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化学業界は残業の上限規制になぜ警戒感を抱くのか

エチレンプラント、定期修理期間に作業集中。設備保安を脅かす
化学業界は残業の上限規制になぜ警戒感を抱くのか

工場の競争力に直結する(出光興産・千葉工場)

 化学業界は政労使で検討の進む残業時間の上限規制に対して警戒感を強めている。石油化学コンビナートの中核をなすエチレンプラントは法定の定期修理期間に作業が集中し、その2―3カ月は政府の示す月平均60時間を超過する可能性が高い。定修期間を延長すれば機会損失が広がる。人手不足の深刻な工事業者の手当も難しくなり、最終的には設備保安が脅かされかねない。「働き方改革」は総論賛成ながら、特殊事情への理解を訴える。

 化学大手首脳は「定修期間を延ばしたりしたら競争力がそがれる。これは深刻な問題だ」と語気を強める。

 石化の最上流にあたるエチレンプラントは2年または4年に1回の定修を法律で義務づけられている。それに伴い、下流の誘導品プラントなども停止する。

 各所の従業員の残業時間は通常月20時間前後だが、準備を含めた定修の2―3カ月は月80時間を超えるケースが少なくないという。

 政労使は月平均60時間、年間720時間を原則とし、繁忙期に限って月100時間まで容認する方向で検討している。ただ、繁忙期の認定期間や特例を認める業種など詳細が不明で、化学業界は疑心暗鬼になっている。

 石油化学工業協会の志村勝也専務理事は「規制に幅があり、業界ごとに労使で話し合って決めるような柔軟性を持たせる形で落ち着いてほしい」と願う。

 定修は協力会社の作業員が延べ15万―16万人参加する。ピーク時で1日4000人が出入りする“大移動”となる。総合化学各社は2018年の定修まで工事の手当が済んでおり、工期が重ならないよう調整している。

 ただ、「真夏と真冬は皆やりたくないので春と秋に集中する」(志村専務理事)のが実情。定修期間の延長は言うほど簡単ではない。

 各社の業績への影響も大きく、1日で億円単位の損失が発生する。プラント再稼働を急ぎたくなるのも無理はない。この“定修文化”は産業界でも珍しく、他に石油精製など一部のみ。仲間の少なさも化学業界への理解が広がらない一因だ。

 「顧客は後になって気づく。定修が長くなって製品の供給量が減って初めて分かる」(同)と基幹産業の重要性は見過ごせない。
(文=鈴木岳志)
日刊工業新聞2017年3月13日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 政府は月内に残業時間の上限規制など働き方改革の計画をまとめる。年内にも労働基準法改正案を国会に提出して、19年度からの施行を目指す。  別の化学首脳は「上限規制を設けないと、守らない悪い会社も出てくる」と規制自体には理解を示す。ただ、安全を含めた化学産業の競争力を減退させるような規制は産業界全体にとって大きな打撃となる。 (日刊工業新聞第ニ産業部・鈴木岳志)

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