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「化学・繊維」の設備投資から見えてきた世界をリードする戦略。今年度はより高機能へ

総合化学6社は13%増の5200億円。機能化学は好調な電子材料、炭素繊維はクルマ向け強化
「化学・繊維」の設備投資から見えてきた世界をリードする戦略。今年度はより高機能へ

東レが買収したゾルテックの米セントルイスの拠点

 総合化学6社の15年3月期連結決算は、円安や高機能化学品の販売増を追い風に全社で経常増益となった。16年3月期も三菱ケミカルホールディングス住友化学旭化成、東ソーが営業利益で過去最高を更新する見通し。財務基盤も改善した結果、今期の設備投資額は6社合計で前期比12・6%増の5200億円に増える見込みだ。

 各社が注力するのは高機能化学品の海外生産増強、中国メーカーの供給過剰で採算が悪化した基礎化学品の再編だ。同12・2%増の1000億円を見込む旭化成は、シンガポールの自動車省燃費タイヤ用合成ゴム工場、タイの紙おむつ原料スパンボンド不織布工場の生産能力をそれぞれ倍増する。
 
 三菱ケミは連結子会社化した大陽日酸の設備投資が加わることもあり同29・0%増の2130億円。米国の食品包装材、インドネシアの紙おむつ用透湿性フィルム生産を増強する一方、インドのポリエステル繊維原料の生産コスト低減に向けた改良も行う。住友化学は同16・3%増の980億円。11日にエチレン生産設備を停止した千葉工場(千葉県市原市)の再構築を進める。
 
 機能化学は好調な電子材料を柱に

 信越化学工業、日立化成、JSR、日本ゼオン、トクヤマ、住友ベークライトの機能化学6社は、スマートフォン、タブレット端末(携帯型情報端末)、テレビ用パネルの需要増を背景に、収益性の高い半導体関連や光学フィルムといった電子材料事業を設備投資の柱に位置付ける。自動車で進む電装化も追い風。6社が計画する2016年3月期の設備投資は合計2752億円となり、前期を18・5%上回る見通し。

 原油価格の影響を受けやすい石油化学系事業の減速を、好調な電子材料事業で補う構図。半導体や太陽電池向け材料、大型フィルムといった分野は引き続き堅調な需要が期待できる。設備投資の多くを、フォトレジストや封止材など半導体関連材料の増産に充てる。日立化成は生産拠点の合理化や検査・梱包工程の自動化も進める。

 ここ数年、電子材料の需要は減少するとの見方が多かった。スマートフォンは、パソコンや大型テレビに比べると1台当たりに使う量が少なく、需要が伸び悩んだためだ。だが、足元では半導体は自動車などにすそ野が拡大。液晶パネルもスマホなどの大画面化で、まとまった需要を期待できる環境に変わっている。

 繊維は車向け炭素繊維を加速

 東レ帝人、東洋紡の繊維3社合計の2015年度設備投資計画は、前年度比17・2%増の2040億円となった。このうち東レは同10・5%増の1420億円を計画する。炭素繊維関連では、米国子会社であるトーレ・コンポジッツ(アメリカ)で、プリプレグ(炭素繊維樹脂含浸シート)設備の増強を進めている。

 さらに自動車用途では、価格競争力のあるラージトウ炭素繊維の開発を進めて対応していく方針。足元では米子会社のゾルテックで生産設備を増強しており、メキシコ工場(ハリスコ州)の生産能力を現状の約2倍となる年産5000トンに増やす。

 ゾルテックは、20年までに生産能力を現有の年産1万3000トン規模から倍増する構想を掲げており、今後も能力増強を図る方針だ。帝人の15年度の設備投資は440億円で、前年度の281億円から大幅に上積みする計画。詳細は明らかにしていないが、炭素繊維やアラミド繊維といった高機能繊維・複合材料、ヘルスケアなどの投資が中心となっている。

 ※日刊工業新聞では業界別に「点検・設備投資」を掲載中
日刊工業新聞2015年05月29日「点検・設備投資」から一部抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
やはり自動車向けが確実に増えつつある。事業ポートフォリオの収益変動をにらみながら、「自動車の材料革命」にどれだけミートしていくか注目。M&Aの戦略投資も活発化しそう。

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