中高生と企業が本気のモノづくり。大人顔負けの若いアイデアに刺激
モノコトイノベーション2016決勝大会、優勝は大型の水筒「ジャグ」
中学・高校生がチームで創造力を競う「モノコトイノベーション2016」(モノコト)の決勝大会が1日に開かれた。同イベントは中高生が8カ月かけてサポート企業と練り上げたプロダクトで競う。いずれも“子どものアイデア”と侮れないものばかり。若者の視点は企業への刺激になり、業務の視野を広げる契機にもなりそうだ。2回目の同大会だが、若者にモノづくりが根付いていくことを期待したい。
「優勝はチーム『DECO―BOCO(デコボコ)』です!」。日本科学未来館(東京都江東区)に司会者の声が響くと、会場に「わぁっ」と歓声が広がった。メンバーの須賀田香帆さんの目からは、大粒の涙がこぼれた。デコボコは学校も学年も違う3人。「参加しなければ出会えなかった」(須賀田さん)、「2人がいたから、ここに立てた」(中嶋香琳さん)と話す。
3人のアイデアは、運動部で使う大型の水筒「ジャグ」。かさばって重く、乾きにくくてカビが生えやすい。これを布製にし、洗って乾かしやすい「楽ジャグ」を提案した。
安価でオリジナルデザインも作れる。すぐに使えそうなプロトタイプでの実演や、シーン別に通常のジャグと楽ジャグを比べた短い動画を流すなど、プレゼンテーションも大人顔負け。審査員から「学生時代に欲しかった」との声も上がった。
3人の挑戦は8カ月間、ずっと順調だったわけではない。プロトタイプが発注先から届いたのは決勝大会のわずか2日前で「けんかもあった」(角原輝くん)。本気でぶつかり合い、役割の違う者同士でモノづくりに取り組んだ。
サポート企業の、クロステックスポーツ(東京都千代田区)ブランドマネジメント本部の太田義人ブランドマーケティング部長は「我々が気付かなかった視点に目を覚まされた」とし、「視点を変えれば、散歩もスポーツの入り口。経験をビジネスに生かしたい」と話す。
優勝した「楽ジャグ」のほかにも、若者ならではの視点や完成度の高い提案が多くあった。2位のGo dimension(ゴー・ディメンション)は「パーソナルコンピュータの再定義」というテーマに対し、画面もキーボードもなくした小さな箱形のコンピューター「ATOMOS」を提案。会場を沸かせた。
内蔵プロジェクターで、ノートなど手近なものに画面を投影する。例えばカフェでリポートを書く時、コーヒーを置く場所に困り、パソコンの上に置くこともある。ATOMOSはキーボードもテーブルなどに投写するため、パソコンを好きな位置に置ける。また、みんなで画面を見たい時は黒板などにも投影できる。
富士通デザイン(川崎市中原区)のサービス&プロダクトデザイン事業部の藤田博之部長は、「入力方法がスマホと同じ『フリック入力』でいいなど、私たちと違う視点で驚いた」と話す。
同社は前回大会に続き2回目の参加。「1回目に学生たちが予想以上に本気だったため、今回も参加を決めた」(藤田部長)という。
3位のpogi(ポギ)は、子どもの「考える力」を高めるには、家庭で親が子どもに向き合う姿勢が重要だと着目。出産予定の親向けに、仮想現実感(VR)デバイスを使った「考育」を提案した。
例えば、子どもが親に話を聞いてもらえず苦しかった体験をVRで追体験し、子どもにどう接するか考えてもらう。親子だけでなく、会社内や人種や宗教の違いにも通じる非常に深いテーマだ。
企業関係者は学生のアイデアに刺激を受け一様にすがすがしい表情を見せていた。後藤電子(山形県寒河江市)の三浦陽一管理部営業一課次長は「一緒にやると年齢を忘れた。長い会社員生活で初めての経験」と笑顔で語る。海外出張時もスカイプ会議などで頻繁にやりとりした。
また、「主催者の方たちの実践していた、学生のモチベーションを上げる方法や、考えの引き出し方が勉強になった」(三浦次長)。通常の業務は納期や目標に向けて取り組むが、若手研究者を盛り上げれば、違う仕事もできるのではないかと意気込む。
2回目の今大会では学生にテーマを出し、メンターとなるサポート企業が、前回の3社から10社に増加し、意欲も高かった。
