自動車摩擦の再燃は回避?首脳会談「大変喜ばしいこと」(トヨタ社長)
トランプ・安倍、満面の笑みの後に待っている二国間交渉
トヨタ自動車の豊田章男社長は11日、安倍晋三首相とトランプ米大統領による日米首脳会談を受けて、「経済界としても大変喜ばしいこと。話し合いで両国の発展、ひいては世界平和につながることを祈っていきたい」と述べた。静岡県湖西市で開かれた「豊田佐吉翁生誕150年記念式典」の会場で記者団の取材に応じた。
また、豊田社長は「自由で公平な取引をベースに考えていくと両者がおっしゃっていたので、産業界としては心強く聞いた」と強調。麻生太郎副総理とペンス副大統領による日米経済対話の枠組みについては、「国と産業界がいろいろな形で力を合わせながら、心を合わせながら両国の発展を考えられる、いい話し合いの場を設定いただいたと思っており、大変ありがたい」と期待を述べた。
トランプ米大統領の就任後、初の日米首脳会談が10日午後(日本時間11日未明)、米ワシントンで開かれた。両首脳は日米同盟と経済関係を一層強化することで一致。麻生太郎副総理とペンス副大統領らによる経済協議枠組みの創設で合意したものの、現時点で懸念された日米自動車摩擦が再燃する可能性が消えたわけではない。
「米国の主要貿易相手国は、米国が相手国市場に依存するよりもはるかに米国市場に依存している。米国との貿易戦争よりも、米国に協力することを選ぶ」―。
米国の貿易政策に関わる国家通商会議のピーター・ナバロ議長と商務長官に指名された著名投資家ウィルバー・ロス氏が2016年9月に連名で公表したリポート、通称「ナバロ・ロスリポート」。
そこには、米国が世界最大の経済国・輸入国であるため、中国や日本などの対米貿易黒字国は二国間交渉で迫れば、貿易収支の改善を図ることは可能といった見方を示している。みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員は「最悪のシナリオで米国車の輸入や米国製自動車部品の購入などで何らかの数値目標を求めてくる可能性がある」と見る。
過去の日米自動車摩擦では、日本の自動車業界は“自主的”に数値目標を掲げ、対米輸出を抑制し、米国製自動車部品の調達を拡大した。
トヨタ自動車の「75年史」によると、同社は85年9月、通商産業省(現経済産業省)に同年と86年の輸入計画を提出。自動車資材、部品のほか、ヘリコプターや工作機械、さらにトヨタ生活協同組合で販売する日用品などの輸入拡大を検討したという。
輸入額は、85年に前年を130億円上回る600億円、86年には700億円を予定し、さらに計画を上回るペースで輸入の拡大に努めたと振り返っている。
この歴史が繰り返される可能性はゼロではない。トランプ氏がツイッターで批判した企業は株価が下がる場合があり、「大統領に反論しにくい雰囲気がある」(米国の専門家)との声が聞かれる。
「60年近く米国社会に根ざして事業を推進し雇用、投資だけでなくトヨタ生産方式を通じて他産業、サービスにも貢献してきた」。6日に開かれたトヨタの16年4―12月期決算会見。相次いだトランプ政権に関する質問に対し大竹哲也常務役員はこう述べた。
「その町一番の自動車会社」。豊田章男社長や幹部は、最近この言葉を繰り返す。トヨタは「世界一」ではなく「その町一番」を目指すことを基本に海外展開を進めてきた。米国も例外ではない。
日本車として初めて4輪生産で米国進出したホンダも思いは同じ。倉石誠司副社長は「お客さまのいるところで生産し雇用し税金を納め、地域貢献しながら成長するポリシーだ」と話す。
日本自動車工業会などによれば日本車メーカーの米国内の生産台数は92年以降、輸出台数を上回り、15年は米国生産台数の約3割を占める386万台を生産した。直接雇用は約9万人、関連産業を含めると150万人の雇用を創出している。
08年秋のリーマン・ショックから復帰した米国市場は堅調に推移しそうだ。トヨタは1月の北米国際自動車ショーで今後5年間に米国で100億ドル(約1兆1000億円)を投じる計画を表明。富士重工業も「米国工場の能力増強を続けて現地化を進めていく」(高橋充取締役専務執行役員)。今後も日本車の対米投資は続くだろう。
対米投資拡大の一方で、日本から米国への輸出が日本のモノづくりを支えているのも事実。国内からの輸出台数で米国は最大の仕向け地だ。生産技術の開発や技能伝承、調達網の維持に、少なくともトヨタは年300万台、日産自動車は年100万台の国内生産が必要だとしている。
12年前後の超円高期の反動で、米国向けを中心に足元の輸出台数は拡大傾向にある。仮に日米間の貿易ルールや為替政策が急激に変われば、国内のモノづくりの存続に関わる事態に発展する可能性もある。
デンソーの松井靖常務役員は「日本から輸出する製品は、リーマン・ショック時に掲げた『80円でも勝てる競争力』を必ず実現することで乗り切りたい」と話す。
豊田自動織機も「まさかの事態が起きたときに対応できる力を蓄える。原価改善など日々やっていることを愚直に続ける」(河井康司常務役員)と万全を期す。
「ブランドは日本かもしれないが、我々も米メーカーの一つじゃないですかということは理解していただきたい」。米国に根ざしてきた自負があるだけに、豊田社長は切実だ。
「日本の自動車産業が米国で現地生産して、開発までして地域に根ざす企業努力をしているので、しっかりとご説明してもらえれば」(八郷隆弘ホンダ社長)、「自由な貿易体制をこれからも続ける視点で、世界経済の発展に寄与してもらえるよう、有益な議論をしてほしい」(高橋富士重専務)。日本の自動車産業が首脳会談に注目している。
