なぜ左官屋で若者と女性が活躍できるのか。話題の「モデリング」とは?
<情報工場「読学」のススメ#25>わずか1カ月で基本技術を身につけさせる
**大河「真田丸」の題字は左官職人が作った!
「左官」という仕事に、どんなイメージをお持ちだろうか? 語弊はあるが「ひたすら壁に泥を塗っているような退屈なガテン系仕事」などと思っている人も少なくないだろう。「男くさい3K仕事」というのが一般の認識であることは否定できまい。
しかし、左官は決して「退屈な仕事」などではない。人気を博した2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」の冒頭に大きく映し出される題字を覚えているだろうか? 「真田丸」の三文字が、土のような材質の上に、太く、力強く刻まれている。これを作成したのは、実は左官職人なのだ。
「真田丸」の題字を作成したのは、左官技能士の挾土(はさど)秀平さん。他の作品に首相官邸や「ザ・ペニンシュラ東京」の壁、2008年の洞爺湖サミットで使われた「土の円卓」「土の座卓」などがある。挾土さんの作品でなくても、ちょっとした高級ホテルのロビー、レストランなどの装飾壁を見れば、一流の左官職人の仕事の一端に触れられるだろう。
ヒルトンホテルのレストランフロア、東京スカイツリーの根元にある「東京ソラマチ」の店舗、「Soup Stock Tokyo」などの内装を手がけたのが「原田左官工業所」(以下、原田左官)。主に店舗の内外装の左官工事を請け負う会社だ。本書『新たな“プロ”の育て方』(クロスメディア・マーケティング)の著者・原田宗亮さんは同社の3代目社長。同社のユニークな人材(職人)育成手法や、経営・ビジネス手法について詳しく語っている。
現状、左官の現場の大半は「野丁場(のちょうば)」である。ビルやマンション、公共施設など大手ゼネコンが手がける建物の外壁や内装だ。それに加え「町場(まちば)」という個人の住宅の工事もある。原田左官が得意とするのは「店舗」で、このどちらでもない。同社の仕事は、店舗が8割、個人宅が2割だそうだ。
先に挙げたホテルやレストランなどの例からもわかるように、店舗の内外壁は凝ったものが多い。個人宅の場合でも、施主にこだわりがあるケースがある。そのため原田左官の仕事は、ある程度の芸術的な「感性」が求められることがよくあるという。
左官に限らないが、職人の仕事には「感性」と「技術」が車の両輪のように要求される。このうち感性は、人に教えられて身につけられるものではないだろう。生まれつきのものもあるだろうし、仕事や仕事以外での経験で培われるもの大きいだろう。
だが、技術は違う。もちろん長い時間をかけて磨かれていくものではあるが、ある程度のところまでの基礎は短期間でも身につけられることが多い。
原田左官では、新人の職人に対し「モデリング」という方法で左官の基本技術を教えている。これは独自の4年間の教育訓練システムの一環として、左官業者8社合同で行われているものだ。
モデリングは、名人と言われる一流職人の技を「見て覚える」ための方法だ。一流職人が鏝(こて)を使う様子をビデオに撮影し、新人はその動きを見て真似をする。そして新人の動きも撮影し、両者の違いをiPadやパソコンを使って解析。新人はそれに基づいて自分の動きを修正していく。この繰り返しで「塗る」基本技術は1カ月でマスターできるのだという。
原田左官は、「国内唯一の提案型左官」を自称している。8人の女性職人を含む多様なプロフェッショナルが在籍しており、施主や設計士の指示に単に従うのではなく、その要望を踏まえてデザインや材質などの「提案」を行うのが同社のスタイルだ。
より良い提案をするには、プロとしての感性が必要とされる。だとすれば、両輪のもう一方である技術は、できるだけ効率的に短期間で身につけた方がいいのだろう。その分、感性を磨くことに注力できるからだ。モデリングは原田左官にはうってつけの、合理的な人材育成システムといえる。