ただ、日本全体を見ると規模はまだ小さく、始まったばかり。Curioschoolの染谷優作取締役は、「取り組みが広がれば、世界を変えられる」と熱く語る。
<モノコトイノベーションとは>
モノコトは中学生と高校生が、企業が出したテーマに対して、アイデアを出して創造力を競う。夏のアイデア予選で、3日間の合宿を実施。各企業が自社の課題を基にテーマを出し、学生は興味のあるテーマに集まり、チームを作ってアイデアを競う。
次に冬に京都府と東京都、山形県で地方大会を開き、1テーマ当たり1チームにまで絞る。そして4月1日の決勝大会までの期間、企業のサポートを受けながら、約8カ月をかけてプロダクトの段階までつくり上げる。テーマを出した企業がメンターとなり、学生らのモノづくりをサポートする。
2016年度大会は2回目で、38校・176人の学生が参加した。テーマを提出したサポート企業数は前回から7社増の10社となった。学習塾のCurioschool(東京都目黒区)と、製造業コンサルティングのO2(同港区)が主催した。>
主催者の一人であるCurioschool(キュリオスクール)社長の西山恵太氏に大会の狙いを聞いた。
―モノコトイノベーション(モノコト)のきっかけは。
「私自身、中高生の時からモノを作ることが好きでしたが、学生時代に評価されるのは勉強やスポーツだ。一方、社会人はアイデアや企画力を問われる。そこで、創造力を評価する場を作った。モノコトを通じ、『創る文化』をつくりたいと考えている」
―学生のモノづくりの意欲はどうですか。
「最初から興味が高い学生ばかりではない。工場見学や社会人メンターなどと関わり、意欲が高まった。モノコトでは、学生と企業との間のギャップを埋めるため、アイデアを形にするステップをモデル化した『デザイン思考』を取り入れている。どのステップの議論かはっきりさせると、スムーズに進む」
―参加する企業が増えてきました。
「企業の社会的責任(CSR)としては、やってほしくない。学生の視点には驚かされます。多くの企業に参加していただき、社員の成長につなげてほしい」
―今後の展望は。
「今は東京からの参加が多いですが、地方に財産があると考えている。東京の子は他者からどう評価されるか考えるが、地方の子は自分の軸を持って考える。お互い学べます。福岡や北海道など全国へ広げたい」
(文=梶原洵子)
「優勝はチーム『DECO―BOCO(デコボコ)』です!」。日本科学未来館(東京都江東区)に司会者の声が響くと、会場に「わぁっ」と歓声が広がった。メンバーの須賀田香帆さんの目からは、大粒の涙がこぼれた。デコボコは学校も学年も違う3人。「参加しなければ出会えなかった」(須賀田さん)、「2人がいたから、ここに立てた」(中嶋香琳さん)と話す。
3人のアイデアは、運動部で使う大型の水筒「ジャグ」。かさばって重く、乾きにくくてカビが生えやすい。これを布製にし、洗って乾かしやすい「楽ジャグ」を提案した。
安価でオリジナルデザインも作れる。すぐに使えそうなプロトタイプでの実演や、シーン別に通常のジャグと楽ジャグを比べた短い動画を流すなど、プレゼンテーションも大人顔負け。審査員から「学生時代に欲しかった」との声も上がった。
3人の挑戦は8カ月間、ずっと順調だったわけではない。プロトタイプが発注先から届いたのは決勝大会のわずか2日前で「けんかもあった」(角原輝くん)。本気でぶつかり合い、役割の違う者同士でモノづくりに取り組んだ。
サポート企業の、クロステックスポーツ(東京都千代田区)ブランドマネジメント本部の太田義人ブランドマーケティング部長は「我々が気付かなかった視点に目を覚まされた」とし、「視点を変えれば、散歩もスポーツの入り口。経験をビジネスに生かしたい」と話す。
優勝した「楽ジャグ」のほかにも、若者ならではの視点や完成度の高い提案が多くあった。2位のGo dimension(ゴー・ディメンション)は「パーソナルコンピュータの再定義」というテーマに対し、画面もキーボードもなくした小さな箱形のコンピューター「ATOMOS」を提案。会場を沸かせた。
