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日経記者がプロジェクトチームで総力取材『免疫革命 がんが消える日』

<情報工場 「読学」のススメ#29>末期がんに効く「夢の新薬」オプジーボ
 1981年から35年連続で日本人の死因第1位は「がん」である。もっとも、恐るべき「不治の病」というイメージは日本だけでなく世界中に定着しているだろう。

 がんは英語で星座の「蟹座」と同じく「Cancer」という。これは諸説あるが、乳がんの形状が脚を広げた蟹に似ていたことに由来するといわれる。日本語の「がん」の起源である中国語の「癌」は「岩」とも書かれたようで、やはり乳がんの固いしこりを表す言葉だったようだ。

 こうした乳がんのしこりのようにがんに侵された部位を取り除く外科手術が、代表的ながんの治療法だ。その他に薬物(抗がん剤)、放射線照射があり、この三つが「三大療法」と呼ばれる。
 このうち抗がん剤による治療は副作用が大きく、患者に身体的・心理的にたいへんな負担をかける。また、末期がんになると抗がん剤も効かなくなることが多い。

 だがここにきて、副作用が少なく、末期がんに抗がん剤よりはるかに高い効果がある薬が登場した。「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」である。日本の小野薬品工業と米国大手ブルストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が共同開発し、2014年9月に日本国内での販売を開始している。

 本書『免疫革命 がんが消える日』は、「夢の新薬」として話題を集めるオプジーボについて、日本経済新聞社の医療担当専門記者によるプロジェクトチームが総力を挙げて取材したリポートである。

 オプジーボは当初、皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として認可を受けている。メラノーマの場合、既存の抗がん剤では、がん細胞を小さくする「奏功率」は7~12%程度だ。しかし、オプジーボならば約23%とおよそ2倍になる。

 2015年12月からは非小細胞肺がんにも使用が認められるようになった。末期の肺がんの奏功率でも、抗がん剤が約1割に対してオプジーボは倍の約2割まで高まる。

直接攻撃するのではなく免疫のブレーキを外す


 オプジーボによるがんの治療メカニズムは、抗がん剤とは根本的に異なる。抗がん剤は、がん細胞を直接攻撃し消滅させることをめざすが、オプジーボは人体に本来備わっている免疫機能を活用する。

 免疫は日常的に、人体に悪影響のあるウィルスや細菌、初期のがん細胞などを攻撃し、退治している。そのおかげで私たちは健康を維持できているのだ。

 ところが、悪性のがん細胞は、その免疫の働きにブレーキをかけてしまう。強盗がヒーローの手足をしばるようなものだ。そこでオプジーボは、そのブレーキを外す、つまりしばられたロープを解いてあげる。そのおかげで免疫の本来の働きができるようになり、がんが退治されるのだ。

 免疫の動きを止めるブレーキは、免疫チェックポイント分子「PD-1」と呼ばれている。1992年に京都大学の本庶佑教授(現在は京都大学名誉教授、先進医療振興財団理事長)の研究チームによって発見された。この世紀の発見により、本庶氏は毎年のようにノーベル賞受賞者候補に名前が挙がる。

 抗がん剤は、攻撃対象のがん細胞が強ければ効かない。しかも、がん細胞のみをピンポイントで攻撃できないため、周囲の健康な細胞にも損傷を与えてしまう。重篤な副作用が生じるのはそのためだ。

 一方オプジーボは、もともと攻撃力のある免疫を働けるようにするため、強いがん細胞にも勝てる可能性が高くなる。免疫はがん細胞を狙いを定めて攻撃できるので、副作用も少なくなる。

 免疫という身体がもともと備えている機能を働かせるという点で、オプジーボは、漢方などの東洋医学に通じるものがあるのではないか。日本人研究者や日本企業が開発の中心になっていることからも、意識しないまでも東洋的な発想が入っていると推測される。東洋医学と西洋医学の融合によって、これまで救えなかった多くの命が助かるようになったともいえるのだ。

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ニュースイッチオリジナル
冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
医療分野のベンチャーに投資するためファンドを組成する製薬会社が増えている。小野薬品の薬価引き下げに関しては様々な見方があるとは思うが、国は、そういった積極的投資から今後生まれたものに対しても、国際競争力を増すための後押しこそすれ、勢いをそぐようなことはないようにしてほしい。

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