クックパッド創業者・佐野氏ら気鋭のアントレプレーナーたちが語る『お金って必要?』
「公益資本主義」イベント。佐野(クックパッド)×柳澤(カヤック)×青野(サイボウズ)×森川(C Channel)=パート2
議論はさらに白熱していきます。
パネル参加者
●柳澤大輔カヤックCEO
●佐野陽光クックパッド創業者・取締役
●青野慶久サイボウズ社長
●森川 亮C Channel代表取締役
※司会=山口豪志デフタ・パートナーズ
山口「会社の中で取り入れている仕組みとかルールについてお聞きしたいんですけど、先日、柳澤さんと話をしていて非常に共感したキーワードがあります。会社の評価軸が会社のオリジナリティーを定義していくという点です」
柳澤「忘れないうちに言っておくと、さっき佐野さんが言ったように、株主が短期志向に走って、会社が右往左往するのはよくない。だから長期に株を持ってくれた人たちへ、議決権を増やすとか、長期保有の株主ほど配当が多くもらえるとか、長期の視点で会社を見ていくというのはその通りだと思います。我々はクリエイティブの会社で時間軸が結構長い。短期では本当にいいものは作れない。時間軸を長いスパンで、会社を評価する。経営者にもそのような評価基軸があるだけで、だいぶ違ってくる。カヤックはそういうことも取り入れているんですけど」
「こういう会社にしたいという文化を作るのは、ぼぼ評価なんですね。仕事というのは評価そのものだから。取引先とか、ユーザーの評価、すべて評価です。なぜそう思ったかというと、学生から社会人になった時に、一番気持ち悪かったのは、評価を気にして生きていかなければいけないのか、とすごく感じて。それが社会人になって一番大きなギャップだった」
「そこから評価について考えるようになって、色々と調べた。報酬という評価と、報酬と連動していない評価があります。最初に導入したのが『サイコロ給』。サイコロを振って給料を決める。最初は友だち同士で始めたので、お金で揉めないように初志貫徹の思いで。報酬評価という制度の中に、一切評価をしないという評価軸を入れたわけですね。これはかなり衝撃的で、かなり最先端です。一切評価をしないということは、『他人の評価を気にし過ぎるな』という一つのメッセージ。面白く働くためには他人の評価を気にしていてはダメ。全部サイコロだとまずいですけど、少しそういう要素を入れる。面白法人なんで」
「これってよくよく正しかった。例えば世の中の失業率と自殺率は比例していますよね、特に日本は。会社で、もう使えない人物ということは、スポーツでいう戦力外通告ですよね。本来は、人間を否定されたものではないけど、そうなると全人格を否定されたかのように感じてしまう。評価が少し厳し過ぎるんだと思うんですね。経営者も時価総額であったり評価される軸がある。あと、どこの誰が何億円を調達したとか、他人と比較しちゃう。サイバーエージェントの藤田社長も言ってましたけど、日本の会社は、そこまでの価値がないと思っていても、他の会社がそこそこの価値になると、『あいつがそこまでいくなら俺もいくだろう』と思っちゃう。他人と比較して評価すると、そういう変な方向に行ってしまうんです」
山口「鎌倉に本社を置くことにこだわり続けている話も聞かせてもらえますか」
「15年ほど前から置いていますけど、IT企業なのに、ITによって仕事が忙しくなっては意味がない。こういう便利なものができれば、豊にならないといけないでしょ。であれば、どこでも働ける時代になったんで、鎌倉に本社を置こうと。そういう思いでやり続けているんですが、はじめはなかなかIT企業が増えなくて、カヤックほぼ1社の状態でした。ここにきて、スマホが普及して急に会社が増え始めて、最近は『カマコンバレー』という言葉も出てきた。また鎌倉には鎌倉投信さんがあって、非常に考えた方が近いと思うんです。100年のスパンで良い企業に投資して実績を上げている。パタゴニアの本社も鎌倉にある。売り上げの1%を必ず環境保護などに投資しているし、そういった象徴的な地域になりつつある」
佐野「みなさんどういう話が聞きたいですか?どういう話をしたらいいのかと思って。僕なんかは公益資本主義をもっと知りたいと思って来たので。せっかくだったら会場から」
