、それら二つの情報を解析して渋滞予測や運転者の疲労度などを提示する「情報解析・生成」、分かりやすく適切に情報を提示する「ユーザーインターフェース」に分かれる。
AIを使った画像認識技術の一つが深層学習によるリアルタイムの歩行者認識。単眼カメラで歩行者の体の向きや距離を推定しつつ、歩行者の状態を検知する。
技術者によると「カメラから遠い、近いで人の画像の大きさが変わる。それでも的確に検知できる」のがポイントだ。深層学習の手法の一つであるディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)を認識に使い、ピラミッド画という処理手法を採用。さらに瞬時に処理できるよう計算の負担を減らすための工夫を施した。
DNNを自動車に実装できるよう、省電力でも高速処理できる技術にも挑む。DNNアクセラレータは、DNNを専用ハードウエアとして実装することで、大きな電力を使うグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)を不要にできる。
各所で研究が進む自動運転車は現状、画像認識に大きくて電力をたくさん使う回路を使っている。処理に必要な電力を減らすか、処理する計算の量を減らすことが自動車への実装には欠かせない。デンソーの加藤良文常務は「人間の脳の電力は20ワット。ここを目指していく」と説く。
併せて、誤動作を起こさない信頼性の確保も新技術では課題だ。深層学習は誰でも使えるオープンなものが出回るが、どういう理由でAIが判断したのかという中身が分からないケースがある。多少負担であっても「重要な部分は、自社製作のAI技術を使う」(同)ことになるという。
(文=石橋弘彰)
日刊工業新聞2016年10月17日