また、豊田社長は「自由で公平な取引をベースに考えていくと両者がおっしゃっていたので、産業界としては心強く聞いた」と強調。麻生太郎副総理とペンス副大統領による日米経済対話の枠組みについては、「国と産業界がいろいろな形で力を合わせながら、心を合わせながら両国の発展を考えられる、いい話し合いの場を設定いただいたと思っており、大変ありがたい」と期待を述べた。
「経済協議」枠組み創設も、消えない懸念
トランプ米大統領の就任後、初の日米首脳会談が10日午後(日本時間11日未明)、米ワシントンで開かれた。両首脳は日米同盟と経済関係を一層強化することで一致。麻生太郎副総理とペンス副大統領らによる経済協議枠組みの創設で合意したものの、現時点で懸念された日米自動車摩擦が再燃する可能性が消えたわけではない。
「ナバロ・ロスリポート」の存在
「米国の主要貿易相手国は、米国が相手国市場に依存するよりもはるかに米国市場に依存している。米国との貿易戦争よりも、米国に協力することを選ぶ」―。
米国の貿易政策に関わる国家通商会議のピーター・ナバロ議長と商務長官に指名された著名投資家ウィルバー・ロス氏が2016年9月に連名で公表したリポート、通称「ナバロ・ロスリポート」。
そこには、米国が世界最大の経済国・輸入国であるため、中国や日本などの対米貿易黒字国は二国間交渉で迫れば、貿易収支の改善を図ることは可能といった見方を示している。みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員は「最悪のシナリオで米国車の輸入や米国製自動車部品の購入などで何らかの数値目標を求めてくる可能性がある」と見る。
過去の日米自動車摩擦では、日本の自動車業界は“自主的”に数値目標を掲げ、対米輸出を抑制し、米国製自動車部品の調達を拡大した。
トヨタ自動車の「75年史」によると、同社は85年9月、通商産業省(現経済産業省)に同年と86年の輸入計画を提出。自動車資材、部品のほか、ヘリコプターや工作機械、さらにトヨタ生活協同組合で販売する日用品などの輸入拡大を検討したという。
輸入額は、85年に前年を130億円上回る600億円、86年には700億円を予定し、さらに計画を上回るペースで輸入の拡大に努めたと振り返っている。
この歴史が繰り返される可能性はゼロではない。トランプ氏がツイッターで批判した企業は株価が下がる場合があり、「大統領に反論しにくい雰囲気がある」(米国の専門家)との声が聞かれる。
トヨタは「世界一」ではなく「その町一番」
「60年近く米国社会に根ざして事業を推進し雇用、投資だけでなくトヨタ生産方式を通じて他産業、サービスにも貢献してきた」。6日に開かれたトヨタの16年4―12月期決算会見。相次いだトランプ政権に関する質問に対し大竹哲也常務役員はこう述べた。
「その町一番の自動車会社」。豊田章男社長や幹部は、最近この言葉を繰り返す。トヨタは「世界一」ではなく「その町一番」を目指すことを基本に海外展開を進めてきた。米国も例外ではない。
日本車として初めて4輪生産で米国進出したホンダも思いは同じ。倉石誠司副社長は「お客さまのいるところで生産し雇用し税金を納め、地域貢献しながら成長するポリシーだ」と話す。
日本自動車工業会などによれば日本車メーカーの米国内の生産台数は92年以降、輸出台数を上回り、15年は米国生産台数の約3割を占める386万台を生産した。直接雇用は約9万人、関連産業を含めると150万人の雇用を創出している。
08年秋のリーマン・ショックから復帰した米国市場は堅調に推移しそうだ。トヨタは1月の北米国際自動車ショーで今後5年間に米国で100億ドル(約1兆1000億円)を投じる計画を表明。富士重工業も「米国工場の能力増強を続けて現地化を進めていく」(高橋充取締役専務執行役員)。今後も日本車の対米投資は続くだろう。
対米投資拡大の一方で、日本から米国への輸出が日本のモノづくりを支えているのも事実。国内からの輸出台数で米国は最大の仕向け地だ。生産技術の開発や技能伝承、調達網の維持に、少なくともトヨタは年300万台、日産自動車は年100万台の国内生産が必要だとしている。
12年前後の超円高期の反動で、米国向けを中心に足元の輸出台数は拡大傾向にある。仮に日米間の貿易ルールや為替政策が急激に変われば、国内のモノづくりの存続に関わる事態に発展する可能性もある。
デンソーの松井靖常務役員は「日本から輸出する製品は、リーマン・ショック時に掲げた『80円でも勝てる競争力』を必ず実現することで乗り切りたい」と話す。
豊田自動織機も「まさかの事態が起きたときに対応できる力を蓄える。原価改善など日々やっていることを愚直に続ける」(河井康司常務役員)と万全を期す。
「ブランドは日本かもしれないが、我々も米メーカーの一つじゃないですかということは理解していただきたい」。米国に根ざしてきた自負があるだけに、豊田社長は切実だ。
「日本の自動車産業が米国で現地生産して、開発までして地域に根ざす企業努力をしているので、しっかりとご説明してもらえれば」(八郷隆弘ホンダ社長)、「自由な貿易体制をこれからも続ける視点で、世界経済の発展に寄与してもらえるよう、有益な議論をしてほしい」(高橋富士重専務)。日本の自動車産業が首脳会談に注目している。
日刊工業新聞2017年2月10「深層断面」の記事を加筆・修正[