聴講者「さきほどから中長期的な視点で、という話なんですが、クックパッドさんに知り合いがいて、最初のころは経営が大変だったと伺っています。佐野さんも長期的な視野で経営されてきたと思うんですけど、どういう方が最初、ファイナンスをしてくれたのか。医療とかはいずれ先が見えてくるかもしれないけど、クリエイティブなビジネスの場合、結構リスクも大きいかと思うんです。中長期の視点で経営するにはどういう仕組みが必要か、またどういうインベスターがいればいいのか」
佐野「なるほど~面白い。うちは最初の利益がでるまで7年かかかっている。お金、無かったんですよ。それがすごく良かったんじゃないかな、と。今、15年ぐらい経って、ある程度利益が出始めて、お金を使って事業を進めることができるようになってから、またこれはハードルがすごく上がるんです。要するに環境を作ったりするわけですよ。我が社の置かれている状況って、ものすごい恵まれた環境だと思いますよ。もっと楽しみたいために、新しい事業をやったりとか」
「だけど、なかなか生まれない。なかなか生まれないんですよ。お金が無い時は、頭を使うし。経営で大事なことは。『やらないことを決める』ことなんです。結局、競争力だって『しぼる』ことなんです。やることを決める方が楽なんです。やらないことを決めることが大変なんです。みんな経営されているので皮膚感覚としてあると思うんですけど、最終的に社長がやらなきゃいけない仕事は、やらないことを決めることだと思うんです」
「お金からのプレッシャーがかかっているというのは、実は恵まれた環境だったんじゃないか。長期的というのと、事業が生み出される環境の関係性について、資金が潤沢にあるという状態は、長期的に何か担保されているように見えつつ、事業が生まれる環境としては、多分、すごく良くない気がする。だから、バランスをどういう風に考えられているのか、(会場席にいる)神永さん(住友精密工業前社長)とかに聞きたいんですね。僕も悩んでいるんです。どうやってあの時の緊張感を再現するんだろうと」
「今のチームでもお金を絞っていった方が先へ進むんです。夏休みの宿題みたいなもんですかね。もう先がないみたいな。人間ってそういうものなのかな、、。『長期的に』と言った時に、必ずしも潤沢な資金を用意するということでは多分ない。潤沢な資金を用意すれば長期的な事業に取り組めるかといえば、そうじゃない。でも実際に長期的に取り組んでいく時には資金が必要なんですよ。ジレンマじゃないけど、このあたりをどう考え扱うかですね」
「思うんですけど、日本人として生まれた時点で、もう大丈夫ですよ。死なないもん。僕がなんで起業したかというと、大学を卒業する時に分かったんですよ。どうしようかな、と思った時に、まず死なないことが分かったんです。餓死しない。餓死することがリスクじゃない、と。そう考えるとリスクはないんです。そんなにお金はいらないんじゃないかなって」
「クックパッドの経験からいうと、最初、お金がないからインターネット無料の時代に、値段付けてサービスを売ってたんですよ。あれはすごい良かった。お金がないなりに、小さい範囲でちゃんと利益が出るような形を、常に追求するべきなんです。利益っていいことなんです。価値が定量化されているので。それをしっかりと今の自分の規模、立場から一歩一歩、ちゃんと実証していくプロセスが世の中に価値を生み出していくと思うんです」
「あまり難しく考えずに、最初の資本は自分じゃないですか。日本にいれば、あと10年、数十年ぐらいは担保されている。自分を資本に結構できますよ。ちゃんとお客さんに価値を生み出して、利益を出す。そこへ一歩踏み出してから考える。多分、資本がいる時とか、スケールさせる時とかは結構限られていると思うんですね。資本でレバレッジ効かせようとなんか勘違いして、先に潤沢な資金を集めちゃうと、お金使うの大変ですからね」
「なんで資金が泳いでいるかというと、自分でお金が使えないんです。だから自分より上手にお金を使っている人を探しているんです。お金使って利益を生み出せない人が集まっちゃうと辛いですよね。答えになっているか分からないですけど、まず一歩じゃないですか。今の資本からちゃんと利益生む、価値をしっかり出すことが大事です」
