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噂の富士通レタス工場へ潜入してみた!半導体生産からの転用は成功?

栽培には贅沢な空気清浄度の高いクリーンルームを備え、低カリウムに日持ちの良さがウリ
噂の富士通レタス工場へ潜入してみた!半導体生産からの転用は成功?

生産者の大半は半導体事業の出身者であり、品質管理はお手の物

 かつての半導体工場がレタスの量産工場として脚光を浴びている。数年前までは考えられなかったことだが、いまや「農業ICT(情報通信技術)」は日本政府の成長戦略にとっても欠かせないテーマ。その最先端に立つのが会津富士通セミコンダクターの植物工場「会津若松Akisaiやさい工場」(福島県会津若松市)だ。腎臓病患者でも安心して食べられる低カリウムのレタス「キレイヤサイ」を量産して、すでに1年半。1日3500株の生産能力に対して、稼働率は9割近くに達している。
 
 【7段積み栽培】
 数ある植物工場の中でも遊休の半導体工場を転用し、レタスの栽培拠点としたのは他に例がない。1400平方メートルがレタス栽培のスペース。旧半導体工場ならではの高い天井を生かし、7段積みの栽培棚を天井ぎりぎりの高さまで配置してレタスを量産している。

 3年間遊休状態だったとはいえ、レタス栽培には贅沢(ぜいたく)ともいえる空気清浄度の高いクリーンルームを持っている。また生産者の大半は半導体事業の出身者であり、品質管理はお手の物。「毎日同じループで流れるものをしっかりキャッチアップし、品質を良くする視点を持っている」(野牧宏治富士通ホーム&オフィスサービス先端農業事業部部長)のも強みだ。

 【雑菌抑える】
 クリーンルームはチリだけでなく雑菌も抑える。このためキレイヤサイは低カリウムに加え、日持ちがよい。袋詰めの状態で冷蔵庫に保存すればシャキシャキ感は2週間以上変わらない。実際には「1カ月半は見栄えも味も変わらない」と野牧氏は胸を張る。

 低カリウムレタスは東北や関東を中心に販売。透析患者向けに需要が見込めることから、医療施設内はもとより、旅館や大手スーパーなどでも扱うようになってきた。

 【大学と共同研究】
 楽天のネット販売では1袋当たり約40グラム入りの5袋セットが1680円(消費税込み)。通常のレタスよりは高めだが、栽培の段階でカリウムを抑える結果、苦みも減り、野菜嫌いの子どもからも「おいしい」と評判で、生野菜を控えている腎疾患の人たちから「生野菜をおいしく食べられる」と喜ばれているという。

 レタスは種を植えてから45日間で収穫できる。この間に、富士通が提供する「食・農クラウドAkisai(秋彩)」を活用して、生産性向上に力を注いでいる。通常、植物工場では成長過程に合わせてロット単位で栽培の棚を数回移動する。

 Akisaiを用いれば「どのロットをいつ誰がどう動かしたか」といった履歴を管理できる。タブレット端末(携帯型情報端末)で過去の栽培環境をいつでも確認することも可能。会津若松Akisaiやさい工場では日々の栽培環境を調整しながら、レタスの栽培に最適な条件を追求している。「鉄筋コンクリートの閉鎖空間内でAkisaiを使ったことはなく、実践の場としている」(野牧氏)という。

 会津若松Akisaiやさい工場では秋田県立大学や福島県立医科大学と低カリウム野菜に関する共同研究を推進。富士通グループ社員が講師となって、未来の農業について考える授業を小学校などで行っている。レタスの量産に加え、「産学官の多様な人材や技術が交流するオープンイノベーション拠点としての新たな役割」(同)がこれからのテーマとなっている。
日刊工業新聞2015年06月01日 モノづくり面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
富士通に限らず遊休工場を植物工場に転用するケースも多いが、ニッチにとどまらず、一定のスケールで儲かる事業にしてほしい。それには省エネによる電気代のコスト低減などが不可欠だろう。

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