内蔵プロジェクターで、ノートなど手近なものに画面を投影する。例えばカフェでリポートを書く時、コーヒーを置く場所に困り、パソコンの上に置くこともある。ATOMOSはキーボードもテーブルなどに投写するため、パソコンを好きな位置に置ける。また、みんなで画面を見たい時は黒板などにも投影できる。
富士通デザイン(川崎市中原区)のサービス&プロダクトデザイン事業部の藤田博之部長は、「入力方法がスマホと同じ『フリック入力』でいいなど、私たちと違う視点で驚いた」と話す。
同社は前回大会に続き2回目の参加。「1回目に学生たちが予想以上に本気だったため、今回も参加を決めた」(藤田部長)という。
3位のpogi(ポギ)は、子どもの「考える力」を高めるには、家庭で親が子どもに向き合う姿勢が重要だと着目。出産予定の親向けに、仮想現実感(VR)デバイスを使った「考育」を提案した。
例えば、子どもが親に話を聞いてもらえず苦しかった体験をVRで追体験し、子どもにどう接するか考えてもらう。親子だけでなく、会社内や人種や宗教の違いにも通じる非常に深いテーマだ。
若者と夢中に
企業関係者は学生のアイデアに刺激を受け一様にすがすがしい表情を見せていた。後藤電子(山形県寒河江市)の三浦陽一管理部営業一課次長は「一緒にやると年齢を忘れた。長い会社員生活で初めての経験」と笑顔で語る。海外出張時もスカイプ会議などで頻繁にやりとりした。
また、「主催者の方たちの実践していた、学生のモチベーションを上げる方法や、考えの引き出し方が勉強になった」(三浦次長)。通常の業務は納期や目標に向けて取り組むが、若手研究者を盛り上げれば、違う仕事もできるのではないかと意気込む。
2回目の今大会では学生にテーマを出し、メンターとなるサポート企業が、前回の3社から10社に増加し、意欲も高かった。
ただ、日本全体を見ると規模はまだ小さく、始まったばかり。Curioschoolの染谷優作取締役は、「取り組みが広がれば、世界を変えられる」と熱く語る。
モノコトは中学生と高校生が、企業が出したテーマに対して、アイデアを出して創造力を競う。夏のアイデア予選で、3日間の合宿を実施。各企業が自社の課題を基にテーマを出し、学生は興味のあるテーマに集まり、チームを作ってアイデアを競う。
次に冬に京都府と東京都、山形県で地方大会を開き、1テーマ当たり1チームにまで絞る。そして4月1日の決勝大会までの期間、企業のサポートを受けながら、約8カ月をかけてプロダクトの段階までつくり上げる。テーマを出した企業がメンターとなり、学生らのモノづくりをサポートする。
2016年度大会は2回目で、38校・176人の学生が参加した。テーマを提出したサポート企業数は前回から7社増の10社となった。学習塾のCurioschool(東京都目黒区)と、製造業コンサルティングのO2(同港区)が主催した。>
Curioschool西山恵太社長に聞く
主催者の一人であるCurioschool(キュリオスクール)社長の西山恵太氏に大会の狙いを聞いた。
―モノコトイノベーション(モノコト)のきっかけは。
「私自身、中高生の時からモノを作ることが好きでしたが、学生時代に評価されるのは勉強やスポーツだ。一方、社会人はアイデアや企画力を問われる。そこで、創造力を評価する場を作った。モノコトを通じ、『創る文化』をつくりたいと考えている」
―学生のモノづくりの意欲はどうですか。
「最初から興味が高い学生ばかりではない。工場見学や社会人メンターなどと関わり、意欲が高まった。モノコトでは、学生と企業との間のギャップを埋めるため、アイデアを形にするステップをモデル化した『デザイン思考』を取り入れている。どのステップの議論かはっきりさせると、スムーズに進む」
―参加する企業が増えてきました。
「企業の社会的責任(CSR)としては、やってほしくない。学生の視点には驚かされます。多くの企業に参加していただき、社員の成長につなげてほしい」
―今後の展望は。
「今は東京からの参加が多いですが、地方に財産があると考えている。東京の子は他者からどう評価されるか考えるが、地方の子は自分の軸を持って考える。お互い学べます。福岡や北海道など全国へ広げたい」
(文=梶原洵子)