青野「佐野さんの今のいい話の流れを断ち切らないようにします。その前に少しだけサイボウズの制度の話をしていいですか?僕たちは働き方をよくしたいな、と思っているんですが、サイボウズも最初は離職率がすごく高くて2005年に社長になったんですけど、当時28%もありました。疲弊した顔でみんなが働いている会社だったんですけど、ちょっと考え方を変えようと思って、残業しないでもよい制度を作ったりとか、在宅勤務ができるようにしたりとか、産休・育休で6年間とれるようにしたりとか、働く時間帯選べるとか、いろいろやっていくうちに、離職率が4%まで下がり、女性が定着するようになって、今は4割ぐらい女性です、BツーBのIT企業だと異例の高さだと思う。女性役員が2人ぐらい出てきたりとか」
「でも、お金ってほんとに面白いですよね。僕も2005年に社長になって、株価が低かったんですよ。それが我慢できなくて、なんとかしたいと思って、頑張ってIR活動して、買いませんか?と言ったら結構買ってくれるようになって。第2次ネットバブルでブォーと株価がうなぎ登りに上がって、半年で10倍以上ですかね。ピーク時の時価総額は今の10倍ぐらい。途中から訳が分からないんですよ。絶対にそんな価値がないのにどんどん上がっていくし。そしたら、堀江さんが逮捕されてバブルが終わり、そこから急落です」
「後から投資家に話を聞きに行ったらこんなこと言われたんです。『あの時、勧めてくれてありがとう。おかげて大もうけできた』と。それで『あれ?俺は何をやっていたんだろう』と思ったわけです。この人を儲けさすために、訪問して説明して。彼が売った時に買った人は大損しているわけですよ。それで一切IR活動を止めることにしました。それが楽しい経営者だったらそれでいいですけど、僕は楽しめなかったので。『サイボウズは売り上げ、利益を追求する会社じゃありません』と定義をして、毎年株主総会で言ってます。株主の前で、期待しないで下さいと。お金は怖いですよね。ほんとにやりたくない事をやらせてしまう魔力がある。そのようにとりつかれないように事業をしたいと思っています」
柳澤「ちょっと質問していいですか?それ、最初からなら設計できると思うんですけど、途中で変わったわけじゃないですか。できるものなか。社長が交代したから株主も納得したのか?」
青野「僕はどちらかと言えば、手のひらを変えましたので、1回、株主総会は荒れました。厳しい質問がや止むことなく続きました。お前の話で大損したとか。今の配当は電車賃も出ない、どうしてくれるんだとか。それはもうしょうがないですよね。ごめんさい、というだけですよね。利益を求める人がいること自体が悪いことではない。一緒の方向を見ていない人たちが、組んじゃったということですね。柳澤さんが株主に対して『仲間』だとおっしゃっているわけですけど、株主と一緒の方向を向いているとうまくいくと思う。お金がリターンだと考える人たちは、まずそこから我々とちょっとズレている」
山口「いいですね。白熱してますね。じゃ森川さん、お願いします」
森川「僕の会社はまだ始まって1カ月ほどなので、特に何の制度もないんですけど、個人的に考えていることを話すとしたら、元々いろんな仕組みというものは、自然が基軸になって進んできたものだと思うんです。資本主義も本質的には、人間というものは『足るを知る』ものだという概念があるからこそ、投資する仕組みができている。しかし、自然から人間が生まれて、人間からコンピューターが生まれて、コンピューターというものは、足るを知らない」
「今、大半の仕事をコンピューターがやっているので、こういうバランスを崩した状態になっているのかなと。僕がやろうと思っていることは、どこまで会社を自然に近づけるか、ということを考えてます。今、オフィスも一軒家でガラス張り。道を歩いている人は僕たちを見るし、僕たちも見る。いいサービスをしていれば、みんなニコニコしながら見るだろうし、悪いサービスしていたら嫌な顔をされるだろう。そういう接点がまず大事だということ」
「あと働いている人たちに何のルールもなくて。多分、自然に近いからこそ、人間らしく評価できるんじゃないですかね。それこそがまさにいい環境を作ることなんです。『自然よりも正しいと』と思ってしまうと人間は間違える。欧米的な感覚はそうなんですけど、アジア的な感覚はちょっと違って、自然の中に本質があるという概念。もしからしたら本当の意味で地球を救うとか、何かそういうエネルギーになるんじゃないかと。みんながハッピーになる仕組みをどういう風につくって、ゼロサムではなく付加価値を生み出すのか。そんなことを考えています」
