「短命県」返上へ、地域との連携を強める弘前大が示す可能性
『地元で必要とされている』という使命感を醸成。旧帝大とは別次元の価値に
地元と連携した大学の地域貢献活動が進んでいるが、大学関係者の間には「全国的に注目を集める研究や教育の活動をしたい」という理想も、依然として根強く残っている。これらの両立はどのような形なら可能なのか。成功事例から大学の“オンリーワン”を考えたい。
科学技術を核に社会を変えることを正面から掲げる文部科学省の大型事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」。2016年の中間評価が好成績で注目されるのが弘前大学だ。
短寿命県の悪評を返上すべく、同大は青森県、弘前市などと同市内の住民の生活習慣や600項目の血液生化学データを集める健康診断を十数年間、続けてきた。
大病院における患者データと違い、健康人延べ2万人のビッグデータと言える。これを自社の健康ビジネスに活用したい企業など50機関ほどが、弘前大のCOIに参加している。
企業の独自データをCOIのビッグデータと組み合わせることで、「認知症と握力に相関がある」など予想外のかかわりが見つかっている。
また、COIの場を利用して開発製品の大規模実証試験ができるのも魅力だ。ベルト型内臓脂肪計を開発した花王、唾液検査による歯周病把握に取り組むライオンなどが代表例。さらにショッピングセンターでのウォーキングイベントと関連づけるイオンや、健康料理レシピのコンテストを手がける楽天など、業種の幅は広い。
この健診データベースについて、同大では医学部を中心に総力を挙げて取り組んできた。住民100人に対し、教授や研究者、事務職員、医学生などスタッフ300人が対応。高齢者対応で早朝6時にスタートし、15時までの検査が連日続くという。
これを自治体とともに継続できる結束力が、地方大学の強みでもある。世界最先端の研究発表を重視する旧帝大など研究型大学とは、別次元の価値を地域社会に示している。
―文部科学省の大型産学連携事業「センター・オブ・イノベーション(COI)」プログラムでの弘前大拠点には約50機関が参加。東京のシンポジウムには約600人が集まりました。
「強みは、県とともに約600項目の健康診断データを10年以上、集めてきた住民健診だ。目標も短命県返上と明確だ。参加企業はそれぞれの健康増進の製品や活動の効果を実証し、青森から全国に広げる。健康増進ウオーキングを店内で展開するイオンや、健康レシピコンテストをウェブで手がける楽天など、業種も多彩だ」
―一般的に研究機関は全国や世界に目が行きがちです。「地域とともに」を真っ先に挙げられる理由は。
「弘前大医学部の前進は青森医学専門学校で、1945年7月の青森大空襲後に青森師範学校とともに移転してきた。この時、弘前市から年間予算を超える規模の支援を受けた。また学生の4割が県内出身者の上、人口が17万人の市で学園祭の来訪者は1万人に及ぶ。あらゆる面で地域とともにある」
―弘前大の育成した果肉まで赤いリンゴは、包丁を入れてびっくり、魅力的です。
「皮をむいても抗酸化物資ポリフェノールが食べられる点も売りだ。県の食料自給率は120%だが、価格ベースでは240%にもなる。これは県の1次産品はより高付加価値だと意味する。食品の成分分析などで本学が産業を後押しする」
―厳しい自然環境を逆手にとった「北日本新エネルギー研究所」もユニークです。
「津軽海峡の潮流発電で、大間町のマグロ漁業を邪魔しない中程度の潮流地域に注目している。おこした電気は水産物養殖やナマコ密漁防止の設備に活用する。風車もより効果的な洋上設置に取り組む。学内外の賛同が得られる本学の重点テーマとなっている」
【記者の目】
県内大で看護学を修めるも上京してしまう人材の流出問題に対し、「奨学金や優遇策だけでなく、『地元で必要とされている』という使命感の醸成が必要だ」と強調する。地域とともに進む自負と自信。これに悩んでいる大学関係者にはぜひ、弘前大を紹介したい。
(文=山本佳世子)
科学技術を核に社会を変えることを正面から掲げる文部科学省の大型事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」。2016年の中間評価が好成績で注目されるのが弘前大学だ。
短寿命県の悪評を返上すべく、同大は青森県、弘前市などと同市内の住民の生活習慣や600項目の血液生化学データを集める健康診断を十数年間、続けてきた。
大病院における患者データと違い、健康人延べ2万人のビッグデータと言える。これを自社の健康ビジネスに活用したい企業など50機関ほどが、弘前大のCOIに参加している。
企業の独自データをCOIのビッグデータと組み合わせることで、「認知症と握力に相関がある」など予想外のかかわりが見つかっている。
また、COIの場を利用して開発製品の大規模実証試験ができるのも魅力だ。ベルト型内臓脂肪計を開発した花王、唾液検査による歯周病把握に取り組むライオンなどが代表例。さらにショッピングセンターでのウォーキングイベントと関連づけるイオンや、健康料理レシピのコンテストを手がける楽天など、業種の幅は広い。
この健診データベースについて、同大では医学部を中心に総力を挙げて取り組んできた。住民100人に対し、教授や研究者、事務職員、医学生などスタッフ300人が対応。高齢者対応で早朝6時にスタートし、15時までの検査が連日続くという。
これを自治体とともに継続できる結束力が、地方大学の強みでもある。世界最先端の研究発表を重視する旧帝大など研究型大学とは、別次元の価値を地域社会に示している。
佐藤敬学長インタビュー
―文部科学省の大型産学連携事業「センター・オブ・イノベーション(COI)」プログラムでの弘前大拠点には約50機関が参加。東京のシンポジウムには約600人が集まりました。
「強みは、県とともに約600項目の健康診断データを10年以上、集めてきた住民健診だ。目標も短命県返上と明確だ。参加企業はそれぞれの健康増進の製品や活動の効果を実証し、青森から全国に広げる。健康増進ウオーキングを店内で展開するイオンや、健康レシピコンテストをウェブで手がける楽天など、業種も多彩だ」
―一般的に研究機関は全国や世界に目が行きがちです。「地域とともに」を真っ先に挙げられる理由は。
「弘前大医学部の前進は青森医学専門学校で、1945年7月の青森大空襲後に青森師範学校とともに移転してきた。この時、弘前市から年間予算を超える規模の支援を受けた。また学生の4割が県内出身者の上、人口が17万人の市で学園祭の来訪者は1万人に及ぶ。あらゆる面で地域とともにある」
―弘前大の育成した果肉まで赤いリンゴは、包丁を入れてびっくり、魅力的です。
「皮をむいても抗酸化物資ポリフェノールが食べられる点も売りだ。県の食料自給率は120%だが、価格ベースでは240%にもなる。これは県の1次産品はより高付加価値だと意味する。食品の成分分析などで本学が産業を後押しする」
―厳しい自然環境を逆手にとった「北日本新エネルギー研究所」もユニークです。
「津軽海峡の潮流発電で、大間町のマグロ漁業を邪魔しない中程度の潮流地域に注目している。おこした電気は水産物養殖やナマコ密漁防止の設備に活用する。風車もより効果的な洋上設置に取り組む。学内外の賛同が得られる本学の重点テーマとなっている」
【記者の目】
県内大で看護学を修めるも上京してしまう人材の流出問題に対し、「奨学金や優遇策だけでなく、『地元で必要とされている』という使命感の醸成が必要だ」と強調する。地域とともに進む自負と自信。これに悩んでいる大学関係者にはぜひ、弘前大を紹介したい。
(文=山本佳世子)
日刊工業新聞2017年1月19日/2月2日の記事を再編集