「身の丈IoT」中小企業こそ先行して導入するメリットあり
最も困っている見える化、検知の自動化…。コストは10年前の数百分の一
あらゆる機器にセンサーを取り付けてネットワーク化するIoT(モノのインターネット)が中小企業の製造現場に広がりだした。廉価なセンサーを使って自作したシステムにより、工場全体の稼働状況を見える化するといった取り組みが相次ぐ。ドイツの産業政策「インダストリー4・0」が構想する新たな産業革命とまでは行かないが、事業規模の身の丈に合った投資で実現する小さな革命の波が訪れている。
経済産業省が昨秋公募し、2月下旬に発表した40件の中小企業のIoT事例。IBUKI(山形県河北町)や武州工業(東京都青梅市)などIoTの先行的取り組みで有名な企業に加え、既存設備にセンサーとマイコンを取り付け、漏水に関するデータが取得する仕組みを導入したみなと山口合同新聞社(山口県下関市)など、全国から新たな事例も多く発掘された。
「古い設備に付けることでデータが取得できるようになるという着眼点が素晴らしい。汎用センサーを利用するなどコストを抑制した事例が広がってほしい」と、同じ中小企業の立場で事例の選定に携わった錦正工業(栃木県那須塩原市)の永森久之社長は話す。
多くの中小企業経営者がIoTに関心を持っているものの、「IoTはわかりにくい」「投資費用がかかる」という2大阻害要因が普及を妨げてきた。
実際、関西のプレス加工業は、人工知能を含めたIoTサービス基盤の導入を検討したところ、見積もりだけで1000万円、導入するなら1億円以上と言われ断念した。
大がかりなシステムは初期費用が膨大な上、中小企業には過剰な機能も盛り込まれている場合が多い。かつての統合業務パッケージ(ERP)やコンピューター利用解析(CAE)の導入と同様、中小企業のIT投資の共通課題だ。
だが、安価なコンピューターや通信機器を活用する例が増えてきた。精密機械産業が集積する長野県岡谷町などで、2016年末に「10万円からのIoT」の活動が始まった。
東京工業大学の出口弘教授の支援の下、1万円以下の格安ボードコンピューター「ラズベリーパイ」をはじめとする廉価な機器を使う。工作機械の背面にあるリレーボードの状態をデジタル信号に変換し、工場内の機械の稼働状態をモニター1台で一元的に管理できるようになる。
活動には協和精工(長野県高森町)など中小製造業に加え、ロジカル・ワークス(同岡谷市)やインダストリーネットワーク(同)など、ソフトウエア関連の企業も参加。これらIT側の企業が参加することで、「地域にIoT導入を支援するシステムインテグレーターが育ってくる」(出口教授)。京都府などからの視察も相次ぐようになった。
安価にできるもう一つの理由が、企業自らがIoTを導入している点だ。システムインテグレーターに丸投げすると、試験導入でも50万円以上かかる場合もある。
最近では機械の異常を知らせるパトライトに光を感知するセンサーを直接取り付け、古い機械でも状況を一元管理できる手法もはやりつつある。
ただ、「身の丈IoT」に取り組む例が増えているが、全国各地に広がっているわけではない。そんな状況を変えるため、日本商工会議所は2月下旬、「IoT活用専門委員会」を立ち上げた。全国各地の会議所から優良事例を集め、横展開していく計画だ。
委員長を務める岩本敏男NTTデータ社長は、IoT活用について企業間で温度差がある現状を受け、「事例の共有などによって中小企業のIoT活用を底上げしたい」と意気込む。
また目下の課題として「事例の整理が必要だ」と話す。確かにIoTのイメージが不明瞭なまま、言葉だけ先行している面がある。
身の回りのあらゆる機器にセンサーが付き、ネットワーク化するIoTの対象は広い。自動運転システムや効率的なエネルギー運営を可能にする都市、個人のデータを生かしたヘルスケアなどを指すこともある。
製造現場のIoTに限っても、注文から生産、配送までの流れを一貫でデジタル管理するなどビジネス変革に生かすIoTもあれば、スマートフォンによる撮影で機械の操作方法のマニュアルを作成するといった身の丈IoTもある。
こうしたさまざまな次元のIoTに対し、中小企業のIT化に詳しいクラウドサービス推進機構の松島桂樹理事長は、紙や口答でのやりとりをITに置き換えるという初歩段階から始め、最終的には集めたデータを顧客への品質保証に生かすなど自社の販売力向上に結びつけるレベルまで、「成熟度に即した取り組み」を推奨する。
また工場間の連携など高度なIoTの実現については、長期の経営改革の下で進めるのが望ましいことも明らかになりつつある。
IoTなどを活用して「町工場の連携受注プロジェクト」に取り組んでいる今野製作所(東京都足立区)。連携受注に欠かせないのが、受発注や設計、工程管理、会計など各種のソフトウエアを連動する仕組みだ。
もともと7―8年ほど前に、特注品の対応で業務に忙殺される日々からの脱却するため、まず全社的な業務の流れを把握したところから始まり、工程間の連動にこぎ着けた。今野浩好社長は、「3―5年後を見据えた取り組みとなる」と、短期の成果を求めてはならないと強調する。
(文=平岡乾)
『スマートファクトリーJapan』
製造現場や生産管理の先進化や効率化を目指す「スマートファクトリーJapan 2017」を2017年6月7日(水)〜9日(金)の日程で、東京ビッグサイトにて開催。本展示会は、製造工場においてスマートファクトリーを実現するうえで、欠かすことのできない「IoT」や「インダストリー4.0」を搭載した生産管理・システムをはじめ、製造設備・装置、その他、生産工場に関する技術・製品を展示公開いたします。
