カメラ以上に苦境の半導体装置。ニコン復活の切り札はあるか
そうは言ってもニコンの強みは先端技術
カメラ業界2位のニコンが、復権に向けて身を切る姿勢で挑んでいる。1000人超の人員削減に続き、ユーザーの期待が大きかった高級コンパクトカメラの発売を断念した。足元の業績は堅調だが、主に薄型ディスプレー(FPD)露光装置に支えられたもので、数年先は心もとない。売上高の大半を占めるカメラ事業の立て直しと新事業の育成が急務だ。名門復権のシナリオを探る。
現在、ニコンの利益を支えているのは、精機事業の中のFPD露光装置だ。今後も、韓国で有機エレクトロ・ルミネッセンス(OLED)パネル生産ラインの更新投資や、中国などで大型パネルへの投資が見込まれる。「大型化対応で利益率が下がる可能性もあるが、2―3年は全社を支えられる」(国内証券シニアアナリスト)と見られる。
ニコンは、同装置に複数のレンズを使う「マルチレンズシステム」を採用している。各レンズを個別に細かく制御して高精細化に対応でき、レンズを追加してパネルの大型化に対応できる。10世代対応の露光装置はニコンが唯一、生産ラインへの納入実績がある。今後、高精細化や大型化が進めば優位になる。
一方、赤字に苦しむ半導体露光装置は、リストラで18年3月期に黒字転換できる公算が大きくなった。配置転換を含めて人員を適正化し、棚卸し資産の廃棄などを行った。事業をスリム化し、最先端の液浸タイプのフッ化アルゴン(ArF)露光装置開発を大幅に縮小する。
現状、ニコンは先端技術では蘭ASMLに完敗し、フッ化クリプトン(KrF)など旧式装置では低価格と短納期が強みのキヤノンに勝てない。「中途半端な立場」(業界関係者)だ。
ただ先端領域では技術が高度化し、製造装置の役割が増す中で特定メーカーへの集中には懸念がある。顧客の半導体メーカーはセカンドベンダーを求めているとの指摘もある。野村証券の和田木哲哉マネージング・ディレクターは、資金不足を補うために「外部支援も含め、研究開発費を負担できるスキームを構築するべきではないか」と提案する。
ニコンは、IoT(モノのインターネット)により増加する少量多品種生産に注目する。KrFやi線、乾式のArFといった装置も扱い、カスタマイズの実績もある。コストをかけず、少量多品種対応もできると見る。
FPD装置の次は、何で稼ぐのか。芽は少し出はじめた。非接触の3次元(3D)計測システムや工業用コンピューター断層撮影装置(CT)、50メートルの距離を誤差0・5ミリメートルで測定する大規模空間非接触測定機を3本柱として、自動車や航空機産業向けに売り込む。
工業用CT「XT H 450」は、450キロボルトの高電圧をX線管にかけて透過力を高め、最小80マイクロメートルのフォーカススポットで解像力を高めた。鋳物の小さい鬆(す)も見つけられる。国内外の車大手で評価が進む。
メディカル分野は先進医療企業と相次ぎ手を結ぶ。機械学習を使って網膜の画像を診断する技術の開発では、米アルファベット傘下のベリリー・ライフサイエンシズと提携した。再生医療ではヘリオスと提携した。また、眼科機器大手の英オプトスを買収しており、光学技術などとの相乗効果を狙う。
ニコンに必要とされるのは素早い経営判断だ。16年4―12月期の決算説明会で、牛田一雄社長は、「ニコンの体内時計は、環境変化のスピードに追いついているとは言い難い」と語った。
将来見通しの甘さや情報共有の遅れもあったという。構造改革発表から3カ月の間にも環境は変化し、17年3月期決算予想を下方修正した。「追加施策は必須だ」と話す。
経営のスピードアップに向けて、同社は株主資本利益率(ROE)と投下資本利益率(ROIC)を導入する。両指標によって、どのくらいの資金で利益を生んだか、見える化できる。
