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快進撃の富士重に死角はあるか!?吉永社長「販売競争は甘くなく、安心はしていない」

北米依存の高さ、新興国への展開を準備。今年も部品メーカーへの値引き要請見送りで利益還元
快進撃の富士重に死角はあるか!?吉永社長「販売競争は甘くなく、安心はしていない」

「当社の業績だけがいいのではいけない。(協力企業と)ともに成長したい」(吉永社長)

 富士重工業の快進撃が止まらない。2016年3月期に売上高で初の3兆円超え、営業利益で初の5000億円超えを目指す。売上高と全利益段階で4期連続の過去最高を予想する。目標値に向けて、米国の生産能力増強を4年前倒し、けん引役の北米事業の足場固めを急ぐ。同社に死角はないのか、吉永泰之社長に話を聞いた。
 
 ―16年末に米国生産能力を年約40万台に引き上げることを決めました。
 「先日の現地ディーラー大会で、みな能力増強は喜んでくれたが、それでも車は足りないという反応だった。各ディーラー当たりの販売は07―08年頃の年300台から今は同800台に増えた。スバルディーラーはもうかると認識が広がり、しっかり売ってくれるいい循環ができた」
 
 ―「車が足りない」以外に死角はないのでしょうか。
 「販売競争は甘くなく、安心はしていない。だが、数カ月で変調することはない。無理な販売もしていない。サブプライム層(優良顧客よりも信用度の低い層)へのクレジット比率は1ケタ台の下の方で、インセンティブも業界内で最も低い約800ドル。以前は新車販売後のアフターフォローを心配したが、今はディーラー自らが先を見据え、サービス体制を拡充して顧客との関係強化に取り組んでいる」
 
 ―北米依存の高さは。
 「将来は中国を伸ばしたいし、小規模ながら急激に伸びている国も大事にしたい。だが、北米の勢いを削いでまで今は積極的に拡大しない。北米をただの一本足でなく、王貞治氏の強固な“一本足打法”まで強くできれば武器になる。部品を持ち込んで現地で組み立てる小規模なノックダウン生産で成り立つノウハウも積み、中国以外も新興国への展開の準備はしている」
 
 ―好業績を社長自身はどう評価していますか。
 「為替の利益押し上げもあるが、全員でがんばってきた成果が出て率直にうれしい。販売台数も利益率もいい。取り組みの中には軽自動車の生産を止める厳しい選択もあった。ただ、今期も数字ありきではなく、社内では各部門の計画をしっかりやろうと伝えている。為替水準を1ドル当たり118円に設定したから、売上高3兆円の予想となっただけだ」
 
 ―環境技術や予防安全技術の状況は。
 「トヨタ自動車との協力では、ハイブリッド(HV)システムなどの環境技術はいただくことが多いが、スバルとして一番大事なのは商品と技術。スポーツカー『86/BRZ』のプロジェクトを次の全面改良に向けて進化させる。米国での規制動向を見ながら、電気自動車は自社で先行開発を進める。運転支援システム『アイサイト』は評判が良いため、搭載比率を高めたい。簡易版の運転支援は当社には合わない。技術陣は自動運転の志向が強く、高速道路向けに開発していく」

 【記者の目/地道な開拓実を結ぶか】
 一般的に一本足経営はリスクとされるが、富士重工業は今期世界販売92万8000台のうち北米60万台を見込み、依存度は65%近くにのぼる。こうした中、同社は一層の北米強化にかじを切る。今の好調を支えるのは車自体だが、顧客関係の強化も地道に進める。この勢いを来年以降の新プラットフォーム(車台)採用車にも続けられるか注目される。
 (聞き手=梶原洵子)

 <関連記事=部品メーカーに値引き要請見送り>

 富士重工業は前年度下期に続き、2016年3月期も部品の値引き要請の見送りを含めた原価低減の緩和を継続する。取引先各社の状況に応じて個社ごとに内容を決める。同社は為替の円安進展も追い風となり、今期は売上高と各利益項目で4期連続の過去最高更新を見込む。生産拡大や新車投入には取引先との協調が重要となるため、利益を還元して部品各社の事業成長を後押しする。

 吉永泰之社長が明らかにした。同社を含めて完成車メーカー各社はコスト低減の一環で、毎年取引先の部品メーカーに生産効率化に伴う値引き協力を数%要請している。足元は円安の進展で完成車側の利益が拡大している一方、部品各社は部材輸入により円安が利益圧迫要因にもなりうる。また富士重は米国で大幅な生産能力増強を計画しており、取引先も同国で設備投資を増やしている。

 そこで「当社の業績だけがいいのではいけない。ともに成長したい」(吉永社長)と、原価低減緩和継続を決めた。同社の取引先はトヨタ自動車などの系列部品メーカーに比べ規模が小さく、特に大幅な生産拡大時には支援が必要と見られる。

 値引き要請の見送りや原価低減の緩和は、1ドル=100円以上が定着した前年度下期から完成車メーカーなどの間で広がった。同下期はトヨタや富士重工業、三菱自動車のほか、デンソーなどトヨタ系大手部品メーカーが実施。足元では一時同125円をつけるまで円安が進展しており、部品への利益還元が広がるか注目される。
日刊工業新聞2015年06月05日1/ 3面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
「やらないことを決める」のが経営トップの最大の仕事であるなら、ここ何年か、富士重は自動車メーカーの中でも一番成功してきたといえる。今回のインタビューでもそれが確認できた。

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