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医療施設の気流制御装置が注目され始めたワケ

空調設備工事各社で開発の動き広まる
医療施設の気流制御装置が注目され始めたワケ

ダイダンが開発した半開放型の気流制御ブース(イメージ)

 空調設備工事各社が、医療施設向けの気流制御装置を開発する動きが広がっている。再生医療分野では、ダイダンが細胞培養向け作業設備の導入費用を低減できる半開放型の気流制御ブースを開発。三機工業は細胞培養の作業台向けの気流改善装置を開発した。また、新菱冷熱工業(東京都新宿区)はホルムアルデヒドを効率回収して安全な作業環境を実現する空調システムの提供を進めている。業界各社の技術開発競争が、先進医療の発展やコスト削減に貢献していきそうだ。

異物侵入防ぐ


 ダイダンが開発した再生医療向けの半開放型ブースは、内部を陽圧にすることでブース外への一方向の気流を形成し、異物の内部侵入を防ぐ。従来の密閉式個室に比べ、導入コストを最大40%削減できる。川崎市の「ライフイノベーションセンター」に納入し、4月から大学やベンチャー企業向けのオープンラボで提供される。

 ただ、密閉式の個室ではないことが逆に、細胞の取り違えなど新たな問題を発生させる懸念もある。そのため「オープンラボで課題を抽出し検証する」(中村真技術研究所長)ことで病院などへの本格提供につなげていく考えだ。

汚染リスク減少


 三機工業は、細胞培養の作業台の上部に取り付けられる気流改善装置を開発。局所的に室内空間を清浄化することで、床からの巻き上げ気流による汚染リスクの減少や、室内風量の20%削減を可能にする。現在、再生医療関連の企業2社に納入して実証試験を行っており、医療機関への販売を目指している。

 また、発がん性リスクがあり管理濃度などが規制されているホルムアルデヒドへの対応でも、気流制御技術の活用が進んでいる。

 新菱冷熱工業は、ホルマリンを使う臓器固定作業などで発生するホルムアルデヒド対策の空調装置を開発。作業台上部からU字型に気流を発生させてホルムアルデヒドを効率回収し、薬液への吸着反応で除去する仕組みだ。

 病院などに対して回収・除去装置合わせ3年程度で30台以上提供した。だが「病院は設置スペースなどの制約が大きい」(技術統括本部)ため、さらなる導入拡大にはハード面での課題もある。

遺伝子組み換え実験向け


 大気社は遺伝子組み換え実験施設など向けに、室内設置や運搬もできるコンパクトな除染装置を開発した。従来、除染に使用されていたホルムアルデヒドの代わりに過酸化水素を使う装置で、武田薬品工業と共同開発した固定型に改良を加えた。2016年に発売し、すでに数台受注しているという。

 気流制御技術は、作業スペースの仕切りを不要にして設備コストの低減に寄与するなど、活用の幅に広がりをみせている。先進医療や業務環境を支えるインフラとして、医療業界を巻き込んでのさらなる技術開発が期待される。
(文=田中明夫)
日刊工業新聞2017年2月28日
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
細胞培養加工設備などは高い清浄度を保つために、空気の流れの確保などが重要になる。14年に施行した「再生医療等安全性確保法」でも構造設置基準が適合しているかの許可や届け出を義務づけている。空調各社の技術がコスト削減にも寄与する。

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