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姫路の中小企業に優秀な人材が定着するホスピタリティ力

経営者自ら内定者の家庭を訪問
姫路の中小企業に優秀な人材が定着するホスピタリティ力

「自分が呼んだのだから教えるのは当然」と梶原鉄工所の北川さん㊧。現場の若手同士が教え合う

 兵庫県姫路市の中小企業が若手人材の確保で成果を上げている。長引く人材不足に多くの企業が頭を抱えている中、仲間意識を高めたり、経営者自ら家庭を訪問したりと、中小企業ならではの小回りの良さで人材獲得や定着につなげている。3社の取り組みを追った。

盗んで覚えろ→社員が誘って指導


 「2014年以降、新卒と中途を合わせて8人を採用したが誰も辞めていない」と、梶原鉄工所(梶原敏樹社長)の大明賢取締役総務部長は胸を張る。同社は集塵機などを手がける産業用機器メーカー。製造現場では旋盤工や製缶工が働く。

 採用した8人のうち6人は中途採用で、6人は社員が誘った友人や兄弟だ。旋盤工の北川大貴(28)さんは工業高校時代のバイト先の先輩を、製缶工の滝井和樹(28)さんは工業高校の同級生と、双子の弟を連れてきた。北川さんも滝井さんも「信頼できる人間だから誘った」と話す。

 昔気質の職人が多かった10年前までは「技術は盗んで覚えろ」という雰囲気が当たり前で、若手もすぐに辞めていた。しかし「自分が呼んだのだから教えるのは当然。自分の技能も、教えられるレベルに上げないといけない」と北川さんが強調するように、今の現場では若手同士が教え合う。年功序列も見直した。「働きやすい職場だと思う。そうでなければ誰も誘わない」と滝井さんは話す。

退職者減のカギは人物重視


 人物重視の採用で退職者を減らしたのは、真空装置メーカーのアユミ工業(阿部英之社長)。面接時に「何のために働くのか」「自分の置かれた今の状況についてどう思っているのか」などを入社志望者に質問。「模範解答は不要で、面接官が話す言葉の意味が理解できているかを見ている」(小椋伸治事業管理室室長)という。

 仮に筆記試験の成績が良くなくても「素直な性格で、周囲に感謝する気持ちを持った人を二次面接に上げている」(同)。人物重視に変更後、退職者は激減したという。

 関西を中心にテニススクールを運営するノアインドアステージ(大西雅之社長)では新卒の内定者研修後、入社前の3月末までに大西社長自らが内定者の家庭を訪問する。内定者の親と話し、本人がどのような家庭に育ったのかを把握する。同時に会社の説明と、どのような点を評価し採用したのかを直接伝える。「社員が辞めようかと悩んだ時、親御さんが説いて踏みとどまったこともあった」と高橋努管理本部次長は話す。
(文=姫路支局長・丸山美和)
日刊工業新聞2017年3月7日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
売り手市場で人材確保が難しくなっている現在「どうしても○人確保しなければならない」という意識になりがちです。中小企業ならではの細やかさで、しっかり一人ひとりと向き合えたことが定着につながっているように思います。

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