今年、ニコンは創立100周年を迎える。26日まで横浜市内で開かれた国内最大のカメラ展示会「CP+2017」のニコンブースには新製品がなく寂しかったが、一眼レフカメラなどの100周年記念モデルの参考展示には多くの人が集まっていた。この期待に応えられる体制づくりが待たれる。
現在、ニコンの利益を支えているのは、精機事業の中のFPD露光装置だ。今後も、韓国で有機エレクトロ・ルミネッセンス(OLED)パネル生産ラインの更新投資や、中国などで大型パネルへの投資が見込まれる。「大型化対応で利益率が下がる可能性もあるが、2―3年は全社を支えられる」(国内証券シニアアナリスト)と見られる。
ニコンは、同装置に複数のレンズを使う「マルチレンズシステム」を採用している。各レンズを個別に細かく制御して高精細化に対応でき、レンズを追加してパネルの大型化に対応できる。10世代対応の露光装置はニコンが唯一、生産ラインへの納入実績がある。今後、高精細化や大型化が進めば優位になる。
ASMLに完敗
一方、赤字に苦しむ半導体露光装置は、リストラで18年3月期に黒字転換できる公算が大きくなった。配置転換を含めて人員を適正化し、棚卸し資産の廃棄などを行った。事業をスリム化し、最先端の液浸タイプのフッ化アルゴン(ArF)露光装置開発を大幅に縮小する。
現状、ニコンは先端技術では蘭ASMLに完敗し、フッ化クリプトン(KrF)など旧式装置では低価格と短納期が強みのキヤノンに勝てない。「中途半端な立場」(業界関係者)だ。
ただ先端領域では技術が高度化し、製造装置の役割が増す中で特定メーカーへの集中には懸念がある。顧客の半導体メーカーはセカンドベンダーを求めているとの指摘もある。野村証券の和田木哲哉マネージング・ディレクターは、資金不足を補うために「外部支援も含め、研究開発費を負担できるスキームを構築するべきではないか」と提案する。
ニコンは、IoT(モノのインターネット)により増加する少量多品種生産に注目する。KrFやi線、乾式のArFといった装置も扱い、カスタマイズの実績もある。コストをかけず、少量多品種対応もできると見る。
自動車向けCTや医療機器に可能性
FPD装置の次は、何で稼ぐのか。芽は少し出はじめた。非接触の3次元(3D)計測システムや工業用コンピューター断層撮影装置(CT)、50メートルの距離を誤差0・5ミリメートルで測定する大規模空間非接触測定機を3本柱として、自動車や航空機産業向けに売り込む。
工業用CT「XT H 450」は、450キロボルトの高電圧をX線管にかけて透過力を高め、最小80マイクロメートルのフォーカススポットで解像力を高めた。鋳物の小さい鬆(す)も見つけられる。国内外の車大手で評価が進む。
メディカル分野は先進医療企業と相次ぎ手を結ぶ。機械学習を使って網膜の画像を診断する技術の開発では、米アルファベット傘下のベリリー・ライフサイエンシズと提携した。再生医療ではヘリオスと提携した。また、眼科機器大手の英オプトスを買収しており、光学技術などとの相乗効果を狙う。
ニコンに必要とされるのは素早い経営判断だ。16年4―12月期の決算説明会で、牛田一雄社長は、「ニコンの体内時計は、環境変化のスピードに追いついているとは言い難い」と語った。
将来見通しの甘さや情報共有の遅れもあったという。構造改革発表から3カ月の間にも環境は変化し、17年3月期決算予想を下方修正した。「追加施策は必須だ」と話す。
経営のスピードアップに向けて、同社は株主資本利益率(ROE)と投下資本利益率(ROIC)を導入する。両指標によって、どのくらいの資金で利益を生んだか、見える化できる。
今年、ニコンは創立100周年を迎える。26日まで横浜市内で開かれた国内最大のカメラ展示会「CP+2017」のニコンブースには新製品がなく寂しかったが、一眼レフカメラなどの100周年記念モデルの参考展示には多くの人が集まっていた。この期待に応えられる体制づくりが待たれる。
日刊工業新聞2017年2月27日「深層断面」から抜粋