また、昨年まで「クラウドコミュニティ」という名称でセミナーセッションを中心に企画展を実施してまいりましたが、時代の潮流に合わせてID獲得型フォーラムとして「IoT・AI Innovation Forum」を同時開催いたします。
【出展者募集中】>
全国から新たな事例を多く発掘
経済産業省が昨秋公募し、2月下旬に発表した40件の中小企業のIoT事例。IBUKI(山形県河北町)や武州工業(東京都青梅市)などIoTの先行的取り組みで有名な企業に加え、既存設備にセンサーとマイコンを取り付け、漏水に関するデータが取得する仕組みを導入したみなと山口合同新聞社(山口県下関市)など、全国から新たな事例も多く発掘された。
「古い設備に付けることでデータが取得できるようになるという着眼点が素晴らしい。汎用センサーを利用するなどコストを抑制した事例が広がってほしい」と、同じ中小企業の立場で事例の選定に携わった錦正工業(栃木県那須塩原市)の永森久之社長は話す。
多くの中小企業経営者がIoTに関心を持っているものの、「IoTはわかりにくい」「投資費用がかかる」という2大阻害要因が普及を妨げてきた。
1億円以上と言われ断念
実際、関西のプレス加工業は、人工知能を含めたIoTサービス基盤の導入を検討したところ、見積もりだけで1000万円、導入するなら1億円以上と言われ断念した。
大がかりなシステムは初期費用が膨大な上、中小企業には過剰な機能も盛り込まれている場合が多い。かつての統合業務パッケージ(ERP)やコンピューター利用解析(CAE)の導入と同様、中小企業のIT投資の共通課題だ。
だが、安価なコンピューターや通信機器を活用する例が増えてきた。精密機械産業が集積する長野県岡谷町などで、2016年末に「10万円からのIoT」の活動が始まった。
1万円以下で機械の稼働を一元管理
東京工業大学の出口弘教授の支援の下、1万円以下の格安ボードコンピューター「ラズベリーパイ」をはじめとする廉価な機器を使う。工作機械の背面にあるリレーボードの状態をデジタル信号に変換し、工場内の機械の稼働状態をモニター1台で一元的に管理できるようになる。
活動には協和精工(長野県高森町)など中小製造業に加え、ロジカル・ワークス(同岡谷市)やインダストリーネットワーク(同)など、ソフトウエア関連の企業も参加。これらIT側の企業が参加することで、「地域にIoT導入を支援するシステムインテグレーターが育ってくる」(出口教授)。京都府などからの視察も相次ぐようになった。
安価にできるもう一つの理由が、企業自らがIoTを導入している点だ。システムインテグレーターに丸投げすると、試験導入でも50万円以上かかる場合もある。
最近では機械の異常を知らせるパトライトに光を感知するセンサーを直接取り付け、古い機械でも状況を一元管理できる手法もはやりつつある。
普及には「事例の整理が必要だ」
ただ、「身の丈IoT」に取り組む例が増えているが、全国各地に広がっているわけではない。そんな状況を変えるため、日本商工会議所は2月下旬、「IoT活用専門委員会」を立ち上げた。全国各地の会議所から優良事例を集め、横展開していく計画だ。
委員長を務める岩本敏男NTTデータ社長は、IoT活用について企業間で温度差がある現状を受け、「事例の共有などによって中小企業のIoT活用を底上げしたい」と意気込む。
また目下の課題として「事例の整理が必要だ」と話す。確かにIoTのイメージが不明瞭なまま、言葉だけ先行している面がある。
身の回りのあらゆる機器にセンサーが付き、ネットワーク化するIoTの対象は広い。自動運転システムや効率的なエネルギー運営を可能にする都市、個人のデータを生かしたヘルスケアなどを指すこともある。
製造現場のIoTに限っても、注文から生産、配送までの流れを一貫でデジタル管理するなどビジネス変革に生かすIoTもあれば、スマートフォンによる撮影で機械の操作方法のマニュアルを作成するといった身の丈IoTもある。
ITに置き換える初歩から始めよう
こうしたさまざまな次元のIoTに対し、中小企業のIT化に詳しいクラウドサービス推進機構の松島桂樹理事長は、紙や口答でのやりとりをITに置き換えるという初歩段階から始め、最終的には集めたデータを顧客への品質保証に生かすなど自社の販売力向上に結びつけるレベルまで、「成熟度に即した取り組み」を推奨する。
また工場間の連携など高度なIoTの実現については、長期の経営改革の下で進めるのが望ましいことも明らかになりつつある。
IoTなどを活用して「町工場の連携受注プロジェクト」に取り組んでいる今野製作所(東京都足立区)。連携受注に欠かせないのが、受発注や設計、工程管理、会計など各種のソフトウエアを連動する仕組みだ。
もともと7―8年ほど前に、特注品の対応で業務に忙殺される日々からの脱却するため、まず全社的な業務の流れを把握したところから始まり、工程間の連動にこぎ着けた。今野浩好社長は、「3―5年後を見据えた取り組みとなる」と、短期の成果を求めてはならないと強調する。
(文=平岡乾)
製造現場や生産管理の先進化や効率化を目指す「スマートファクトリーJapan 2017」を2017年6月7日(水)〜9日(金)の日程で、東京ビッグサイトにて開催。本展示会は、製造工場においてスマートファクトリーを実現するうえで、欠かすことのできない「IoT」や「インダストリー4.0」を搭載した生産管理・システムをはじめ、製造設備・装置、その他、生産工場に関する技術・製品を展示公開いたします。
また、昨年まで「クラウドコミュニティ」という名称でセミナーセッションを中心に企画展を実施してまいりましたが、時代の潮流に合わせてID獲得型フォーラムとして「IoT・AI Innovation Forum」を同時開催いたします。
【出展者募集中】>
日刊工業新聞2017年3月6日