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航空機の生産効率をグーンとアップさせた川崎重工の実力

航空機のモノづくりにバイク生産のノウハウ
航空機の生産効率をグーンとアップさせた川崎重工の実力

民間向けヘリコプターを生産する岐阜工場

 川崎重工業は1999年に、ブラジル航空機メーカーであるエンブラエルのリージョナルジェットの開発・生産に参画した。主翼や中央翼など主要部位を担当したが、「増産やコストダウン要求は、ビジネスとして成立しないものだった」と副社長の石川主典は振り返る。生産性と高い品質が求められる航空機部品。常識を覆す要求に、04年当時の責任者はある決断をする。

「匠の技」から標準化へ


 2輪車や油圧機器など、量産系に適用していた独自の生産技術「カワサキプロダクションシステム(KPS)」の導入に踏み出した。「これをやっていなかったら、今の航空宇宙カンパニーはないに等しい」。石川はこう断言する。

 ただ、量産品と航空機では生産思想が異なる。ラインで生産する量産品と、一つの場所でじっくり組み上げる航空機部品。「生産技術はまったく違うと思っていた」という石川の言葉通り、航空機部門でのKPS導入には反発もあった。

 現場で問題が発生すれば、匠(たくみ)の技でなんとかやりくりする。航空機の現場では「問題を起こさないのが良い職場」(石川)という風潮がまん延していた。

 KPSは各作業者・工程の標準時間を設定。5分から10分間隔の細かな作業時間を定め、決められた通りにこなすのが鉄則だ。安定して目標時間を短くできれば、それがチャンピオンタイムとなる。例えば、岐阜工場(岐阜県各務原市)では04年にKPSを導入。民間向けヘリコプターの組み立てで、1機当たりの工数を3分の1に減らせた。

超円高時代は「血のにじむコスト削減」


 石川は「KPSはものすごく体系的で、航空機部門にも大きな改善効果をもたらした」と強調。「KPS以前のやり方には、もう戻れない」と続ける。

 米ボーイングの中大型機「787」向け胴体部品の生産開始時は、1ドル=80円台の超円高時代だった。「血のにじむようなコスト削減をやった」と石川。それは地道な改善活動の積み重ねだ。ここでも、KPSが大きく貢献したことは言うまでもない。

(敬称略)

*日刊工業新聞で「挑戦する企業 ―川崎重工業―」を連載中です*
日刊工業新聞2017年2月16日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
航空機産業のモノづくりの現場を見て回ると分かるのですが、最先端の材料や高い加工精度を実現している一方、生産技術は驚くほどローテクです。記事にもあるように、その道何十年の「匠」の方々を中心に、多くの人が手作業で一生懸命つくっているのです。量産数の少なさもあるのでしょう。 匠の技の伝承は大事ですが、航空機市場の拡大を踏まえると、もっともっと生産工程は自動化・標準化できそうです。

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