※次回は6月4日に公開予定
パネル参加者
●柳澤大輔カヤックCEO
●佐野陽光クックパッド創業者・取締役
●青野慶久サイボウズ社長
●森川 亮C Channel代表取締役
※司会=山口豪志デフタ・パートナーズ
山口「会社の中で取り入れている仕組みとかルールについてお聞きしたいんですけど、先日、柳澤さんと話をしていて非常に共感したキーワードがあります。会社の評価軸が会社のオリジナリティーを定義していくという点です」
柳澤「忘れないうちに言っておくと、さっき佐野さんが言ったように、株主が短期志向に走って、会社が右往左往するのはよくない。だから長期に株を持ってくれた人たちへ、議決権を増やすとか、長期保有の株主ほど配当が多くもらえるとか、長期の視点で会社を見ていくというのはその通りだと思います。我々はクリエイティブの会社で時間軸が結構長い。短期では本当にいいものは作れない。時間軸を長いスパンで、会社を評価する。経営者にもそのような評価基軸があるだけで、だいぶ違ってくる。カヤックはそういうことも取り入れているんですけど」
「こういう会社にしたいという文化を作るのは、ぼぼ評価なんですね。仕事というのは評価そのものだから。取引先とか、ユーザーの評価、すべて評価です。なぜそう思ったかというと、学生から社会人になった時に、一番気持ち悪かったのは、評価を気にして生きていかなければいけないのか、とすごく感じて。それが社会人になって一番大きなギャップだった」
「そこから評価について考えるようになって、色々と調べた。報酬という評価と、報酬と連動していない評価があります。最初に導入したのが『サイコロ給』。サイコロを振って給料を決める。最初は友だち同士で始めたので、お金で揉めないように初志貫徹の思いで。報酬評価という制度の中に、一切評価をしないという評価軸を入れたわけですね。これはかなり衝撃的で、かなり最先端です。一切評価をしないということは、『他人の評価を気にし過ぎるな』という一つのメッセージ。面白く働くためには他人の評価を気にしていてはダメ。全部サイコロだとまずいですけど、少しそういう要素を入れる。面白法人なんで」
「これってよくよく正しかった。例えば世の中の失業率と自殺率は比例していますよね、特に日本は。会社で、もう使えない人物ということは、スポーツでいう戦力外通告ですよね。本来は、人間を否定されたものではないけど、そうなると全人格を否定されたかのように感じてしまう。評価が少し厳し過ぎるんだと思うんですね。経営者も時価総額であったり評価される軸がある。あと、どこの誰が何億円を調達したとか、他人と比較しちゃう。サイバーエージェントの藤田社長も言ってましたけど、日本の会社は、そこまでの価値がないと思っていても、他の会社がそこそこの価値になると、『あいつがそこまでいくなら俺もいくだろう』と思っちゃう。他人と比較して評価すると、そういう変な方向に行ってしまうんです」
山口「鎌倉に本社を置くことにこだわり続けている話も聞かせてもらえますか」
「15年ほど前から置いていますけど、IT企業なのに、ITによって仕事が忙しくなっては意味がない。こういう便利なものができれば、豊にならないといけないでしょ。であれば、どこでも働ける時代になったんで、鎌倉に本社を置こうと。そういう思いでやり続けているんですが、はじめはなかなかIT企業が増えなくて、カヤックほぼ1社の状態でした。ここにきて、スマホが普及して急に会社が増え始めて、最近は『カマコンバレー』という言葉も出てきた。また鎌倉には鎌倉投信さんがあって、非常に考えた方が近いと思うんです。100年のスパンで良い企業に投資して実績を上げている。パタゴニアの本社も鎌倉にある。売り上げの1%を必ず環境保護などに投資しているし、そういった象徴的な地域になりつつある」
佐野「みなさんどういう話が聞きたいですか?どういう話をしたらいいのかと思って。僕なんかは公益資本主義をもっと知りたいと思って来たので。せっかくだったら会場から」
聴講者「さきほどから中長期的な視点で、という話なんですが、クックパッドさんに知り合いがいて、最初のころは経営が大変だったと伺っています。佐野さんも長期的な視野で経営されてきたと思うんですけど、どういう方が最初、ファイナンスをしてくれたのか。医療とかはいずれ先が見えてくるかもしれないけど、クリエイティブなビジネスの場合、結構リスクも大きいかと思うんです。中長期の視点で経営するにはどういう仕組みが必要か、またどういうインベスターがいればいいのか」
