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チップにされていたシラカンバに脚光。「美しく重厚な音」のギターに

国産材ギターを作った理由とは
 “冬の北海道”というと、銀世界の中にシラカンバ(シラカバ)が立ち並ぶ景色を想像する人も多いだろう。日本の広葉樹林の4分の1を抱える北海道は、その中でもシラカンバ、ダケカンバなどの「カンバ類」が多いことが特徴だ。しかし幹が太く育たないものが多いため加工用途が限られ、多くはチップにされて紙パルプの材料となる。
 このシラカンバに注目し、ソリッドギターを製作したのが京都大学大学院農学研究科講師の村田功二氏および同研究科の前川遥樹氏だ。

ギターに用いられる木材が減少


 現在ギターに使用される木材は数が減少し、取引困難になっているものも多い。例えばローズウッドはワシントン条約の改正により2017年1月から輸出許可書が必要となっている。これらの影響を受けて、他の木材での代替を検討する動きが増えてきている。

 村田氏らは北海道立総合研究機構森林研究本部林産試験場の協力を受け、三井物産の社有林より伐採したシラカンバとダケカンバの木材を使用した。カンバ類を選んだ理由として前川氏は「北欧の楽器メーカーがカバの木を積極的に使用しており、それに類似するものとして国内のカンバ類に着目した」と話す。
 音響特性を調べ、ソリッドギターに多く使われるハードメイプルやマホガニーと比較した。するとどちらもハードメイプルに近い特性が現れた。そこでメイプル材を使用している既成モデルに近い形でカンバギターを製作。ボディに木目が特徴的なシラカンバを用い、ネックと指板には堅いダケカンバを用いた。メイプル材を用いたギターよりも重量が大きくなった分、重厚感のある音が楽しめるギターが完成した。

 国産材のギターを取り扱うギターショップ「LAST GUITAR」代表の小山晃弘氏は、カンバギターを試奏し、「予想以上に良い。音はしっかりとしていて厚みもあり、ボディを通して体で感じることができる。市場でも通用すると思う。ネックや指板もしっかりとして、美しい杢が魅力的である」と評した。
 カンバギターの商品化は未定だというが、「ぜひ商品化してはどうか」という声が寄せられた。

写真左より林産試験場の秋津氏、京都大学大学院の村田氏、同前川氏、三井物産の近藤氏


イメージアップの一助に


 林産試験場性能部研究主幹の秋津裕志氏は「シラカンバは60年で芯腐れが生じてくる。伐採する必要があるが、用途が少なく安いため渋られる例も多い」と話す。付加価値の高い用途の拡大を模索している中で、今回のギターの話が持ち込まれた。「シラカンバやダケカンバのイメージアップになり、家具などの用途が増えればと期待している」(秋津氏)。

 三井物産は国土の0.1%にあたる44000ヘクタールの社有林を持つ。そのうち、約80%は北海道だ。最近では間伐材を使用したバイオマス発電向けの用途が増えてきており、出資する苫小牧バイオマス発電では3月末までに営業運転を開始する予定だ。「国産材を使うサイクルを広げるのが三井物産の使命。用途拡大に努めていきたい」(同社環境・社会貢献部の近藤大介次長)。
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昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
バイオリンやクラシックギターでは代替木材の研究が進んでいますが、エレキギターなどのソリッドギターでは研究が始まったばかり。白っぽく木目が綺麗な、少し女性的にも感じられるギターですが、鳴らしてみると重厚感のある音のギャップがおもしろいです。

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