<次ページ:一流のシェフになるため、レシピを破り捨てる>
「左官」という仕事に、どんなイメージをお持ちだろうか? 語弊はあるが「ひたすら壁に泥を塗っているような退屈なガテン系仕事」などと思っている人も少なくないだろう。「男くさい3K仕事」というのが一般の認識であることは否定できまい。
しかし、左官は決して「退屈な仕事」などではない。人気を博した2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」の冒頭に大きく映し出される題字を覚えているだろうか? 「真田丸」の三文字が、土のような材質の上に、太く、力強く刻まれている。これを作成したのは、実は左官職人なのだ。
「真田丸」の題字を作成したのは、左官技能士の挾土(はさど)秀平さん。他の作品に首相官邸や「ザ・ペニンシュラ東京」の壁、2008年の洞爺湖サミットで使われた「土の円卓」「土の座卓」などがある。挾土さんの作品でなくても、ちょっとした高級ホテルのロビー、レストランなどの装飾壁を見れば、一流の左官職人の仕事の一端に触れられるだろう。
ヒルトンホテルのレストランフロア、東京スカイツリーの根元にある「東京ソラマチ」の店舗、「Soup Stock Tokyo」などの内装を手がけたのが「原田左官工業所」(以下、原田左官)。主に店舗の内外装の左官工事を請け負う会社だ。本書『新たな“プロ”の育て方』(クロスメディア・マーケティング)の著者・原田宗亮さんは同社の3代目社長。同社のユニークな人材(職人)育成手法や、経営・ビジネス手法について詳しく語っている。
プロの「感性」磨くため効率的に「技術」を学ぶ
現状、左官の現場の大半は「野丁場(のちょうば)」である。ビルやマンション、公共施設など大手ゼネコンが手がける建物の外壁や内装だ。それに加え「町場(まちば)」という個人の住宅の工事もある。原田左官が得意とするのは「店舗」で、このどちらでもない。同社の仕事は、店舗が8割、個人宅が2割だそうだ。
先に挙げたホテルやレストランなどの例からもわかるように、店舗の内外壁は凝ったものが多い。個人宅の場合でも、施主にこだわりがあるケースがある。そのため原田左官の仕事は、ある程度の芸術的な「感性」が求められることがよくあるという。
左官に限らないが、職人の仕事には「感性」と「技術」が車の両輪のように要求される。このうち感性は、人に教えられて身につけられるものではないだろう。生まれつきのものもあるだろうし、仕事や仕事以外での経験で培われるもの大きいだろう。
だが、技術は違う。もちろん長い時間をかけて磨かれていくものではあるが、ある程度のところまでの基礎は短期間でも身につけられることが多い。
原田左官では、新人の職人に対し「モデリング」という方法で左官の基本技術を教えている。これは独自の4年間の教育訓練システムの一環として、左官業者8社合同で行われているものだ。
モデリングは、名人と言われる一流職人の技を「見て覚える」ための方法だ。一流職人が鏝(こて)を使う様子をビデオに撮影し、新人はその動きを見て真似をする。そして新人の動きも撮影し、両者の違いをiPadやパソコンを使って解析。新人はそれに基づいて自分の動きを修正していく。この繰り返しで「塗る」基本技術は1カ月でマスターできるのだという。
原田左官は、「国内唯一の提案型左官」を自称している。8人の女性職人を含む多様なプロフェッショナルが在籍しており、施主や設計士の指示に単に従うのではなく、その要望を踏まえてデザインや材質などの「提案」を行うのが同社のスタイルだ。
より良い提案をするには、プロとしての感性が必要とされる。だとすれば、両輪のもう一方である技術は、できるだけ効率的に短期間で身につけた方がいいのだろう。その分、感性を磨くことに注力できるからだ。モデリングは原田左官にはうってつけの、合理的な人材育成システムといえる。
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