佐野「なるほど~面白い。うちは最初の利益がでるまで7年かかかっている。お金、無かったんですよ。それがすごく良かったんじゃないかな、と。今、15年ぐらい経って、ある程度利益が出始めて、お金を使って事業を進めることができるようになってから、またこれはハードルがすごく上がるんです。要するに環境を作ったりするわけですよ。我が社の置かれている状況って、ものすごい恵まれた環境だと思いますよ。もっと楽しみたいために、新しい事業をやったりとか」
「だけど、なかなか生まれない。なかなか生まれないんですよ。お金が無い時は、頭を使うし。経営で大事なことは。『やらないことを決める』ことなんです。結局、競争力だって『しぼる』ことなんです。やることを決める方が楽なんです。やらないことを決めることが大変なんです。みんな経営されているので皮膚感覚としてあると思うんですけど、最終的に社長がやらなきゃいけない仕事は、やらないことを決めることだと思うんです」
「お金からのプレッシャーがかかっているというのは、実は恵まれた環境だったんじゃないか。長期的というのと、事業が生み出される環境の関係性について、資金が潤沢にあるという状態は、長期的に何か担保されているように見えつつ、事業が生まれる環境としては、多分、すごく良くない気がする。だから、バランスをどういう風に考えられているのか、(会場席にいる)神永さん(住友精密工業前社長)とかに聞きたいんですね。僕も悩んでいるんです。どうやってあの時の緊張感を再現するんだろうと」
「今のチームでもお金を絞っていった方が先へ進むんです。夏休みの宿題みたいなもんですかね。もう先がないみたいな。人間ってそういうものなのかな、、。『長期的に』と言った時に、必ずしも潤沢な資金を用意するということでは多分ない。潤沢な資金を用意すれば長期的な事業に取り組めるかといえば、そうじゃない。でも実際に長期的に取り組んでいく時には資金が必要なんですよ。ジレンマじゃないけど、このあたりをどう考え扱うかですね」
「思うんですけど、日本人として生まれた時点で、もう大丈夫ですよ。死なないもん。僕がなんで起業したかというと、大学を卒業する時に分かったんですよ。どうしようかな、と思った時に、まず死なないことが分かったんです。餓死しない。餓死することがリスクじゃない、と。そう考えるとリスクはないんです。そんなにお金はいらないんじゃないかなって」
「クックパッドの経験からいうと、最初、お金がないからインターネット無料の時代に、値段付けてサービスを売ってたんですよ。あれはすごい良かった。お金がないなりに、小さい範囲でちゃんと利益が出るような形を、常に追求するべきなんです。利益っていいことなんです。価値が定量化されているので。それをしっかりと今の自分の規模、立場から一歩一歩、ちゃんと実証していくプロセスが世の中に価値を生み出していくと思うんです」
「あまり難しく考えずに、最初の資本は自分じゃないですか。日本にいれば、あと10年、数十年ぐらいは担保されている。自分を資本に結構できますよ。ちゃんとお客さんに価値を生み出して、利益を出す。そこへ一歩踏み出してから考える。多分、資本がいる時とか、スケールさせる時とかは結構限られていると思うんですね。資本でレバレッジ効かせようとなんか勘違いして、先に潤沢な資金を集めちゃうと、お金使うの大変ですからね」
「なんで資金が泳いでいるかというと、自分でお金が使えないんです。だから自分より上手にお金を使っている人を探しているんです。お金使って利益を生み出せない人が集まっちゃうと辛いですよね。答えになっているか分からないですけど、まず一歩じゃないですか。今の資本からちゃんと利益生む、価値をしっかり出すことが大事です」
青野「佐野さんの今のいい話の流れを断ち切らないようにします。その前に少しだけサイボウズの制度の話をしていいですか?僕たちは働き方をよくしたいな、と思っているんですが、サイボウズも最初は離職率がすごく高くて2005年に社長になったんですけど、当時28%もありました。疲弊した顔でみんなが働いている会社だったんですけど、ちょっと考え方を変えようと思って、残業しないでもよい制度を作ったりとか、在宅勤務ができるようにしたりとか、産休・育休で6年間とれるようにしたりとか、働く時間帯選べるとか、いろいろやっていくうちに、離職率が4%まで下がり、女性が定着するようになって、今は4割ぐらい女性です、BツーBのIT企業だと異例の高さだと思う。女性役員が2人ぐらい出てきたりとか」
「でも、お金ってほんとに面白いですよね。僕も2005年に社長になって、株価が低かったんですよ。それが我慢できなくて、なんとかしたいと思って、頑張ってIR活動して、買いませんか?と言ったら結構買ってくれるようになって。第2次ネットバブルでブォーと株価がうなぎ登りに上がって、半年で10倍以上ですかね。ピーク時の時価総額は今の10倍ぐらい。途中から訳が分からないんですよ。絶対にそんな価値がないのにどんどん上がっていくし。そしたら、堀江さんが逮捕されてバブルが終わり、そこから急落です」
「後から投資家に話を聞きに行ったらこんなこと言われたんです。『あの時、勧めてくれてありがとう。おかげて大もうけできた』と。それで『あれ?俺は何をやっていたんだろう』と思ったわけです。この人を儲けさすために、訪問して説明して。彼が売った時に買った人は大損しているわけですよ。それで一切IR活動を止めることにしました。それが楽しい経営者だったらそれでいいですけど、僕は楽しめなかったので。『サイボウズは売り上げ、利益を追求する会社じゃありません』と定義をして、毎年株主総会で言ってます。株主の前で、期待しないで下さいと。お金は怖いですよね。ほんとにやりたくない事をやらせてしまう魔力がある。そのようにとりつかれないように事業をしたいと思っています」
柳澤「ちょっと質問していいですか?それ、最初からなら設計できると思うんですけど、途中で変わったわけじゃないですか。できるものなか。社長が交代したから株主も納得したのか?」
青野「僕はどちらかと言えば、手のひらを変えましたので、1回、株主総会は荒れました。厳しい質問がや止むことなく続きました。お前の話で大損したとか。今の配当は電車賃も出ない、どうしてくれるんだとか。それはもうしょうがないですよね。ごめんさい、というだけですよね。利益を求める人がいること自体が悪いことではない。一緒の方向を見ていない人たちが、組んじゃったということですね。柳澤さんが株主に対して『仲間』だとおっしゃっているわけですけど、株主と一緒の方向を向いているとうまくいくと思う。お金がリターンだと考える人たちは、まずそこから我々とちょっとズレている」
山口「いいですね。白熱してますね。じゃ森川さん、お願いします」
森川「僕の会社はまだ始まって1カ月ほどなので、特に何の制度もないんですけど、個人的に考えていることを話すとしたら、元々いろんな仕組みというものは、自然が基軸になって進んできたものだと思うんです。資本主義も本質的には、人間というものは『足るを知る』ものだという概念があるからこそ、投資する仕組みができている。しかし、自然から人間が生まれて、人間からコンピューターが生まれて、コンピューターというものは、足るを知らない」
「今、大半の仕事をコンピューターがやっているので、こういうバランスを崩した状態になっているのかなと。僕がやろうと思っていることは、どこまで会社を自然に近づけるか、ということを考えてます。今、オフィスも一軒家でガラス張り。道を歩いている人は僕たちを見るし、僕たちも見る。いいサービスをしていれば、みんなニコニコしながら見るだろうし、悪いサービスしていたら嫌な顔をされるだろう。そういう接点がまず大事だということ」
「あと働いている人たちに何のルールもなくて。多分、自然に近いからこそ、人間らしく評価できるんじゃないですかね。それこそがまさにいい環境を作ることなんです。『自然よりも正しいと』と思ってしまうと人間は間違える。欧米的な感覚はそうなんですけど、アジア的な感覚はちょっと違って、自然の中に本質があるという概念。もしからしたら本当の意味で地球を救うとか、何かそういうエネルギーになるんじゃないかと。みんながハッピーになる仕組みをどういう風につくって、ゼロサムではなく付加価値を生み出すのか。そんなことを考えています」
※次回は6月4日に公開予定
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